日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 強震動・地震災害

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)

[SSS14-P03] 既往の予測式との比較に基づく熊本地震の長周期パルスと永久変位の分析

*佐藤 智美1 (1.清水建設(株))

キーワード:2016年熊本地震、長周期パルス、永久変位、予測式、強震観測記録、最大速度

熊本地震の震源近傍の西原村では、水平方向約160cmの永久変位や、周期3秒程度の速度パルス(長周期パルス)が観測されている。本研究では、震源近傍の強震記録から長周期パルスや永久変位を抽出し、既往の予測式との比較を行う。さらに、予測式の高度化を目指して、断層からの距離、相対位置等との関係について検討する。

はじめに、K-NET、KiK-net地表、気象庁の95型震度計、地方公共団体震度計の震源近傍の加速度波形から、Zahradnik and Plesinger(2005)に基づき、速度波形、変位波形を算出した。そして、水平成分の永久変位の最大方向(Fling-P成分の永久変位Dpと長周期パルスの周期Tpと最大速度を抽出した。既往の予測式との比較に用いる断層モデルは、地殻変動データに基づくOzawa et al.(2016)とした。

|Rx|<15kmの8観測点のうち西原村を含む7観測点のFling-P成分のTpは2.4~3.3秒で、残り1観測点は5.5秒であった。15km<|Rx|<30kmでは、周期5~10秒程度で、距離が遠いほどTpが長い傾向がみられた。観測速度波形をみると、震源極近傍では、近い断層のみが支配的となるため1山のベル型となるが、やや離れると2山が重なり周期が伸びていることがわかった。Kamai et al.(2014)、Burks and Baker(2016)のFling-stepに起因するTpの予測式はMwのみの関数であり、それぞれ、5.5秒、3.9秒となる。Kamai et al.の式は、Rrup30km以下の広帯域予測波を回帰した式であり、Rrup30km程度のやや遠いデータも含まれているためTpがやや長い可能性がある。Burks and Bakerの式は、長周期予測波と広帯域予測波と観測波を回帰した式である。観測波としては、2003年十勝沖地震のRrup50~80km程度の37観測点の記録も使用されており、日本の地殻内地震の記録は含まれていない。以上のように、Tpの既往の予測式は、主に予測波をデータとして用いた、Mwのみの関数であり、熊本地震などの観測波のデータを活用し、距離依存性を考慮することで、予測式が高度化できると考えられる。

Fling-P成分の最大速度に関しては、西原村での277cm/sは、司・翠川(1999)の最大速度の地震動予測式の平均+標準偏差を超えていることがわかった。また、Fling-P成分に直交する成分に対するFling-P成分の最大速度の比は、西原村を含むRrup1km以下の3地点では2~2.5倍であるが、距離の増大とともに1に近づく傾向があった。

Dpについては、MwとRrupと傾斜角をパラメータとしたKamai et al.(2014)の式、MwとRrupをパラメータBurks and Baker(2016)の式、MwとRx、断層幅、断層上端深さをパラメータとしたDabaghi and Kiureghian(2014)の式(Dreger et al., 2011とAbrahamson, 2002の式の組み合わせ)との比較を行った。これらの式も、主に予測波や理論に基づく式である。断層からの距離が0kmでは、いずれの式でもDpは80~90cmとなる。一方、0kmに近い西原村のDpは160cmであり、国土地理院(2016)による緊急GNNSでも0kmに近い地点で同レベルのDpが得られている。地表断層調査では、最大220cmの断層変位が得られている(Shirahama et al.,2016)。しかしながら、0kmに近い地点でも、Dpが小さいデータもあるため、平均でみると既往の予測式よりやや大きい程度であり、距離による減衰特性は類似していた。熊本地震では、x/L(断層長さに対する断層走向方向の端部からの距離)が小さいとDpが小さい傾向があり、地表断層調査による断層変位(Shirahama et al.,2016)の特徴と整合する。Biasi et al.(2013)は、多数の地殻内地震の断層変位の調査に基づき、変位分布形状に対して、x/Lをパラメータとした経験式を作成している。熊本地震のDpの分布形状は、Biasi et al.(2013)の式と類似しており、Dpの予測式にも、x/Lをパラメータとして導入することで、予測式が高度化できると考えられる。
謝辞:本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)26242034(研究代表者川瀬博教授)による成果である。防災科学技術研究所のK-NET・KiK-netの強震記録、F-netのメカニズム解と、気象庁の95型震度計の強震記録、一元化震源情報、熊本県、佐賀県、福岡県、大分県の地方公共団体震度計の強震記録を用いました。記して感謝致します。