日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL30] 地球年代学・同位体地球科学

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

[SGL30-P08] ジルコンFT熱年代に基づく茂住祐延断層(跡津川断層帯)の熱史解析

*末岡 茂1郁芳 隋徹2長谷部 徳子3田上 高広4 (1.日本原子力研究開発機構、2.龍谷大平安高校、3.金沢大学、4.京都大学)

キーワード:断層帯の年代測定、茂住祐延断層、ジルコンFT法、熱史解析

断層運動に伴う熱の発生と輸送の定量的評価は,地震発生時の断層の応力や,地殻の熱収支や温度構造,地殻変動史などの理解に重要である.一方,断層帯沿いの熱異常の原因は,断層変位による隆起・沈降,断層のずれに伴う摩擦発熱,断層帯をパスとした高温流体の移流など多様であり(Tagami, 2012, Tectonophys.),各要因がどのような温度および時空間スケールの熱異常をもたらすかを評価する必要がある.跡津川断層帯は平均変位速度2~3mm/yrに達する国内最大級の活断層の一つである(磯ほか,1980,地理評;地震調査研究推進本部,2004,「跡津川断層帯の長期評価」http://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/47_atotsugawa.pdf).茂住祐延断層は,跡津川断層帯を構成するセグメントの一つであるが,陸域地下構造フロンティア計画によって断層破砕帯を貫く調査坑道が掘削されており,2本の主要な破砕帯を含む全長約480mの連続露頭の観察が可能となっている(伊藤ほか,1998,月刊地球号外).本研究では,茂住祐延断層周辺の熱異常の評価を目的として,本調査坑道内で採取された岩石試料について,ジルコンフィッション・トラック(FT)法による熱史解析を実施した.採取地点は全14点で,試料はいずれも手取層群の砂岩または泥岩である.FT年代は110.3~73.3Ma,FT長は平均値で7.1~9.0μmが得られた.FT年代やFT長は,断層岩の破砕度(Tanaka, 2007, In “Geodynamics of Atotsugawa Fault System”)とは明瞭な相関を示さず,断層破壊時の摩擦発熱による被熱を反映している可能性は低い.これらのジルコンFTデータを基に,HeFTy ver. 1.9.3(Ketcham, 2005, Rev. Min. Geochem.)を用いた熱史逆解析を行ったところ,試料MSF-6とMSF-9の2地点を除くすべての試料が,見かけ年代より若い30~20Ma頃の最終冷却を示唆した.本地域周辺には,日本海拡大前後の火成岩類が分布しており(高橋・周藤,1999,地質雑など),これらの火成活動に関連した加熱を被った可能性が考えられる.しかし,坑道の深度を考慮すると,火砕岩堆積時の地表からの熱伝導のみではジルコンのFTを短縮させることは困難である(c.f. 松崎ほか,2004,応用地質).測定した岩石にはパイライトが含まれていたことを合わせて考えると,高温流体の滞留が関与している可能性が疑われるが,ジルコンFT法で検出された加熱イベントに対応して形成された直接的な証拠はない.熱源の絞り込みのためには,さらなる追加分析が望まれる.今後の主な課題としては,以下が挙げられる:1)二次的加熱を受けていない手取層群の露頭試料の分析による,バックグラウンドの熱史の制約,2)加熱期間によってジルコンFT法との閉鎖温度の大小関係が逆転するジルコン(U-Th)/He法(Tagami & Farley, in prep.)との比較による,被熱時間の半定量的評価,3)アパタイトFT年代やK-Ar法など,閉鎖温度が異なる他の熱年代計を用いた被熱温度・範囲のより詳細な検討.