日本地球惑星科学連合2018年大会

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[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 活断層と古地震

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所、共同)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)

[SSS08-P25] 南西諸島中部の与論島とその周辺海域の変動地形からみた応力軸

*後藤 秀昭1 (1.広島大学大学院文学研究科)

キーワード:地形アナグリフ、変動地形、離水サンゴ礁、与論島、数値標高モデル

1. はじめに 

 沿岸域の変動地形は,陸上地形と海底地形がそれぞれ別の分野で研究されており,統合的に検討された研究は少ない。分野の違いだけでなく,海陸を統合して俯瞰する詳細な地形資料に乏しいことによると考えられる。後藤(2014)は沿岸海底の地形データについて可能な限り収集して,数値標高モデル(DEM)を生成し,刊行済の陸上のDEMとあわせて,陸海を統合したDEMに基づく地形ステレオ画像を作成した。これにより陸上活断層の海底延長(後藤,2014)や海成段丘の分布を合理的に説明できる海底の活構造の認定(Goto,2016;後藤,2017)のほか,海面下の沈水段丘面の地形発達など,新知見がもたらされつつある(林ほか,2017)。

 本研究では,南西諸島中部の与論島とその周辺海域を対象に,陸上の数値表層モデルを生成するともに,海底地形の情報を収集して,海陸の地形を統合した詳細なステレオ画像を作成した。これを変動地形学的な手法で判読を行い,海陸の活断層の分布および,陸上の離水サンゴ礁地形と海底の平坦面の分布を明らかにした。

2.研究方法 

 陸上地形については,国土地理院のカラー空中写真をSfM-MVS技術を用いたソフトウェア(Agisoft社製 PhotoScan Professional 1.2.6)に取り込み,数値表層モデル(DSM)を生成して分析に用いた。空中写真は1977年の人工改変の少ない時期に撮影された約8,000分の1のもの(COK-77-1)を1200dpiでスキャンした33枚の画像を用いた。また,地上基準点(GCP)には現地においてSpectra社のPrecision ProMark120を用いたGNSSのスタティック法による測位により得た値を用いた。これにより,約3m間隔と高解像度の与論島全島のDSMが得られた。

 一方,海底地形の情報は,1)荒井編(2013)の産業技術総合研究所が取得したマルチビーム測深データと,2)JAMSTECの航海・潜航データ・サンプル探索システム「Darwin」から収集したマルチビーム測深データ,3)(財)日本水路協会発行のM7020の等深線データ,4)海上保安庁の500m間隔のデータ(J-EGG500)を用いた。これらをそれぞれDEMに加工し(上記1からは約0.6秒(約19m)間隔,2および3からは約2秒(約65m)間隔),解像度の高いものから順に重ねあわせた。

 これらの陸上のDSMと海底のDEMをSimple DEM viewerに読み込み,後藤(2015)の方法に従って海陸を統合的に判読できる一枚の地形アナグリフとした。

3.結果

1)活断層による変位

 海陸を統合した地形アナグリフを用いて変動地形学的に解釈すると,与論島を横切る北西—南東方向の左横ずれの活断層(宮辻断層)は,海面下に分布する現在のサンゴ礁を切断していることが新たにわかった。現在のサンゴ礁に認められる断層地形は陸上の断層崖同様に西側低下である。

 この断層はさらに北西延長の与論海盆に延びるとされており(活断層研究会編,1991),地形ステレオ画像の判読では,盆地床に北西—南東方向に西側低下の低断層崖が認められ,隆起側近傍にはプレッシャーリッジ状の細長い高まりが分布し,低下側では一部で溝状の凹地が確認できた。これらは横ずれの活断層に共通して認められる地形的特徴である。そのほか,与論島の北西端沖から北西—南東方向に与論海盆の盆地底を横切る長さ約5kmの低断層崖が新たに認められた。 

 与論島の南東沖の海底では,島から約5kmまでは西側低下の断層崖が延びており,新期の変位を示すと考えられる低断層崖が一部で新たに確認された。この南東延長には,南与論海底谷を挟んで南西側が高く,海底谷の南西基部に沿うように南西側隆起の断層が延びているものと考えられる。このように北西—南東方向に延びる断層では与論島周辺から北西部と,与論島の南東沖の南東部で隆起側が異なるという横ずれ断層に特徴的な変位様式が確認された。

2)与論島の離水サンゴ礁と海底平坦面の変形

 与論島では,宮辻断層より東の北半部で明瞭な離水サンゴ礁地形が認められ(木庭,1980;町田編,2001),地形ステレオ画像では4列の旧礁嶺地形を伴う海成段丘が認められる。旧礁嶺の頂部を基準にすると,4列のいずれの旧礁嶺でも北で高く(Hirata,1956),南に向かって傾動している様子が確認できる。

 一方,与論島の北東の海底には,地形ステレオ画像では2段の平坦面が認められ,いずれも,島棚の北西端近くに頂部をなし,島棚の延びる方向と同じ方向に軸をもつ背斜状の変形が認められる。この変形は,陸上の一般的な逆断層の運動に伴う変形と類似しており,島棚の北西側に北東—南西走向で南東傾斜の逆断層が延びているとすればこの変動地形を説明しやすい。

4.考察

 島棚を胴切りして延びる横ずれ断層による変位および,島棚で認められる非対称な背斜状の隆起は,東西~東南東—西北西方向に軸を持つ圧縮性の応力によって形成されたと考えると統一的に説明可能である。このような与論島周辺の変動地形は,少なくとも後期更新世~完新世で継続していると考えられ,数千~数万年のタイムスケールで考えると,南西諸島海溝に沿ったフィリピン海プレートの沈み込みに伴う圧縮性の応力が島棚まで及んでいることを示していると考えられる。なお,調査地域とその周辺では,沖縄トラフに沿って見られるような伸張性の応力に伴うと思われる正断層や火山の地形は認められなかった。



謝辞:荒井晃作氏,佐藤太一氏には,産業技術総合研究所が対象地域周辺海域で取得したマルチビーム測深データを提供くださった(荒井晃作 編(2013)沖縄周辺海域の海洋地質学的研究,平成24年度研究概要報告書-沖永良部島周辺海域-,地質調査総合センター速報, no.61, 143p.)。記して深く御礼申し上げる。

なお,科学研究費補助金(課題番号:16K01221)の一部を使用した。



文献:後藤秀昭(2014;2015)広島大学大学院文学研究科論集特輯号;Goto, H. (2016) Earthquakes, Tsunamis and Nuclear Risks, 65-74;後藤秀昭(2017)日本活断層学会2017年秋季学術大会予稿集;林貢平・後藤秀昭・隈元崇(2017)日本活断層学会2017年秋季学術大会予稿集;活断層研究会編(1991)『日本の活断層』東京大学出版会;町田(2001)『日本の海成段丘アトラス』東京大学出版会;木庭(1980)第四紀研究;Hirata, K. (1956) Ecological studies on the recent and raised coral reefs in Yoron island. Science report of Kagoshima University, 5, 97-118;荒井晃作 編(2013)沖縄周辺海域の海洋地質学的研究,平成24年度研究概要報告書-沖永良部島周辺海域-,地質調査総合センター速報, no.61, 143p.