日本地球惑星科学連合2018年大会

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[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP37] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

[SMP37-P15] 長野県大鹿村周辺の鹿塩マイロナイトの変形-変成作用

*中村 佳博1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

キーワード:Mylonite、Median Tectonic Line、Ryoke metamorphic belt、Sambagawa metamorphic belt

鹿塩マイロナイトは長野地域の中央構造線における代表的な花崗岩質マイロナイトの一つである (e.g., Takagi, 1986; Michibayashi, 1993).鹿塩マイロナイトの大部分は非時トーナル岩からなり、中央構造線の中軸部に向かいマイロナイト化が進行する.本地域ではマイロナイト中の再結晶石英がP-typeを示し,高温・低歪速度で形成されたことが報告されている(Hayashi and Takagi, 1987). これは変形後の南向花崗閃緑岩の貫入による焼きなましによる改変であると示唆されてきた.しかしながらマイロナイト化に伴う変成作用やその後の熱変成に関する研究はほとんど行われておらず,変成作用も考慮に入れた中部地域の中央構造線活動史を議論する必要がある.そこで本研究では花崗岩質マイロナイトに狭在する泥質マイロナイトに注目し,マイロナイト化に関連した温度圧力条件の推定を試みた.

研究地域の大鹿村周辺には,分杭峠から地蔵峠に向かい南北20km東西約500mにわたり鹿塩マイロナイトが分布している.中軸部はカタクレーサイト化が進行しており,領家花崗岩と三波川変成岩の境界部には約3m幅の断層ガウジが分布している.この断層ガウジはNNE-SSW走向で低角なプランジを持つ右横ずれセンスを示す.一方でマイロナイトはすべて低角なプランジを持つ左横ずれセンスを示すのが特徴である.中央構造線から約500m離れた地域では片理を構成する黒雲母と白雲母のマイカフィッシュが特徴的な黒雲母-ザクロ石片麻岩が非時トーナル中に層状に分布する.ザクロ石はコアからリムに向かいXAlmとXPrp成分の低下を示し, 片理中の黒雲母はXMg [= Mg/(Mg+Fe)] = 0.45~0.54の値を示す.中軸部に近づくと泥質岩起源のマイロナイトは数cmから数十cmの白色層として観察される.鏡下では再結晶石英・カリ長石ポーフィロクラストとザクロ石・電気石・再結晶化した雲母類で構成されている. マイロナイト面を構成する黒雲母はXMg = 0.2~0.26を示し,変形の弱いマイロナイト中の黒雲母とは明瞭な化学組成の違いを示す.さらにザクロ石はコアからマントル・リムに向かい2段階のXGrs成分の顕著な増加が確認できる.これらの観察をもとに既存の地質温度計と圧力計を適用すると, 変形の弱い泥質岩マイロナイトの変成条件は~590℃,0.2GPaであるのに対し中軸部マイロナイトの変成リムは~540℃,0.9 GPaの温度圧力条件で形成されたことが示唆された.前者は伊那地域における領家変成岩の温度圧力条件 (Hokada, 1998)に対応するのに対して後者は三波川変成帯のgarnet 帯からalbite-biotite帯の温度圧力条件に一致する (Enami et al., 1994).この結果は後期の熱変成作用によってマイロナイトが再結晶化したのではなく,マイロナイト化が進行する過程で三波川変成作用に対応する複変成作用によって獲得した可能性を示唆している.このように鹿塩マイロナイト中軸部での明瞭な温度低下と圧力増加は中央構造線に沿ったマイロナイトの単純な上昇テクトニクスのみで説明することはできず,一度上盤側も中央構造線を境界に沈み込む変形・変成ステージがあったことを示唆している.本発表では,変成作用の解析に用いた泥質マイロナイトの結晶方位解析も組み合わせて議論を行う予定である.

[Reference: Takagi, 1986; JSG. Hayashi and Takagi, 1987; J. Geol. Soc. Jpn. Michibayashi, 1993; Tectonophysics. Hokada, 1998; Island Arc. Enami et al., 1994; CMP.]