日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 地震予知・予測

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)

[SSS13-P02] 静岡県西部地域の地下水温変化と応力変化との相関性について

*上久保 廣信1 (1.常葉大学)

キーワード:地下水、水温、応力変化、スロースリップ

静岡県西部地域の湖西市新居(KOA),浜松市中郡(NG),磐田市中泉(IWN),掛川市徳泉(KAT)にて地下水温の観測を行っている.KOAは天竜川水系と浜名湖の西側,NGは天竜川水系の西側,IWNは天竜川水系の東側であり太田川水系の西側,KATは太田川水系の東側にそれぞれ位置している.井戸の深さ(ストレーナの深さ)はKOAが175m,NGが150m(133.8~145.0),IWNが150m,KATが120m(65.0~87.0).温度計は白金抵抗体温度計(タマヤ計測システム社製TAMAPodPT)を使用し,精度は1/100℃,センサー位置は地表から28m.管頭から水面までの高さはKOAが9m,NGが4m,KATが4.6m,IWNが13.6m.データは10分間間隔で取得し一日平均値を使用している.機器は気温の影響を受けるため年周変化を補正している.

 グラフの水温データは湖西市新居(KOA),浜松市中郡(NG),磐田市中泉(IWN),掛川市徳泉(KAT)である.静岡県西部の4か所の水温が同一の変化を示した例を4か所の例で示す.
 KOA,NG,IWN,KATのそれぞれで,2016年12月24日,2017年4月10日,10月12日(KATは10月13日)に水温の低下、2017年6月9日に上昇を観測した.2016年8月から12月下旬まで4か所の水温は下降していたが,2016年12月下旬からどれも上昇に転じた.2017年6月9日の共通した温度上昇の後はそれぞれで異なった変化を見せた.NGは観測を始めた2013年5月から下降傾向を示しており,2016年12月28日に最低温度を記録した後,上昇に転じている.
 異なる水系をまたいだ4か所の地域で同一の時期に揃って水温を変化させたことから,静岡県西部地域で同じ地下応力の変化が生じたと理解することができる.地殻変動に伴う応力変化は、地殻内の流体の移動を誘発する可能性がある。応力レベルに応じて圧力をかけられた一定量の間隙水が、亀裂ネットワークに入り込んで地面に浮上する傾向があるとした深部流体上昇仮説(佃ほか,2005)に調和する.浜松市の50mm/d以上の降水との関連性は認められていない.また,4か所の井戸の位置は天竜川水系と太田川水系をまたいでいるが,水温変化が同一の動きを見せていることから,水系の影響による水温変化は考えにくい.水温変化がこの地域の岩盤の動きを捉えた可能性がある.

 気象庁は第375回地震防災対策強化地域判定会(平成29年7月24日)「最近の東海地域とその周辺の地殻変動」のなかで「浜名湖周辺のモーメント増加は2016年12月以降は停滞している」(18項)とした.フィリピン海プレートの沈み込みに伴い,静岡県西部の地盤は北東-南西方向に圧縮場が生じている.長期スロースリップが停滞している場合は,地盤の圧縮が進み,地盤に含まれる高温の間隙水は低圧力場である上方に移動し水温を上昇させると理解できる.一方,長期スロースリップが進行している場合は,地盤の圧縮は緩み,地盤内の高温の間隙水は停滞または下降し,水温は下降すると理解できる.
 図は気象庁が作成した浜名湖周辺のモーメントの累積グラフ(第375回地震防災対策強化地域判定会記者会見資料71項)に浜松中郡(NG)水温変化を上下反転させて重ねたものである.NGの水温が2016年末まで下降を続け,その後に上昇に転じている.スロースリップによる応力変化を捉えた可能性がある.

参考文献:
Tsukuda,T., K. Gotoh and O. Sato, Deep groundwater discharge and ground surface phenomena, B.E.R.I., Univ. Tokyo, 80, 105-131, 2005.
佃 為成,深部流体上昇仮説とその検証,月刊地球,28, 813-822,2006.