[SSS14-P29] 2014年長野県北部の地震(MJ 6.7)の震源過程 ~3次元速度構造を考慮した再解析~
キーワード:2014年長野県北部の地震、震源過程、強震動、断層近傍地震動
【はじめに】
2014年11月22日に発生した長野県北部の地震(MJ 6.7)では,既知の神城断層に沿って地表地震断層が確認されており,断層すべりが地表付近まで及んだものと考えられる.また,断層近傍で記録された複数の強震波形を使い,断層面上,特に浅部での高分解能の時空間すべり分布を推定できる可能性がある.これらの推定精度を向上させることは,断層近傍での強震動を理解するために重要である.
引間・他(2015)ではK-NET白馬,KiK-net白馬の強震記録を積分して作成した変位波形も使用して震源インバージョンを行い,断層浅部と深部とですべり速度時間関数の特徴が異なる可能性を示した.今回は,断層面形状を見直し,さらにグリーン関数を計算するための速度構造モデルを変更するなどして,再解析を行った結果を示す.
【使用データ】
前回と同様に震源から50km程度以内のKiK-net観測点を主に使用することとし,加速度波形に0.03~0.8Hzのバンドパスフィルタを適用し積分した速度波形を解析に用いた.さらに,地表断層から1~2km 西方のK-NET白馬(NGN005)・KiK-net白馬(NGNH36)の地表地震計で観測された強震波形に適切な基線補正を行い積分することで,永久変位まで含んだ変位波形が求められており(中村・他,2015),これらの波形も合わせてインバージョンを行った.
【解析(1)】
本震の震源位置は,酒井・他(2015)による臨時地震観測データを用いた再決定震源[36.6882°, 137.9135°, 3.78km]とした.断層面は,引間・他(2015)の結果を踏まえ,走向は前回同様に25°としたが,傾斜は震源よりも深部では60°,浅部では50°に変更した.断層長さは約20km,幅は約15kmである.震源インバージョン解析に先立ち,震源付近で発生した小地震(2014年11月23日12:46, MJ 4.4)の観測記録を用いて観測点毎に水平成層構造モデルをチューニングし,速度波形についてはKohketsu(1985)を使い,変位波形に対してはZhu and Rivera(2002)によりグリーン関数の計算を行った.
解析の際の小断層サイズは前回と同じ1.5kmに加えて,1.0kmとした場合についても検討した.また,深部の破壊伝播速度はVr=2.8km/s程度,浅部への伝播速度はVr=1.5km/s程度とした.
【解析結果(1)】
最終すべり分布として,前回と同様に震源付近のやや深部に最大すべり1m程度の大きなすべりと,断層浅部の地表地震断層が出現した付近にも1m程度のすべり量が求まった.浅部のすべりは深部のすべりに少し遅れて地表に向けて伝播し,すべり速度時間関数も相対的に幅広い形状である.また,小断層サイズを細分化した解析では,断層浅部の南端付近でもやや大きなすべりが求まっており,堀之内地区での大きな被害と関連している可能性がある.なお,地震モーメントはM0=3×1018 Nm(Mw 6.3)程度であった.
【解析(2)】
上記の震源インバージョン解析においても,一部の観測点では観測記録を十分に再現できなかった.震源域周辺は山地と平地・盆地が入り組んでおり,地下構造も複雑と考えられる.そこで,全国1次地下構造モデル(暫定版)(2012)による3次元速度構造モデルを用いてグリーン関数を計算し,インバージョンを行った.グリーン関数の計算は3次元差分法により行い,相反定理を用いて計算時間の短縮を図った.差分法の格子間隔は水平方向に100m,深さ方向は浅部~深部で50m~400mとして計算を行った.その他の計算条件も水平成層構造によるグリーン関数と同等の有効周波数となるように設定した.
【解析結果(2)】
すべり分布の特徴は,水平成層構造を仮定した解析結果と大きくは変わらないものの,使用する地下構造モデルの物性値が異なるため,最大すべり量や破壊伝播速度がやや異なる結果が得られた.一方,断層浅部と深部でのすべり速度時間関数の相違は解析(1)と同様に見られる.これは,断層すべりを直接的に反映した断層近傍での広帯域地震波形を解析に用いた効果と考えられる.
<謝辞:解析には,防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録,F-netメカニズム解,気象庁一元化震源,また,全国1次地下構造モデル(暫定版)を使用しています.酒井慎一准教授には震源情報を頂きました.記して感謝致します.>
2014年11月22日に発生した長野県北部の地震(MJ 6.7)では,既知の神城断層に沿って地表地震断層が確認されており,断層すべりが地表付近まで及んだものと考えられる.また,断層近傍で記録された複数の強震波形を使い,断層面上,特に浅部での高分解能の時空間すべり分布を推定できる可能性がある.これらの推定精度を向上させることは,断層近傍での強震動を理解するために重要である.
引間・他(2015)ではK-NET白馬,KiK-net白馬の強震記録を積分して作成した変位波形も使用して震源インバージョンを行い,断層浅部と深部とですべり速度時間関数の特徴が異なる可能性を示した.今回は,断層面形状を見直し,さらにグリーン関数を計算するための速度構造モデルを変更するなどして,再解析を行った結果を示す.
【使用データ】
前回と同様に震源から50km程度以内のKiK-net観測点を主に使用することとし,加速度波形に0.03~0.8Hzのバンドパスフィルタを適用し積分した速度波形を解析に用いた.さらに,地表断層から1~2km 西方のK-NET白馬(NGN005)・KiK-net白馬(NGNH36)の地表地震計で観測された強震波形に適切な基線補正を行い積分することで,永久変位まで含んだ変位波形が求められており(中村・他,2015),これらの波形も合わせてインバージョンを行った.
【解析(1)】
本震の震源位置は,酒井・他(2015)による臨時地震観測データを用いた再決定震源[36.6882°, 137.9135°, 3.78km]とした.断層面は,引間・他(2015)の結果を踏まえ,走向は前回同様に25°としたが,傾斜は震源よりも深部では60°,浅部では50°に変更した.断層長さは約20km,幅は約15kmである.震源インバージョン解析に先立ち,震源付近で発生した小地震(2014年11月23日12:46, MJ 4.4)の観測記録を用いて観測点毎に水平成層構造モデルをチューニングし,速度波形についてはKohketsu(1985)を使い,変位波形に対してはZhu and Rivera(2002)によりグリーン関数の計算を行った.
解析の際の小断層サイズは前回と同じ1.5kmに加えて,1.0kmとした場合についても検討した.また,深部の破壊伝播速度はVr=2.8km/s程度,浅部への伝播速度はVr=1.5km/s程度とした.
【解析結果(1)】
最終すべり分布として,前回と同様に震源付近のやや深部に最大すべり1m程度の大きなすべりと,断層浅部の地表地震断層が出現した付近にも1m程度のすべり量が求まった.浅部のすべりは深部のすべりに少し遅れて地表に向けて伝播し,すべり速度時間関数も相対的に幅広い形状である.また,小断層サイズを細分化した解析では,断層浅部の南端付近でもやや大きなすべりが求まっており,堀之内地区での大きな被害と関連している可能性がある.なお,地震モーメントはM0=3×1018 Nm(Mw 6.3)程度であった.
【解析(2)】
上記の震源インバージョン解析においても,一部の観測点では観測記録を十分に再現できなかった.震源域周辺は山地と平地・盆地が入り組んでおり,地下構造も複雑と考えられる.そこで,全国1次地下構造モデル(暫定版)(2012)による3次元速度構造モデルを用いてグリーン関数を計算し,インバージョンを行った.グリーン関数の計算は3次元差分法により行い,相反定理を用いて計算時間の短縮を図った.差分法の格子間隔は水平方向に100m,深さ方向は浅部~深部で50m~400mとして計算を行った.その他の計算条件も水平成層構造によるグリーン関数と同等の有効周波数となるように設定した.
【解析結果(2)】
すべり分布の特徴は,水平成層構造を仮定した解析結果と大きくは変わらないものの,使用する地下構造モデルの物性値が異なるため,最大すべり量や破壊伝播速度がやや異なる結果が得られた.一方,断層浅部と深部でのすべり速度時間関数の相違は解析(1)と同様に見られる.これは,断層すべりを直接的に反映した断層近傍での広帯域地震波形を解析に用いた効果と考えられる.
<謝辞:解析には,防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録,F-netメカニズム解,気象庁一元化震源,また,全国1次地下構造モデル(暫定版)を使用しています.酒井慎一准教授には震源情報を頂きました.記して感謝致します.>