日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP38] 鉱物の物理化学

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)

[SMP38-P07] 硫化鉄ナノ粒子の成長に伴う結晶構造変化

*佐野 喜成1興野 純2田村 知也3高木 壮大3 (1.筑波大学生命環境学群、2.筑波大学生命環境系、3.筑波大学生命環境科学研究科)

キーワード:硫化鉄ナノ粒子、mackinawite、greigite、放射光粉末XRD、XAFS

嫌気的な海底堆積物や湖沼堆積物では,硫酸還元菌の作用によって硫化鉄ナノ粒子が生成される.硫化鉄ナノ粒子は,mackinawite (FeS) ,greigite (Fe3S4) ,pyrrhotite (Fe1-xS) ,pyrite (FeS2) の前駆物質として知られるが,その成長に伴う相転移メカニズムや結晶構造の変化過程は未だ明らかにされていない.そこで本研究では,硫化鉄ナノ粒子がmackinawiteとgreigiteへ変化する際の相転移メカニズムや構造変化を明らかにするために,水熱実験,走査型電子顕微鏡 (SEM) 観察,放射光粉末X線回折 (XRD) 実験,X線吸収微細構造 (XAFS) 実験を行った.
合成した黒色懸濁物質は,数10 nmの板状結晶から成り,粉末XRDパターンはmackinawiteの (001), (101), (200), (112) に相当する明瞭な回折ピークと (111), (211), (220), (312) に相当するブロードな回折ピークを示した.格子定数はa = 3.67 (1),c = 5.55 (5) Åであり,well-crystalline mackinawite (a = 3.67,c = 5.03 Å) に比べてc軸方向に著しい膨張が認められた.また,Sherrer の式から求めた結晶子サイズは2.83 nmであった.これらの特徴から,合成した黒色懸濁物質は,四面体配位の構造的な乱れを伴う結晶性の悪いmackinawiteのナノ粒子である.c軸方向への膨張は,水分子のインターカレーション (層間挿入) とFeS4四面体シートの歪みに由来すると考えられる.黒色懸濁物質は,加熱によって数100 nmの板状結晶へ変化した.加熱5時間から7日間の生成物の粉末XRD測定では,mackinawiteの (001), (101), (111), (200), (112), (211), (220), (312) に相当する明瞭な回折ピークが観察され,格子定数はa = 3.671 (1) から3.673 (3) ,c = 5.212 (9) から5.23 (1) Åであり,加熱前と比べてc軸方向に格子が縮小した.また,結晶子サイズは6.56から7.57 nmの範囲まで増加した.Mackinawiteの生成に加えてgreigiteの生成も確認され,加熱時間に伴って,試料中のgreigiteの割合は増加した.XANESの解析からは,加熱5時間から7日間ではFeの酸化数が1.89から2.00に増加していることが確認された.Greigiteの生成量の増加とFeの酸化数の増加が調和的であることから,Fe2+の部分的な酸化がgreigiteの生成を促進した可能性が示唆される.EXAFSの解析から,加熱5時間から7日間の試料では第1近接はFe-S結合であり,配位数はおよそ4,結合距離はおよそ2.24 Åで一定であった.
この結果は,greigiteの生成がmackinawiteの構造相転移によるものではない可能性を示唆しており, mackinawiteの部分的な相転移や,mackinawiteの溶解に伴う再沈殿によって引き起こされた可能性が考えられる.