日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 活断層と古地震

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所、共同)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)

[SSS08-P03] 活断層詳細デジタルマップ[新編]の作成(その2:立体活断層図)

*白澤 道生1横山 隆三1土屋 絵菜2下山 奈緒2佐々木 達哉2今泉 俊文3 (1.株式会社横山空間情報研究所、2.応用地質株式会社、3.東北大学)

キーワード:立体地形解析図、立体活断層図、数値標高モデル(DEM)

中田・今泉編(2002)による「活断層詳細デジタルマップ」の初版(以下,旧版と呼ぶ)から16年が経過し,その改訂版を新編として2018年3月に刊行した。新編の全体概要は宮内ほか(2018,本大会)で紹介される予定であるが,本発表では,新編の改訂内容のうち,立体活断層図について,その基図となる立体地形解析図の原理や活用例とともに紹介する。

新編では,研究者が判読した活断層を理解しやすいように,アナグリフ方式の立体活断層図を収録した。この立体活断層図は,小縮尺(参考縮尺380万分の1~90万分の1)では斜度図に,大縮尺(参考縮尺44.8万分の1~1.4万分の1)では地形図に活断層線を重ねて立体化したものである。立体化に際し必要になる数値標高モデル(DEM)は,国土地理院の基盤地図情報数値標高モデル10mメッシュ(標高)および5mメッシュ(標高)を使用した。また,国外については国土地理院の地球地図全球版を,湖沼については国土交通省の国土数値情報(湖沼)も併せて使用した。

立体活断層図の作成にあたっては,起伏を考慮して地域ごとに垂直倍率と紙面標高を設定した。アナグリフは,標高が高いほど視差(左右の画像のズレ)が大きくなり結像しづらくなる。このため,垂直倍率を断層帯ごとに適切な倍率(5倍または3倍)に設定した。紙面標高は原則0mとしたが,標高が高く起伏量が大きい地域(たとえば中部山岳地帯)では,100~500mの範囲で段階的に設定した。立体活断層図の作成範囲は,小縮尺では日本全域を対象としたが,大縮尺では活断層が分布している範囲とした。

小縮尺の立体活断層図の基図として用いた立体斜度図は,DEMから地表傾斜角を求めて可視化した斜度図を立体化したものである。このように,DEMの演算処理によって抽出された種々の地形特徴量を画像化したものを地形解析図と呼ぶ。活断層地形の判読に多用されている地形解析図の例として斜度図,陰影図,開度図が挙げられる。これらを立体化した立体地形解析図は,立体視の原理に基づいて画素毎に視差ズレを調整した左眼用画像と右眼用画像の対で構成されており,左眼には左眼用画像のみを、右眼には右眼用画像のみを見せると、所定の立体地形解析図が見えるものとなる。

 新編の立体活断層図は基盤地図情報の10mメッシュ及び5mメッシュのDEMを用いて作成されているが,最近では航空レーザ測量によって高解像度(メッシュサイズが50cm, 1m, 2mなど)及び高分解能(標高値がcmオーダーで算出可能)のDEM(詳細DEMと呼ぶ)の利用も可能になっている。詳細DEMは,メッシュサイズが小さい分,地表の起伏がきめ細かく識別できるので,沖積平野や河川沿いの微地形判読,地すべり地形や断層地形の詳細な形状把握等に有効である。本発表では,1mメッシュDEM(中日本航空株式会社提供)を用いた阿寺断層帯坂下付近の活断層の立体地形解析図の例と2mメッシュDEM(国土地理院)を用いた2011年福島県浜通りの地震に伴う地表地震断層の立体地形解析図の例を紹介する。なお,DEMが詳細であればあるほど微細な起伏をとらえることができるが,その分構造物の影響や土地の人工改変による不自然な起伏も大きく反映されるので,自然地形の把握には現場の地形・地質の調査は不可欠である。
 立体地形解析図は,正確な標高縮尺のもとに地形判読が可能であり,時系列画像や異なる地域の画像に対しても同じ基準での判読が可能である。また立体視画像観察のための特殊な訓練や技能を必要とせず,DEM及び地形解析図のデータが許すかぎり広範囲のシームレス画像の作成が可能である。立体地形解析図は,本書で提示した活断層地形の観察の他にも,広く学術調査,環境調査、災害調査,防災計画や開発計画の作成,資源探査,教材などの分野で利用されてきている。図種としては立体斜度図が最も多いが,立体地形図,立体開度図,立体衛星画像,立体空中写真などの要求も多い。特に航空レーザ測量DEMによる立体斜度図や立体開度図では植生に阻害されない詳細な地形観察が可能であり,地形・地質,災害・防災や資源探査の分野で利用されている。また衛星データから作成されたDEMによる立体地形解析図は,正確な地図が得られない海外の調査に利用されてきている。