[SSS14-P12] 上下動微動アレイ探査の精度:平均区間S波速度の簡易解析法をたたき台とした議論
キーワード:微動 、アレイ 、表面波、2016年熊本地震、インバージョン
概要
前報(Cho et al., 2018)で我々は,熊本県益城(ましき)町で得られた上下動微動アレイデータに深さ30mまでの10mごとの平均区間S波速度の簡易解析法を適用して解析精度を検討し,同解析法は予備解析法として活用するのが有効と位置付けた。本研究ではこの結論をたたき台としてある問題提起を行う。すなわち,そもそも一般に良く用いられている通常のインバージョン法はこの簡易法と比較してどれほど精度が良いのだろうか。本発表ではインバージョン解析に用いる速度構造モデルのパラメータ化(層数等)における恣意性に着目し,実データ解析に基づいて上下動微動アレイ探査の精度を議論する。
前報の内容
前報ではまず次のような平均区間S波速度の簡易解析法を示した。すなわち,地表から深さ10mまでの平均S波速度AVS0_10を波長13mのレーリー波位相速度C13で代表する(長他, 2008)。深さ10mから20mまでの平均S波速度AVS10_20及び深さ20mから30mまでの平均S波速度AVS20_30をそれぞれ次式で計算する。
AVS10_20= (AVS0_10 AVS0_20)/ (2AVS0_10 - AVS0_20), (1)
および
AVS20_30= (AVS0_20 AVS0_30)/ (3AVS0_20 - 2AVS0_30). (2)
ただし,AVS0_20,AVS0_30はそれぞれ地表から20m, 30mまでの平均S波速度であり,それぞれ波長25m, 40mのレーリー波の位相速度C25, C40で代表できる(例えば,紺野・片岡, 2000;長他, 2008)。したがって,一旦の波長13~40mをカバーするレーリー波位相速度の分散曲線が得られれば,C13,C25 ,C40を読み取って代数計算を実施するだけで,AVS0_10,AVS10_20,AVS20_30が得られる。
次に我々はこの簡易解析法を熊本県益城町の極小微動アレイに適用し,平均区間S波速度の計算結果を他の探査結果と比較した。PS検層との比較により,簡易解析法で得られた平均区間S波速度には最大で数10%もの誤差が生じる可能性があることが示された。一方,表面波探査断面との比較により,平均区間S波速度の相対的なS波速度の空間変化は十分評価可能であることが示された。そこで,同解析手法の特徴すなわち適用が簡単で結果が解析者に依存しないという特徴も考慮して,同解析法は小規模微動アレイデータの予備解析法という位置付けで活用するのが有効と結論した。
問題提起(本研究)
上記の結論を導くに際して,我々は,高度なインバージョン解析(線形化インバージョン,Genetic Algorithm等)の誤差は簡易解析法の誤差(数10%)と比較してかなり小さいという暗黙の了解にのっとった。しかし,実際,この暗黙の了解は本当に妥当なのだろうか?例えば,層区分を恣意的に設定したモデルを用いたインバージョンで「精度が良い(すなわち,標準偏差が小さい)」結果が得られたとしても,そこにはモデルパラメータの設定に依存するバイアスが混入しているかもしれない。忘れられがちだが,インバージョンモデルの層数設定が変わるだけでもインバージョン結果は強い影響を受ける。このような,モデル依存のバイアスを考慮した結果,そのばらつきは簡易法と同程度に大きいことが判明するかもしれない。
本発表では,益城町の微動アレイ探査で高度なインバージョンを実施した複数の研究例をひいてS波速度の推定結果のばらつきを評価する。本簡易法のばらつきとの比較を通して,上記の観点から見た微動アレイ探査そのものの精度について議論する。その上で,改めて簡易法や高度なインバージョンの位置付けを検討する。
紺野・片岡, 2000, 土木学会論文集,647/I-51, 415-423.
長他, 2008, 物理探査, 61, 457-468.
Cho et al., 2018, Exploration Geophysics, in press.
前報(Cho et al., 2018)で我々は,熊本県益城(ましき)町で得られた上下動微動アレイデータに深さ30mまでの10mごとの平均区間S波速度の簡易解析法を適用して解析精度を検討し,同解析法は予備解析法として活用するのが有効と位置付けた。本研究ではこの結論をたたき台としてある問題提起を行う。すなわち,そもそも一般に良く用いられている通常のインバージョン法はこの簡易法と比較してどれほど精度が良いのだろうか。本発表ではインバージョン解析に用いる速度構造モデルのパラメータ化(層数等)における恣意性に着目し,実データ解析に基づいて上下動微動アレイ探査の精度を議論する。
前報の内容
前報ではまず次のような平均区間S波速度の簡易解析法を示した。すなわち,地表から深さ10mまでの平均S波速度AVS0_10を波長13mのレーリー波位相速度C13で代表する(長他, 2008)。深さ10mから20mまでの平均S波速度AVS10_20及び深さ20mから30mまでの平均S波速度AVS20_30をそれぞれ次式で計算する。
AVS10_20= (AVS0_10 AVS0_20)/ (2AVS0_10 - AVS0_20), (1)
および
AVS20_30= (AVS0_20 AVS0_30)/ (3AVS0_20 - 2AVS0_30). (2)
ただし,AVS0_20,AVS0_30はそれぞれ地表から20m, 30mまでの平均S波速度であり,それぞれ波長25m, 40mのレーリー波の位相速度C25, C40で代表できる(例えば,紺野・片岡, 2000;長他, 2008)。したがって,一旦の波長13~40mをカバーするレーリー波位相速度の分散曲線が得られれば,C13,C25 ,C40を読み取って代数計算を実施するだけで,AVS0_10,AVS10_20,AVS20_30が得られる。
次に我々はこの簡易解析法を熊本県益城町の極小微動アレイに適用し,平均区間S波速度の計算結果を他の探査結果と比較した。PS検層との比較により,簡易解析法で得られた平均区間S波速度には最大で数10%もの誤差が生じる可能性があることが示された。一方,表面波探査断面との比較により,平均区間S波速度の相対的なS波速度の空間変化は十分評価可能であることが示された。そこで,同解析手法の特徴すなわち適用が簡単で結果が解析者に依存しないという特徴も考慮して,同解析法は小規模微動アレイデータの予備解析法という位置付けで活用するのが有効と結論した。
問題提起(本研究)
上記の結論を導くに際して,我々は,高度なインバージョン解析(線形化インバージョン,Genetic Algorithm等)の誤差は簡易解析法の誤差(数10%)と比較してかなり小さいという暗黙の了解にのっとった。しかし,実際,この暗黙の了解は本当に妥当なのだろうか?例えば,層区分を恣意的に設定したモデルを用いたインバージョンで「精度が良い(すなわち,標準偏差が小さい)」結果が得られたとしても,そこにはモデルパラメータの設定に依存するバイアスが混入しているかもしれない。忘れられがちだが,インバージョンモデルの層数設定が変わるだけでもインバージョン結果は強い影響を受ける。このような,モデル依存のバイアスを考慮した結果,そのばらつきは簡易法と同程度に大きいことが判明するかもしれない。
本発表では,益城町の微動アレイ探査で高度なインバージョンを実施した複数の研究例をひいてS波速度の推定結果のばらつきを評価する。本簡易法のばらつきとの比較を通して,上記の観点から見た微動アレイ探査そのものの精度について議論する。その上で,改めて簡易法や高度なインバージョンの位置付けを検討する。
紺野・片岡, 2000, 土木学会論文集,647/I-51, 415-423.
長他, 2008, 物理探査, 61, 457-468.
Cho et al., 2018, Exploration Geophysics, in press.