[SMP38-P05] 改良型Lindsley輝石温度計を用いたHコンドライト隕石の変成温度解析
キーワード:Hコンドライト、Lindsley輝石温度計、変成温度、岩石タイプ
はじめに
これまで小惑星の熱進化モデルについては多くの研究者が議論を展開してきた(wood, 1979; Miyamoto et al., 1981; Yomogida and Matsui, 1984; McSween et al., 2002)。この熱進化モデルを考える上での重要なパラメーターとして,コンドライト隕石母天体の最高到達温度,年代,冷却速度などが挙げられている(McSween et al., 2002)。これらのパラメーターの中でも,母天体内部の最高到達温度については様々な地質温度計を用いて求められてきた(Olsen and Bunch, 1984; Nakamuta and Motomura, 1999; Kessel et al., 2002; Slater-Reynolds and McSween, 2005)。中でも,Lindsley(1983)による輝石温度計は他の温度計とは違い,同じ隕石内で斜方輝石(Opx)と単斜輝石(Cpx)の各々から温度を求めることができることから広く用いられてきた。しかし,これまで報告された単斜−斜方輝石間の温度差が50~100℃程度と大きいことから,斜方輝石と単斜輝石で得られる温度のどちらが実際の変成温度を表しているのか,多くの議論がなされてきた。これを受けて,Nakamuta et al (2017) は隕石中に存在する単斜輝石にコスモクロア輝石成分を考慮し,従来のLindsley輝石温度計にその成分を加えた改良型Lindsley輝石温度計を提案した。これにより, LLコンドライト隕石中の単斜輝石と斜方輝石から得られた変成温度の差が20℃未満と,従来の輝石温度計を用いた先行研究の結果より精度の高い結果が得られることを報告した。本研究ではNakamuta et al (2017)が考案した改良型Lindsley輝石温度計を用いて,Hグループに属する変成度の異なる3タイプの隕石の変成温度の推定を行った。ここでは,その結果の一部について報告する。
2. 試料と方法
本研究で用いた試料は,Mluga(north)(H6),Faucett(H5)である(NWA7875(H7)の結果についても報告する予定である)。まず,試料毎に薄片を作成し,偏光顕微鏡,反射顕微鏡を用いて組織観察を行った。その後,EPMA(JEOL JXA-8530F)を用いて,斜方輝石(Opx),単斜輝石(Cpx)に加え,カンラン石,斜長石の多結晶粒子に対する化学分析を行った。これらの結果を元に,各隕石試料の分類を再確認すると同時に,改良型Lindsley輝石温度計による変成温度解析を行った。
3. 結果と考察
隕石試料の組織観察及び化学分析の結果,各隕石の分類(H7, H6, H5)に間違いがないことを再確認した。改良型Lindsley輝石温度計による変成温度解析については,Mulga(north)(H6)では斜方輝石で804±37℃,単斜輝石で799±48℃という値が得られ,両者とも偏差が小さく,また,それらの平均値による温度差が5℃以下という結果が得られた。このことから,Nakamuta et al(2017)による改良型Lindsley輝石温度計はHコンドライト隕石でも有効であることが示唆される。H6タイプであるMulga(north)コンドライト隕石の変成温度はおよそ800℃であろうと考えられる。Faucett(H5)については,解析された温度の偏差(分布)が大きく,初生及び熱変成を受けた両輝石結晶が混在していると考えられる。本報告では,NWA7875(H7)の解析結果も加えて,Hコンドライト隕石の変成温度について統合的に議論する。
これまで小惑星の熱進化モデルについては多くの研究者が議論を展開してきた(wood, 1979; Miyamoto et al., 1981; Yomogida and Matsui, 1984; McSween et al., 2002)。この熱進化モデルを考える上での重要なパラメーターとして,コンドライト隕石母天体の最高到達温度,年代,冷却速度などが挙げられている(McSween et al., 2002)。これらのパラメーターの中でも,母天体内部の最高到達温度については様々な地質温度計を用いて求められてきた(Olsen and Bunch, 1984; Nakamuta and Motomura, 1999; Kessel et al., 2002; Slater-Reynolds and McSween, 2005)。中でも,Lindsley(1983)による輝石温度計は他の温度計とは違い,同じ隕石内で斜方輝石(Opx)と単斜輝石(Cpx)の各々から温度を求めることができることから広く用いられてきた。しかし,これまで報告された単斜−斜方輝石間の温度差が50~100℃程度と大きいことから,斜方輝石と単斜輝石で得られる温度のどちらが実際の変成温度を表しているのか,多くの議論がなされてきた。これを受けて,Nakamuta et al (2017) は隕石中に存在する単斜輝石にコスモクロア輝石成分を考慮し,従来のLindsley輝石温度計にその成分を加えた改良型Lindsley輝石温度計を提案した。これにより, LLコンドライト隕石中の単斜輝石と斜方輝石から得られた変成温度の差が20℃未満と,従来の輝石温度計を用いた先行研究の結果より精度の高い結果が得られることを報告した。本研究ではNakamuta et al (2017)が考案した改良型Lindsley輝石温度計を用いて,Hグループに属する変成度の異なる3タイプの隕石の変成温度の推定を行った。ここでは,その結果の一部について報告する。
2. 試料と方法
本研究で用いた試料は,Mluga(north)(H6),Faucett(H5)である(NWA7875(H7)の結果についても報告する予定である)。まず,試料毎に薄片を作成し,偏光顕微鏡,反射顕微鏡を用いて組織観察を行った。その後,EPMA(JEOL JXA-8530F)を用いて,斜方輝石(Opx),単斜輝石(Cpx)に加え,カンラン石,斜長石の多結晶粒子に対する化学分析を行った。これらの結果を元に,各隕石試料の分類を再確認すると同時に,改良型Lindsley輝石温度計による変成温度解析を行った。
3. 結果と考察
隕石試料の組織観察及び化学分析の結果,各隕石の分類(H7, H6, H5)に間違いがないことを再確認した。改良型Lindsley輝石温度計による変成温度解析については,Mulga(north)(H6)では斜方輝石で804±37℃,単斜輝石で799±48℃という値が得られ,両者とも偏差が小さく,また,それらの平均値による温度差が5℃以下という結果が得られた。このことから,Nakamuta et al(2017)による改良型Lindsley輝石温度計はHコンドライト隕石でも有効であることが示唆される。H6タイプであるMulga(north)コンドライト隕石の変成温度はおよそ800℃であろうと考えられる。Faucett(H5)については,解析された温度の偏差(分布)が大きく,初生及び熱変成を受けた両輝石結晶が混在していると考えられる。本報告では,NWA7875(H7)の解析結果も加えて,Hコンドライト隕石の変成温度について統合的に議論する。