日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地殻変動

2018年5月20日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

[SSS09-P05] 九州南部のせん断帯におけるGNSS観測(続報)

*渡部 豪1雑賀 敦1浅森 浩一1島田 顕臣1梅田 浩司2 (1.日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2.弘前大学 大学院理工学研究科)

キーワード:九州南部のせん断帯、GNSS稠密観測、arctangent、粘性緩和、2016年熊本地震、桜島

近年、GPS観測に基づく地殻の変位速度場から、九州地方南部には、せん断ひずみ速度の大きな領域(九州南部のせん断帯)が存在することが指摘されているが(Wallace et al., 2009)、この変動に対応する活断層は認められていない。本研究では、九州南部のせん断帯における地殻変動を詳細に推定するため、平成28年2~3月に10点のGNSS稠密観測網を構築し観測を開始した。この観測では、既存施設の屋上に観測機器を設置し、2周波の受信機で30秒間隔のデータ収録を行っている。解析は、Bernese GNSS Software(ver.5.2)を使用し、同観測網の周囲4点の国土地理院GEONET観測点を基準として、各観測点における日毎の座標値を推定した。また、IGSの精密暦、地球回転パラメータやCODEの電離層モデル、P1-C1コードバイアス等を解析に使用した。しかし、観測開始より1か月後の同年4月14~16日に2016年熊本地震が発生し、震源から60 km以上離れた稠密観測点にも、この地震に伴う地殻変動が捉えられた。このことから、せん断帯周辺の詳細な変位速度やひずみ速度等の定常的な運動像を得るには、この地震の余効変動を推定・除去した上で同領域の地殻変動について議論する必要がある。
 この地震による余効変動の推定のため、まず、Wdowinski et al. (1997) の手法を用いて、観測期間(2016年3月20日~2017年9月30日)の時系列に含まれる共通誤差成分の除去を行った。その結果、日毎の座標値のばらつきは、水平方向で2.1~4.9 mmから1.2~4.2 mmに、上下方向で7.3~9.6 mmから4.7~7.3 mmに減少した。さらに、共通誤差成分を除去した速度から年周・半年周を推定し、速度成分を抽出した。一方で、熊本地震による粘性緩和の影響が九州地方広範囲に及んでいることから(水藤, 2017)、同せん断帯においても粘性緩和による変動が生じていると推測される。そこで、熊本地震の粘性緩和による変動をFukahata and Matsu’ura (2006) のコードより推定した。この計算では、熊本地震時の変動として、国土地理院の断層モデル(国土地理院, 2016)を適用し、地震時すべりによる変動を開始点として地殻変動の時間発展を計算した。また、ここでは、弾性・粘弾性体の二層構造を仮定し、水藤 (2017)の結果から、弾性層の厚さを25 km、粘弾性層の粘性率を2×1018 Pa.s とした。その結果、粘性緩和による1.5年後の変動速度は、せん断帯北部の概ね北緯32°以北で約10 mm/yr、せん断帯南部の概ね北緯32°以南で約7 mm/yrであると見積もられた。さらに、稠密観測網南部の観測点は桜島のほぼ西側に分布するため、観測期間中の火山性変動について、姶良カルデラ直下に想定した2つのマグマソース(国土地理院・気象庁, 2017)の体積変化に伴う地殻変動について、茂木モデル(茂木, 1958)を仮定して計算を行った。その結果、桜島西部に位置する観測点では、同期間中に約4~6 mmの火山性地殻変動が生じたと推定された。
 稠密観測網で得られた変位速度に対し、熊本地震の粘性緩和と桜島の火山性変動を補正し、せん断帯に平行な方向の速度プロファイルを求めた。また、熊本地震前の速度プロファイル(2007年10月1日~2009年3月1日までのF3解から速度を推定し、同期間の火山性変動を補正)についても求めた。半無限弾性体中の鉛直横ずれ断層の断層運動は、断層をはさむ両側のブロックが剛体的な運動をし、その上部地殻部分が固着することによって弾性変形が生じていたとすると、地表で観測される変位速度は断層を境にarctangentの形を示す(Savage and Burford, 1973)。同せん断帯にもこのモデルを仮定し熊本地震前後の速度プロファイルを比較すると、両者において同様のarctangent型の地殻変動パターンが認められた。これは、せん断帯深部の断層すべりによる定常的な変動が、熊本地震の発生後もほぼ同様に継続していることを示していると考えられる。類似した例として、Angela and Sagiya (2016) は、2011年東北地震前後の新潟県のひずみ集中帯周辺のGPSデータを用いて、大地震の発生に影響されない定常的な短縮変形を見出し、それが地殻内部で起こる断層深部のすべりによって生じる非弾性変形であると結論付けた。本研究の結果は、このせん断帯の地下深部でも同様の現象が進行していることを示唆する。

本発表は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。