日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震波伝播:理論と応用

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫((株)地球科学総合研究所、共同)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

[SSS10-P01] 地震波干渉法を用いた2011年新燃岳噴火に伴う地震波速度変化の検出

*水谷 雄太1西田 究2 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学地震研究所)

キーワード:地震波干渉法、火山地震学

地震や噴火に伴った応力変化や流体の移動は,近傍の地震波速度に大きな影響を与える.地下構造の時空間的応答を調べることで,応力状態や流体の分布などに制約を与えることができる.近年,地震波干渉法を用いた地震波速度構造モニタリング手法の発展に伴い,地震・噴火時の地震波速度変化が数多く報告されている(e.g. Brenguier et al., 2008).本研究では,地震波干渉法を新燃岳近傍に設置された地震計の観測記録に適用した結果,2011年の噴火に対応する地震波速度異常が検出されたため報告する.
 解析には,新燃岳付近の2観測点の防災科学技術研究所V-netの連続記録を用いた.V-netの観測点は,それぞれ,地表の広帯域地震計とボアホール(~ 200 m)底部の短周期地震計の二つの地震計からなる.本研究では,同一観測点の地震計を用いた鉛直方向に200 m程度のスケールを持つペア(Vertical array)と,異なる観測点の広帯域地震計同士,あるいは短周期地震計同士を用いた水平方向に10 km程度のスケールを持つペア(Cross-hole array)を用い,それぞれ地震波速度変化を推定した.
 解析期間は2010年5月1日から2017年4月30日である.まず,毎日の相互相関関数を計算する.トレンド成分を除去し,cosine型のテイパーをかけた1日分のデータに対して,Vertical arrayでは2-8 Hz,Cross-hole arrayでは0.3-0.6 Hzのバンドパスフィルタをかけた.このとき,前者に対しては,周波数領域で機器応答を補正した.この1日データから,81.92秒(Cross-hole arrayは163.84秒)ずつ切り出し,同様にトレンドを除去し,テイパーをかけた.これに1ビット化を施し,周波数領域でホワイトニングした後に,相互相関関数を計算し,1日ごとに平均を求めた.
 続いて,2010年5月1ヶ月分を平均した波形をレファレンスとし,注目した日と前後二日ずつの計5日分を平均した波形との走時の変化から地震波速度変化を推定した.Vertical arrayに対しては,-5秒から5秒まで,幅2.56秒の時間窓をずらしながら,それぞれの時間窓に対して走時遅れを計算した.走時遅れの絶対値が0.2秒より小さく,相関係数が0.7より大きい点を用いて,最小二乗法により直線フィッティングし,この領域での平均的な地震波速度変化を見積もった.なお,Cross-hole arrayに対しては,-40秒から-20秒と20秒から40秒までの区間に対して,幅10.24秒の時間窓を用いて走時遅れを計算した.ただし,直線フィッティングの際は,走時遅れの絶対値が1.0秒より小さく,相関値が0.5よりも大きい点を用いた.
 解析で得られた地震波速度の変化には,大きくわけて二つの特徴があった.1つ目は,今回の主要な目的である噴火に対応する速度変化である.これは,Vertical arrayでは明確に検出されず,Cross-hole arrayでのみ噴火の影響だと推測できる変化が捉えられた. Vertical arrayとCross-hole arrayでは,周波数帯域や地震計の配置などが違うため,その速度変化に影響を及ぼす領域に違いがあると考えられる.従って,噴火現象に伴う地下構造変化は,Vertical arrayに関与しない深いところで生じたことを示唆している.
 2つ目の特徴は,周期的な地震波速度変化である.これはVertical array,Cross-hole array共に検出された.九州地域では,7月の強い降雨による地震波速度変化が顕著であるという報告がある(Qing-Yu Wang et al., 2017).降水量の影響は浅い帯水層部分の構造により強く現れ,Vertical arrayの結果により強い変化をもたらすと考えられる.これは実際の観測結果と調和的である.
 本研究では,地震波干渉法を用いて新燃岳における地震波速度のモニタリングを行なった.今後は観測点を増やし,地震波干渉法によって抽出された地震波の特性を空間的により詳細に調べることで,地震波速度に影響を及ぼした構造変化がどこで生じたかについて調べていく予定である.また,降雨に対する地下構造の応答による地震波速度変化を取り除き,2011年の噴火による速度変化をより正確に推定することを目指す.
謝辞:本研究では防災科学技術研究所V-netのデータを使用しました.記して感謝します.