[SSS14-P26] チリ地域で発生する海溝型地震の震源特性の検討
キーワード:2015年チリ地震、スペクトルインバージョン解析、短周期レベル、応力降下量、Q値
1.はじめに
2015年9月16日のチリ地震(Mw8.3) はナスカプレートと南アメリカプレートの境界で発生したプレート間地震であり、震源域直上で多くの観測記録が得られた。Okuwaki et al. (2016) やMelgar et al. (2016) によりこの地震の複雑な破壊過程が示されており、高周波成分を励起したのは断層深部、大きな断層すべりを起こしたのは断層浅部と推定されている。本検討では、チリ地域で発生した地震観測記録を用いてスペクトルインバージョン解析を行い、同地域のQ値、震源特性、サイト増幅特性を評価した。また、評価した震源特性から地震モーメントと短周期レベルの関係や、応力降下量と深さの関係を検討した。
2.データセットと解析手法
CSN (Centro Sismológico Nacional; http://evtdb.csn.uchile.cl/)からチリ周辺で発生した地震の強震観測記録をダウンロードした。本震記録のほかに、周辺で発生したプレート間地震である31地震、27観測点の386記録を検討に用いた。これらの観測記録はMw5.0~7.0、距離200km以下で、200Gal以下の記録である。
まず、本震を除く観測記録からスペクトルインバージョン解析を用いてQ値、震源特性とサイト増幅特性を評価した。拘束条件は、金谷ほか(2006) と同等とした。小地震の震源スペクトルがω二乗モデルに良くあてはまるという仮定のもとに、基準地震を選定し、震源特性とサイト増幅特性のトレードオフを解消する補正関数を評価した。また、Okuwaki et al. (2016) の検討に用いられた速度構造モデルを参照して、各地震の震源深さに応じたS波速度と密度を設定して震源スペクトルを評価した。地震モーメントはGlobal CMT Projectの値を用いて、コーナー周波数のみを探索した。フィッティングの対象周波数は0.2~5Hzとした。
次に、推定したQ値とサイト増幅特性を用いて本震の震源スペクトルを評価した。地震規模が大きく断層面が広いため、破壊開始点からの震源距離では誤差が大きくなると考えられる。そこで、Okuwaki et al. (2016) の断層モデルに基づき、すべりの不均質性を考慮して計算した等価震源距離Xeqを用いる場合と、強震観測記録を含む解析から推定したMelgar et al. (2016) による震源モデルを参照して、短周期成分を励起した領域からの距離を用いる場合の2通りの検討を行った。
3.結果
推定したQ値は、Q(f)=2000.8程度となった。2通りの距離指標ともに、推定された本震の震源特性に大差はなかった。推定したコーナー周波数から短周期レベルを算定し、地震モーメントとの関係を整理すると、2015年9月16日のチリ地震の短周期レベルは、壇ほか(2001) の平均程度となった。また、Brune(1970) により応力降下量を算定した。本震の応力降下量は6.0MPa、その他の地震では0.2~5.0MPa程度と推定された。応力降下量と震源深さの関係を整理したところ、ばらつきが大きいものの深さ依存性がやや見られる結果となった。友澤ほか(2017) においてメキシコ地域でも同様の検討を行っているが、応力降下量の深さ依存性は、両地域で共通する傾向として抽出された。
参考文献
Brune, J. N.: Tectonic stress and the spectra of seismic shear waves from earthquakes, J. Geophys. Res., Vol.75, pp. 4997-5009, 1970.
Melgar, D., W. Fan, S. Riquelme, J. Geng, C. Liang, M. Fuentes, G. Vargas, R. M. Allen, P. M. Shearer, and E. J. Fielding: Slip segmentation and slow rupture to the trench during the 2015, Mw8.3 Illapel, Chile earthquake, Geophys. Res. Lett., 43, 961–966, doi:10.1002/2015GL067369, 2016.
Okuwaki R., Y. Yagi, R. Aránguiz, J. González, and G. González: Rupture Process During the 2015 Illapel, Chile Earthquake: Zigzag-Along-Dip Rupture Episodes, Pure and Applied Geophysics, 173, 4, pp.1011-1020, 2016.
金谷淳二,池浦友則,土方勝一郎,植竹富一:新潟県中越地域の強震記録を用いたスペクトルインバージョン解析,日本建築学会学術講演梗概集. B-2, 構造II, pp.303-304,2006.
壇一男,渡辺基史,佐藤俊明,石井透:断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化,日本建築学会構造系論文集,第545号,pp.51-62,2001.
友澤裕介,加藤研一,池浦友則,渡部哲巳,石川直哉:メキシコ地域で発生する海溝型地震の震源特性の検討,地震学会秋季大会,2017.
2015年9月16日のチリ地震(Mw8.3) はナスカプレートと南アメリカプレートの境界で発生したプレート間地震であり、震源域直上で多くの観測記録が得られた。Okuwaki et al. (2016) やMelgar et al. (2016) によりこの地震の複雑な破壊過程が示されており、高周波成分を励起したのは断層深部、大きな断層すべりを起こしたのは断層浅部と推定されている。本検討では、チリ地域で発生した地震観測記録を用いてスペクトルインバージョン解析を行い、同地域のQ値、震源特性、サイト増幅特性を評価した。また、評価した震源特性から地震モーメントと短周期レベルの関係や、応力降下量と深さの関係を検討した。
2.データセットと解析手法
CSN (Centro Sismológico Nacional; http://evtdb.csn.uchile.cl/)からチリ周辺で発生した地震の強震観測記録をダウンロードした。本震記録のほかに、周辺で発生したプレート間地震である31地震、27観測点の386記録を検討に用いた。これらの観測記録はMw5.0~7.0、距離200km以下で、200Gal以下の記録である。
まず、本震を除く観測記録からスペクトルインバージョン解析を用いてQ値、震源特性とサイト増幅特性を評価した。拘束条件は、金谷ほか(2006) と同等とした。小地震の震源スペクトルがω二乗モデルに良くあてはまるという仮定のもとに、基準地震を選定し、震源特性とサイト増幅特性のトレードオフを解消する補正関数を評価した。また、Okuwaki et al. (2016) の検討に用いられた速度構造モデルを参照して、各地震の震源深さに応じたS波速度と密度を設定して震源スペクトルを評価した。地震モーメントはGlobal CMT Projectの値を用いて、コーナー周波数のみを探索した。フィッティングの対象周波数は0.2~5Hzとした。
次に、推定したQ値とサイト増幅特性を用いて本震の震源スペクトルを評価した。地震規模が大きく断層面が広いため、破壊開始点からの震源距離では誤差が大きくなると考えられる。そこで、Okuwaki et al. (2016) の断層モデルに基づき、すべりの不均質性を考慮して計算した等価震源距離Xeqを用いる場合と、強震観測記録を含む解析から推定したMelgar et al. (2016) による震源モデルを参照して、短周期成分を励起した領域からの距離を用いる場合の2通りの検討を行った。
3.結果
推定したQ値は、Q(f)=2000.8程度となった。2通りの距離指標ともに、推定された本震の震源特性に大差はなかった。推定したコーナー周波数から短周期レベルを算定し、地震モーメントとの関係を整理すると、2015年9月16日のチリ地震の短周期レベルは、壇ほか(2001) の平均程度となった。また、Brune(1970) により応力降下量を算定した。本震の応力降下量は6.0MPa、その他の地震では0.2~5.0MPa程度と推定された。応力降下量と震源深さの関係を整理したところ、ばらつきが大きいものの深さ依存性がやや見られる結果となった。友澤ほか(2017) においてメキシコ地域でも同様の検討を行っているが、応力降下量の深さ依存性は、両地域で共通する傾向として抽出された。
参考文献
Brune, J. N.: Tectonic stress and the spectra of seismic shear waves from earthquakes, J. Geophys. Res., Vol.75, pp. 4997-5009, 1970.
Melgar, D., W. Fan, S. Riquelme, J. Geng, C. Liang, M. Fuentes, G. Vargas, R. M. Allen, P. M. Shearer, and E. J. Fielding: Slip segmentation and slow rupture to the trench during the 2015, Mw8.3 Illapel, Chile earthquake, Geophys. Res. Lett., 43, 961–966, doi:10.1002/2015GL067369, 2016.
Okuwaki R., Y. Yagi, R. Aránguiz, J. González, and G. González: Rupture Process During the 2015 Illapel, Chile Earthquake: Zigzag-Along-Dip Rupture Episodes, Pure and Applied Geophysics, 173, 4, pp.1011-1020, 2016.
金谷淳二,池浦友則,土方勝一郎,植竹富一:新潟県中越地域の強震記録を用いたスペクトルインバージョン解析,日本建築学会学術講演梗概集. B-2, 構造II, pp.303-304,2006.
壇一男,渡辺基史,佐藤俊明,石井透:断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化,日本建築学会構造系論文集,第545号,pp.51-62,2001.
友澤裕介,加藤研一,池浦友則,渡部哲巳,石川直哉:メキシコ地域で発生する海溝型地震の震源特性の検討,地震学会秋季大会,2017.