[SSS14-P10] 熊本地域における微動アレイ観測結果および考察
キーワード:強震動予測、S波速度構造モデル、微動アレイ、ボーリングデータ
1.はじめに
防災科研では、平成28年熊本地震の住宅等被害が大きい断層近傍の熊本平野を中心とした地域において、ボーリングデータの収集による初期地質モデルの構築、および、微動観測および地震観測記録の収集によるS波速度構造モデルの構築を実施してきた1)。平成29年度には、さらに観測・モデル化範囲を広げ、熊本県北部および阿蘇地域についても微動アレイ探査を高密度に行ってきた。本研究では、これらのデータに基づきS波速度構造モデルの基礎検討を行った。なお、地盤モデルの構築においては、内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の(5)「リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発」のテーマの1つである「地震被害推定のための地下構造モデルの構築」において実施している。
2.データの収集
微動観測については、主に工学的基盤(Vs400程度)までを極小・不規則アレイ観測で実施し、地震基盤(Vs3000程度)までを半径800m(400m,200m,100m,50m,25m)、の大アレイを実施している。極小アレイ観測は、アレイ半径60cm の「4点極小アレイ」および1辺約10m程度の「3点不規則アレイ」の組み合わせで実施している。これらの観測は、地震観測点(K-NET,KiK-net, 自治体震度計および気象庁)付近や公道上などで実施している。平成29年の報告では、大アレイは約5km間隔以内で26地点、極小アレイは約1km間隔(益城町周辺は250m間隔以内)約500地点において実施していたが、今回は追加として、熊本県北部地域および阿蘇地域について、大アレイ16箇所(熊本県北部8か所、阿蘇地域8か所)、極小アレイは約600地点で実施した。なお、阿蘇地域においては、広範囲の液状化および局所的な地盤変状も確認されたため、それらのメカニズム等を解明するために、従来の1km間隔の倍精度となる、500m間隔で実施している。観測機材としては、極小・不規則アレイについては、一体型常時微動観測機材JU410を用いて、各地点15分間の観測を行った。また、サンプリング周波数は200Hz とした。
3.S波速度構造の解析手法と結果の概要
本検討では,近年の研究2)で提案・高度化されている微動観測に基づく浅部地盤探査手法等により、1次元S波速度構造の評価を行った。極小アレイの解析については、微動解析ソフト「BIDO2」「クラウド型微動観測システム」3)等を用いて、H/Vスペクトル比および位相速度およびS波速度構造を求めた。比較・検討においては、1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面および深度平面分布等にて、初期地質モデルや既往の地質構造資料等との比較・検討を行った。その結果、阿蘇地域においては、旧湖底層の分布の確認やグラーベン等に関連する構造が確認できた。
4.まとめ
本検討では、昨年度成果1)に加え、熊本県北部および阿蘇地域において、地震観測および微動観測で得られた解析結果に基づき、3次元S波速度構造分布を作成した。作成した地盤モデルのS波速度構造分布や卓越周期分布により、熊本地震本震時における地盤変状および液状化被害等との関係を確認することが出来た。今後、昨年度作成したS波速度構造の範囲を拡張したうえで強震動評価を行い、地震被害との関係を検討する予定である。
謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました.
参考文献
1) 先名 重樹、神 薫、若井 淳、東 宏樹、内藤 昌平、森川 信之、前田 宜浩、岩城 麻子、山田 隆二、河合 伸一、松山 尚典、藤原広行,2016年熊本地震の断層周辺における浅部・深部統合地盤モデルの構築,JpGU-AGU Joint Meeting 2017, HCG37-16, 2017.
2) 長郁夫,先名重樹,極小微動アレイによる浅部構造探査システム-大量データの蓄積と利活用に向けて-,Synthesiology,Vol.9 No.2,pp.86-96,2016.
3) Shigeki Senna, Atsushi Wakai, Kaoru Jin, Hiroki Azuma, Hiroyuki Fujiwara, Development of cloud-type microtremor observation system, 5th ESG, 2016.
防災科研では、平成28年熊本地震の住宅等被害が大きい断層近傍の熊本平野を中心とした地域において、ボーリングデータの収集による初期地質モデルの構築、および、微動観測および地震観測記録の収集によるS波速度構造モデルの構築を実施してきた1)。平成29年度には、さらに観測・モデル化範囲を広げ、熊本県北部および阿蘇地域についても微動アレイ探査を高密度に行ってきた。本研究では、これらのデータに基づきS波速度構造モデルの基礎検討を行った。なお、地盤モデルの構築においては、内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の(5)「リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発」のテーマの1つである「地震被害推定のための地下構造モデルの構築」において実施している。
2.データの収集
微動観測については、主に工学的基盤(Vs400程度)までを極小・不規則アレイ観測で実施し、地震基盤(Vs3000程度)までを半径800m(400m,200m,100m,50m,25m)、の大アレイを実施している。極小アレイ観測は、アレイ半径60cm の「4点極小アレイ」および1辺約10m程度の「3点不規則アレイ」の組み合わせで実施している。これらの観測は、地震観測点(K-NET,KiK-net, 自治体震度計および気象庁)付近や公道上などで実施している。平成29年の報告では、大アレイは約5km間隔以内で26地点、極小アレイは約1km間隔(益城町周辺は250m間隔以内)約500地点において実施していたが、今回は追加として、熊本県北部地域および阿蘇地域について、大アレイ16箇所(熊本県北部8か所、阿蘇地域8か所)、極小アレイは約600地点で実施した。なお、阿蘇地域においては、広範囲の液状化および局所的な地盤変状も確認されたため、それらのメカニズム等を解明するために、従来の1km間隔の倍精度となる、500m間隔で実施している。観測機材としては、極小・不規則アレイについては、一体型常時微動観測機材JU410を用いて、各地点15分間の観測を行った。また、サンプリング周波数は200Hz とした。
3.S波速度構造の解析手法と結果の概要
本検討では,近年の研究2)で提案・高度化されている微動観測に基づく浅部地盤探査手法等により、1次元S波速度構造の評価を行った。極小アレイの解析については、微動解析ソフト「BIDO2」「クラウド型微動観測システム」3)等を用いて、H/Vスペクトル比および位相速度およびS波速度構造を求めた。比較・検討においては、1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面および深度平面分布等にて、初期地質モデルや既往の地質構造資料等との比較・検討を行った。その結果、阿蘇地域においては、旧湖底層の分布の確認やグラーベン等に関連する構造が確認できた。
4.まとめ
本検討では、昨年度成果1)に加え、熊本県北部および阿蘇地域において、地震観測および微動観測で得られた解析結果に基づき、3次元S波速度構造分布を作成した。作成した地盤モデルのS波速度構造分布や卓越周期分布により、熊本地震本震時における地盤変状および液状化被害等との関係を確認することが出来た。今後、昨年度作成したS波速度構造の範囲を拡張したうえで強震動評価を行い、地震被害との関係を検討する予定である。
謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました.
参考文献
1) 先名 重樹、神 薫、若井 淳、東 宏樹、内藤 昌平、森川 信之、前田 宜浩、岩城 麻子、山田 隆二、河合 伸一、松山 尚典、藤原広行,2016年熊本地震の断層周辺における浅部・深部統合地盤モデルの構築,JpGU-AGU Joint Meeting 2017, HCG37-16, 2017.
2) 長郁夫,先名重樹,極小微動アレイによる浅部構造探査システム-大量データの蓄積と利活用に向けて-,Synthesiology,Vol.9 No.2,pp.86-96,2016.
3) Shigeki Senna, Atsushi Wakai, Kaoru Jin, Hiroki Azuma, Hiroyuki Fujiwara, Development of cloud-type microtremor observation system, 5th ESG, 2016.