[SSS14-P25] 強震波形インバージョンに基づく2014年チリIquique地震 (Mw 8.1) の震源特性化
キーワード:沈み込み境界型地震、震源インバージョン、震源スケーリング則、破壊過程、特性化震源モデル
沈み込み境界で起きるM8以上の巨大地震に対する地震動予測において,震源域付近で波形記録が得られている過去の巨大地震の震源特性を分析し,それらの知見に基づいて予測に必要な震源パラメータ設定を高度化することが重要である.本研究は,2014年4月1日に南米のペルー・チリ海溝で起きたIquique地震 (Mw 8.1) を対象に,周期5–30秒の強震波形を用いた震源インバージョンにより断層破壊の時空間的すべりを推定し,震源スケーリング則および地震動(周期5–30秒)再現の観点から同地震の震源特性について検討した.
震源インバージョンは,プレート境界の三次元形状 (Hayes et al., 2012) に沿って長さ170 km・幅140 kmの震源断層面を仮定し,マルチタイムウィンドウ・線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) により行った.グリーン関数は,一次元水平成層構造を仮定し,離散化波数法 (Bouchon, 1981) と反射・透過係数行列法 (Kennett and Kerry, 1979) で計算した.なお,中規模 (Mw 6.2) 地震の観測波形の時刻歴を用いた,速度構造モデル (Husen et al., 1999) の調整を事前に行った.
インバージョンの結果,地震モーメントは1.65×1021 Nm (Mw 8.08),平均すべり変位は1.40 mと推定された. Murotani et al. (2008) の規範で断層面積の17% (4,000 km2) の面積を持つ大すべり域を抽出したが,これはSomerville et al. (1999) の規範による抽出結果 (20%; 4,700 km2) とほぼ同じであった.断層面積・平均すべり変位・大すべり域面積と地震モーメントの関係は既往のスケーリング則 (Murotani et al., 2013; Skarlatoudis et al., 2016) と整合的であった.この地震の特徴として,比較的大きなすべり破壊が浅部では海溝軸付近まで,一方,深部では地震発生帯の下限付近 (e.g., Oleskevich et al., 1999) まで及んでいると考えられる.このことから,この地震は2-stage scaling model(田島・他,2013)の2段階目の地震であることが示唆される.
各小断層のすべり破壊の継続時間を,インバージョン結果のすべり時間関数の見かけ部分を取り除くようアルゴリズムで抽出したところ,浅部大すべりの平均継続時間が深部に比べて約2–3秒長く,沈み込み境界型巨大地震に対して指摘されている放射地震波の周波数の深さ依存性 (e.g., Lay et al., 2012; Suzuki et al., 2016) が確認された.また,浅部大すべりの破壊伝播様式が複雑で,震源からの同心円ではなく,海溝軸付近から陸域への深部に向かう(海溝軸に垂直)伝播方向であった.この断層傾斜方向の破壊進展およびそれに伴うdirectivity効果は,観測波形に見られる周期約10–11秒の長周期パルスの再現に不可欠である.
謝辞:Centro Sismológico Nacional, Universidad de Chile(チリ大学地震観測センター)の波形記録を使用した.また,防災科学技術研究所の鈴木亘博士より有益な助言をいただいた.本研究は,平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(海溝型地震による地震動の評価手法の検討)事業による成果の一部である.
震源インバージョンは,プレート境界の三次元形状 (Hayes et al., 2012) に沿って長さ170 km・幅140 kmの震源断層面を仮定し,マルチタイムウィンドウ・線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) により行った.グリーン関数は,一次元水平成層構造を仮定し,離散化波数法 (Bouchon, 1981) と反射・透過係数行列法 (Kennett and Kerry, 1979) で計算した.なお,中規模 (Mw 6.2) 地震の観測波形の時刻歴を用いた,速度構造モデル (Husen et al., 1999) の調整を事前に行った.
インバージョンの結果,地震モーメントは1.65×1021 Nm (Mw 8.08),平均すべり変位は1.40 mと推定された. Murotani et al. (2008) の規範で断層面積の17% (4,000 km2) の面積を持つ大すべり域を抽出したが,これはSomerville et al. (1999) の規範による抽出結果 (20%; 4,700 km2) とほぼ同じであった.断層面積・平均すべり変位・大すべり域面積と地震モーメントの関係は既往のスケーリング則 (Murotani et al., 2013; Skarlatoudis et al., 2016) と整合的であった.この地震の特徴として,比較的大きなすべり破壊が浅部では海溝軸付近まで,一方,深部では地震発生帯の下限付近 (e.g., Oleskevich et al., 1999) まで及んでいると考えられる.このことから,この地震は2-stage scaling model(田島・他,2013)の2段階目の地震であることが示唆される.
各小断層のすべり破壊の継続時間を,インバージョン結果のすべり時間関数の見かけ部分を取り除くようアルゴリズムで抽出したところ,浅部大すべりの平均継続時間が深部に比べて約2–3秒長く,沈み込み境界型巨大地震に対して指摘されている放射地震波の周波数の深さ依存性 (e.g., Lay et al., 2012; Suzuki et al., 2016) が確認された.また,浅部大すべりの破壊伝播様式が複雑で,震源からの同心円ではなく,海溝軸付近から陸域への深部に向かう(海溝軸に垂直)伝播方向であった.この断層傾斜方向の破壊進展およびそれに伴うdirectivity効果は,観測波形に見られる周期約10–11秒の長周期パルスの再現に不可欠である.
謝辞:Centro Sismológico Nacional, Universidad de Chile(チリ大学地震観測センター)の波形記録を使用した.また,防災科学技術研究所の鈴木亘博士より有益な助言をいただいた.本研究は,平成29年度原子力施設等防災対策等委託費(海溝型地震による地震動の評価手法の検討)事業による成果の一部である.