日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP38] 鉱物の物理化学

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)

[SMP38-P06] ナノ秒時間分解XRDを用いたレーザー衝撃圧縮下での結晶構造変化の観察

*高木 壮大1,2一柳 光平2深谷 亮2野澤 俊介2川合 伸明3興野 純1船守 展正2足立 伸一2 (1.筑波大学、2.高エネルギー加速器研究機構、3.熊本大学)

キーワード:レーザー衝撃圧縮、時間分解XRD、結晶構造変化

1. はじめに
 衝撃波は巨大地震や隕石衝突など地球惑星内外で見られる現象である.特に,太陽系初期の履歴を残している地球外の岩石は衝突による変形や破壊を受けている場合が極めて多く,衝突現象が惑星進化の過程で多く起きていた.衝突による衝撃が惑星構成鉱物に与える影響はこれまで衝撃銃を用いた衝撃実験により調べられてきたが,この方法では衝撃下において結晶構造がどのようなに変化して最終状態に至っているのかを直接観察することはできない.そこで,衝撃下における鉱物の結晶構造変化を観察する新しい手段として,硬X線パルスを使ったレーザー衝撃圧縮時間分解XRD法が挙げられる.この方法を用いれば,動的圧縮下において,鉱物の結晶構造が変化していく過程を数ナノ秒間隔で観察でき,歪み速度の速い環境下における構造相転移の進行過程の解明に近づける.本研究では,衝撃圧力によって鉱物が構造相転移する過程をナノ秒の時間間隔で観察することを目指し,高エネルギー加速器研究機構(KEK)PF-AR NW14Aビームラインにレーザー誘起衝撃圧縮下でのナノ秒時間分解XRD測定システム,レーザー速度干渉計(Velocimetry Interferometer system for any reflector: VISAR)測定システムを整備し,まずは金属の構造変化の進行過程の観察を行った.

2. 実験方法
 実験はPF-AR NW14Aビームラインで行い,衝撃波発生にはNd:ガラスレーザーを用いた.衝撃波発生用レーザーは,波長1064 nm,パルス幅12 ns,最大出力約16 J/pulseのレーザーを用いた.試料前に設置した集光レンズにより,試料位置での集光径が約500 μm×500 μmになるように調節して実験を行った.
 時間分解XRD測定にはPF-ARの放射光X線パルスを使用した.X線エネルギーは15.68 keV,パルス幅は100 ps,集光径は約450 μm (H) × 250 μm (W)であった.レーザーパルスとX線パルスの照射タイミングは,遅延時間発生装置で制御し,レーザーの照射タイミングを変えて測定を繰り返し行い,衝撃圧縮後数ns間隔ごとのXRDパターンを得た.
 VISAR測定には,波長532 nmの固体レーザーを用い,ストリークカメラによって衝撃波が裏面に到達する前後200 nsの干渉縞のシフトを観察し衝撃圧縮状態を見積もった.
 測定試料は,厚さ50 μmの多結晶アルミニウム箔と,厚さ20 μmの多結晶鉄箔を用いた.これら金属箔表面にはアブレーターとして,表面にAl蒸着を施したPETフィルムを貼り付けた.

3. 結果と考察
 衝撃圧縮後数nsごとのアルミニウムのXRDパターン変化を連続的に測定し,少なくとも20 GPaの衝撃圧力を受けて圧縮されていく様子を観察した.この圧力はZaretsky et al.によって見積もられたアルミニウムのユゴニオ弾性限界を大きく上回っているおり[1],XRDパターン変化からも弾性変形から塑性変形に推移したと考えられる.VISAR測定の結果から,ピーク圧力約30 GPaの衝撃波が減衰しながら試料内部を進行していく様子を観察した.
 鉄は,衝撃圧縮後数nsごとのXRDパターン変化が得られ,圧縮過程において高圧相であるε相 (101) のピークが出現し,α-ε相転移が観察された.圧力解放過程ではε相 (101) のピークも減少し,脱圧後はα相に戻った.鉄は衝撃圧縮下で13 GPaの圧力でα-ε相転移を起こすことが知られており[2],本研究でも13 GPa以上の圧力を伴う衝撃波によって数ns間の圧縮過程に鉄がマルテンサイト型相転移を起こし,その後の脱圧過程で逆変化する様子を連続的に観察することに成功した.

[1] E. B. Zaretsky and G. I. Kanel: J. of Appl. Phys., 112, 073504 (2012).
[2] D. Bancroft, E. L. Peterson, and S. Minshall: J. Appl. Phys., 27, 291 (1956).