[SSS14-P01] 全国の活断層を対象とした防災訓練用被害シナリオデータベースの試作
キーワード:活断層、防災訓練、被害シナリオ
防災科学技術研究所では、災害発生直後の初動対応の意思決定支援等に資することを目的として、大地震のような広域にわたる災害が発生した場合でも被害全体をリアルタイムに推定、状況を把握することを可能とするリアルタイム被害推定・状況把握システムの開発を行うとともに、新しい防災情報としての地震被害推定情報の利活用を推進するため、利用者と連携した防災訓練等の実証実験を行っている。その中で、地震被害推定情報の防災対応への有効性や課題を抽出するために、リアリティのある多様な地震発生パターンや被害発生パターンを有する防災訓練用のデータのへニーズが高い状況にある。そこで本研究では、防災訓練等の事前の備えに資することを目的に、主要活断層帯で発生した2016年熊本地震での被害状況を踏まえ、全国の活断層を対象とした訓練用の地震動分布や建物被害、人的被害分布のデータベースを試作した。
まず、断層モデル構築の対象とした活断層は、地震本部の全国地震動予測地図でモデル化されている主要活断層帯(234断層)及びその他の活断層(150断層)である。モデルの基本的な作成方針は、2016年熊本地震の発生状況を踏まえ、次のようにした。
・J-SHISから公開されている断層モデルをベースとして、断層上端を地表まで延長する。
・既往文献等に基づいた地表面の断層トレースに可能な限り整合させる。
・傾斜角に認識論的な不確実性を伴う可能性のある断層を対象に傾斜角を変化させる。
・近傍の活断層と連動する可能性を考慮する。
各断層モデルに対して、全国地震動予測地図の簡便法とMorikawa and Fujiwara(2013)の地震動予測式の2通りの手法を用いて地表の最大速度および計測震度を250mメッシュで算出した。地震動のばらつきについては、全国地震動予測地図で用いられている断層最短距離に依存したばらつきと、本研究で新たに設定したばらつきの2種類を適用した。新たに設定したばらつきは、藤原・他(2017)が指摘した熊本地震における地表地震断層から1km程度以内の極近傍での倒壊レベルの建物被害の集中をより説明できるものとして、断層極近傍でのばらつきを大きくしている。
こうして作成した地震動分布を入力として、全国を対象とした建物モデル及び人口モデルに被害関数を適用することで建物被害と人的被害を算出する。建物モデルについては、住宅地図データ等を用いて、250m四方のメッシュに分割したエリア毎に、建物構造分類(木造、S造、RC造)や建築年等の被害推定に必要な属性を持つ建物モデル(約5,600万棟分)を用いた。人口モデルは、メッシュ内の推定人口を自宅内滞留人口、自宅外滞留人口、流動人口に分類し、平日・休日別、時間帯別モデルを構築した。メッシュ内の建物内・外滞留人口は、国勢調査・経済センサス・民間が保有する学校毎の情報を基に推定を行い、流動人口は、社会生活基本調査・GPSのポイント位置情報(約20億ポイント)・駅の乗降客数・事業所系集積分布状況等を用いた。建物被害については、それぞれの構造種別に対して複数の被害関数を適用し、それらの組み合わせにより、7パターンで建物全壊、全半壊分布を算出した。建物被害に起因する人的被害については、複数の被害関数を適用し4パターンで死者、重傷者等の分布を、平日・休日、時間帯別で合わせて10パターンを算出した。
今後、作成したデータベースを実証実験に活用する予定である。また、データベースを防災対応等のシステムから直接利用できるような仕組みも検討していきたい。
謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。
まず、断層モデル構築の対象とした活断層は、地震本部の全国地震動予測地図でモデル化されている主要活断層帯(234断層)及びその他の活断層(150断層)である。モデルの基本的な作成方針は、2016年熊本地震の発生状況を踏まえ、次のようにした。
・J-SHISから公開されている断層モデルをベースとして、断層上端を地表まで延長する。
・既往文献等に基づいた地表面の断層トレースに可能な限り整合させる。
・傾斜角に認識論的な不確実性を伴う可能性のある断層を対象に傾斜角を変化させる。
・近傍の活断層と連動する可能性を考慮する。
各断層モデルに対して、全国地震動予測地図の簡便法とMorikawa and Fujiwara(2013)の地震動予測式の2通りの手法を用いて地表の最大速度および計測震度を250mメッシュで算出した。地震動のばらつきについては、全国地震動予測地図で用いられている断層最短距離に依存したばらつきと、本研究で新たに設定したばらつきの2種類を適用した。新たに設定したばらつきは、藤原・他(2017)が指摘した熊本地震における地表地震断層から1km程度以内の極近傍での倒壊レベルの建物被害の集中をより説明できるものとして、断層極近傍でのばらつきを大きくしている。
こうして作成した地震動分布を入力として、全国を対象とした建物モデル及び人口モデルに被害関数を適用することで建物被害と人的被害を算出する。建物モデルについては、住宅地図データ等を用いて、250m四方のメッシュに分割したエリア毎に、建物構造分類(木造、S造、RC造)や建築年等の被害推定に必要な属性を持つ建物モデル(約5,600万棟分)を用いた。人口モデルは、メッシュ内の推定人口を自宅内滞留人口、自宅外滞留人口、流動人口に分類し、平日・休日別、時間帯別モデルを構築した。メッシュ内の建物内・外滞留人口は、国勢調査・経済センサス・民間が保有する学校毎の情報を基に推定を行い、流動人口は、社会生活基本調査・GPSのポイント位置情報(約20億ポイント)・駅の乗降客数・事業所系集積分布状況等を用いた。建物被害については、それぞれの構造種別に対して複数の被害関数を適用し、それらの組み合わせにより、7パターンで建物全壊、全半壊分布を算出した。建物被害に起因する人的被害については、複数の被害関数を適用し4パターンで死者、重傷者等の分布を、平日・休日、時間帯別で合わせて10パターンを算出した。
今後、作成したデータベースを実証実験に活用する予定である。また、データベースを防災対応等のシステムから直接利用できるような仕組みも検討していきたい。
謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。