[SGL31-P07] 伊豆弧の衝突の前縁としての神縄断層の構造解析と圧縮応力方向
キーワード:伊豆弧の衝突、神縄断層、Hough法、フィリピン海プレート、圧縮応力
伊豆弧の衝突のテクトニクスを解明するためには,衝突帯における古応力方向の情報は非常に重要な手掛りとなる.本研究では,フィリピン海プレートと本州側のプレートの境界を構成する断層の一つとされている神縄断層の構造データを用い,応力逆解法による古応力解析を行ったのでその結果を報告する.
従来の同断層の古応力解析では,共役断層の解析などにより単一の古応力を解析するに留まっていたが,昨今の応力解析の手法の発展に伴い,複数の古応力を検出できる応力逆解析法が開発されている.そのため本研究では,Hough変換 (Leavers, 1992) を応用した応力逆解析法の一つであるHough法 (Yamaji et al., 2006) を適用し解析を試みた.応力逆解析法で使う断層スリップデータセットは, 断層方向, すべり方位, 剪断センスの3つからなる.さらにHough法ではすべり方位もしくは剪断センスが欠けているデータと完全データを,分析において混合して使用することができる (Sato, 2006). また解析では, 得られたデータ数が不足していたため,本研究の調査結果だけでなく,同断層における先行研究である狩野ほか (1988) と星野・長谷 (1977) のデータも加えて解析を行った.神縄断層の活動セグメントは,同断層を南北に横切る河内川を境に,西部 (塩沢断層系) と東部 (狭義の神縄断層系) で分けられている(産総研,活断層データベース,https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.html). そこで,本研究の解析も分けて行った結果,卓越応力は西部でNW-SE方向のσ 1と鉛直方向のσ 3,東部では,ENE-WSW方向のσ 1とNNW-SSE方向のσ 3が検出された.
ここで,河内川以西のデータから得られたNW-SE方向のσ1を先行研究の結果と比較すると,Huchon and Kitazato (1984) や天野ほか (1986) が足柄層群中の小断層系を解析した結果として示しているNW-SE方向の水平圧縮応力と一致している.このNW-SE方向のσ 1については,1.0Ma以降のフィリピン海プレートの沈み込み方向(Imanaga, 1999) と一致し,その時期の古応力方向を反映しているものと考えられる.一方,東部のデータから得られたENE-WSW方向のσ1については,足柄層群堆積後に生じたNNW-SSE方向に軸をもつ大きな背斜構造をもたらした可能性のある圧縮応力方向と一致している.ただし,東部では断層露頭が限られておりデータ数が未だ少ないことから,今後データ数を増やして,より確からしい古応力方向について議論する予定である.
文献
天野一男・高橋治之・立川考志・横山健治・横田千秋・菊池 純, 1986, 北村 信教授記念論文集, 7–29.
Huchon, P. and Kitazato, H., 1984, Tectonophysics, 110, 201–210.
星野一男・長谷紘和, 1977, 地質雑, 83, 62–64.
Imanaga, 1999, Bull. Kanagawa prefect. Mus. (Nat. Sci.), 28, 73–106.
狩野謙一・染野 誠・上杉 陽・伊藤谷生, 1988, 静岡大地球科学研報, 14, 57–83.
Leavers, V. F., 1992, Springer-Verlag, London, 201p.
Sato, K, 2006, Tectonophysics, 421, 319–330.
Yamaji, A., Otsubo, M, and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980–990.
従来の同断層の古応力解析では,共役断層の解析などにより単一の古応力を解析するに留まっていたが,昨今の応力解析の手法の発展に伴い,複数の古応力を検出できる応力逆解析法が開発されている.そのため本研究では,Hough変換 (Leavers, 1992) を応用した応力逆解析法の一つであるHough法 (Yamaji et al., 2006) を適用し解析を試みた.応力逆解析法で使う断層スリップデータセットは, 断層方向, すべり方位, 剪断センスの3つからなる.さらにHough法ではすべり方位もしくは剪断センスが欠けているデータと完全データを,分析において混合して使用することができる (Sato, 2006). また解析では, 得られたデータ数が不足していたため,本研究の調査結果だけでなく,同断層における先行研究である狩野ほか (1988) と星野・長谷 (1977) のデータも加えて解析を行った.神縄断層の活動セグメントは,同断層を南北に横切る河内川を境に,西部 (塩沢断層系) と東部 (狭義の神縄断層系) で分けられている(産総研,活断層データベース,https://gbank.gsj.jp/activefault/index_gmap.html). そこで,本研究の解析も分けて行った結果,卓越応力は西部でNW-SE方向のσ 1と鉛直方向のσ 3,東部では,ENE-WSW方向のσ 1とNNW-SSE方向のσ 3が検出された.
ここで,河内川以西のデータから得られたNW-SE方向のσ1を先行研究の結果と比較すると,Huchon and Kitazato (1984) や天野ほか (1986) が足柄層群中の小断層系を解析した結果として示しているNW-SE方向の水平圧縮応力と一致している.このNW-SE方向のσ 1については,1.0Ma以降のフィリピン海プレートの沈み込み方向(Imanaga, 1999) と一致し,その時期の古応力方向を反映しているものと考えられる.一方,東部のデータから得られたENE-WSW方向のσ1については,足柄層群堆積後に生じたNNW-SSE方向に軸をもつ大きな背斜構造をもたらした可能性のある圧縮応力方向と一致している.ただし,東部では断層露頭が限られておりデータ数が未だ少ないことから,今後データ数を増やして,より確からしい古応力方向について議論する予定である.
文献
天野一男・高橋治之・立川考志・横山健治・横田千秋・菊池 純, 1986, 北村 信教授記念論文集, 7–29.
Huchon, P. and Kitazato, H., 1984, Tectonophysics, 110, 201–210.
星野一男・長谷紘和, 1977, 地質雑, 83, 62–64.
Imanaga, 1999, Bull. Kanagawa prefect. Mus. (Nat. Sci.), 28, 73–106.
狩野謙一・染野 誠・上杉 陽・伊藤谷生, 1988, 静岡大地球科学研報, 14, 57–83.
Leavers, V. F., 1992, Springer-Verlag, London, 201p.
Sato, K, 2006, Tectonophysics, 421, 319–330.
Yamaji, A., Otsubo, M, and Sato, K., 2006, Jour. Struct. Geol., 28, 980–990.