[SSS14-P33] 応答関数を用いた長周期地震動即時予測の評価:関東平野でのシミュレーション波形による検討
キーワード:長周期地震動、即時予測、応答関数、関東堆積盆地、Love波、Rayleigh波
はじめに
関東平野では,その周辺における浅発の中・大地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が観測され,その振幅や継続時間は大規模で複雑な堆積盆地構造の影響で場所によって大きく異なる.この特徴は,関東平野での長周期地震動の正確な予測を,国内の他の平野と比べて著しく困難にしている.その一方で,首都圏における地震防災上,石油タンクや超高層建築物などの安全対策に資するための長周期地震動予測の高度化は喫緊の課題とされている.
そこで本研究では,関東平野における長周期地震動即時予測の可能性について検討した.即時予測の方法は,表面波の励起・伝播に関わる堆積盆地の応答関数を事前に評価しておき,堆積盆地外部の地震動記録にもとづいて堆積盆地内部の長周期地震動を予測する方法(例えば,Nagashima et al. 2008)とした.試行的に地震動シミュレーションの計算波形(速度波形,周期3-20 s)を解析データとし,調査研究の対象地域は関東平野の中北部とした.
長周期地震動シミュレーション
浅発の中規模地震による長周期地震動の発生を模擬した3次元差分法による地震動シミュレーション(Takemura et al. 2015)を実施した.2013年2月25日の栃木県北部の地震(Mw 5.8)を対象に,発震機構にはF-netカタログの値を利用し,震源の深さを0.5~16 kmの範囲で変化させて,K-NET/KiK-netおよびSK-netの観測点における速度波形を合成した.堆積層と地震基盤以深の地震波速度構造モデルには,増田・他 (2014)モデルとJIVSM(Koketsu et al. 2012)をそれぞれ使用した.
応答関数
本研究では,長周期地震動に関わる堆積盆地の応答関数を,関東堆積盆地北縁部で震源からほぼ南に位置するSK-net のTCH2観測点(栃木県足利市,基準観測点とする)における計算波形を入力,その他の盆地内部の観測点(盆地北端から50 km程度まで)の計算波形を出力とみなして評価した.簡単のため,長周期地震動を引き起こす地震波は震央から南方向に伝播するものと仮定し,応答関数は地震動の共通成分(上下成分-上下成分など)毎に評価した.応答関数の計算にはウォーターレベル法を使用した.
評価した応答関数の特徴には,成分毎に大きな差異がみられた.東西成分の応答関数の形状(振幅・位相の時間変化)は単純であり,孤立的な波束には明瞭な正分散がみられた.一方,上下成分と南北成分の応答関数の形状は複雑であった.これらの特徴は,解析対象とした観測点配置では,東西成分にはLove波の基本モードの伝播特性,上下成分と南北成分にはRayleigh波の基本モードと高次モードの伝播特性が反映されているためと考えられる.応答関数への震源の深さの影響は,東西成分では比較的小さく単純であるものの,上下成分と南北成分では振幅と位相に大きな変化がみられ評価が簡単でないことが明らかになった.
長周期地震動即時予測の数値実験
上記の応答関数を使用して,K-NETのSIT003観測点(埼玉県久喜市)を対象とした長周期地震動即時予測の数値実験を行った.同観測点は,関東堆積盆地の北端から20 km程度,地震基盤深度3 km以上の場所に位置している.数値実験では,震源の深さを8 kmとして求めた応答関数を使用して,震源の深さが異なる場合(0.5~16 km)に長周期地震動をどの程度正確に予測できるか評価した.その結果,東西成分の応答関数を用いた数値実験については,震源の深さによらず長周期地震動をほぼ正確に再現できた.このことは,Love波に起因する長周期地震動については,応答関数を用いた即時予測が可能であることを強く示唆している.今後の研究課題としては,他の地震を解析対象に含めた同様の検討,リアルタイムでの長周期地震動予測の検討などがある.
謝辞
本研究では防災科学技術研究所のK-NET/KiK-netのデータおよびF-netのMT解を使用しました.また,首都圏強震動総合ネットワークSK-netのデータを使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターのEIC計算機システムを利用しました.
関東平野では,その周辺における浅発の中・大地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が観測され,その振幅や継続時間は大規模で複雑な堆積盆地構造の影響で場所によって大きく異なる.この特徴は,関東平野での長周期地震動の正確な予測を,国内の他の平野と比べて著しく困難にしている.その一方で,首都圏における地震防災上,石油タンクや超高層建築物などの安全対策に資するための長周期地震動予測の高度化は喫緊の課題とされている.
そこで本研究では,関東平野における長周期地震動即時予測の可能性について検討した.即時予測の方法は,表面波の励起・伝播に関わる堆積盆地の応答関数を事前に評価しておき,堆積盆地外部の地震動記録にもとづいて堆積盆地内部の長周期地震動を予測する方法(例えば,Nagashima et al. 2008)とした.試行的に地震動シミュレーションの計算波形(速度波形,周期3-20 s)を解析データとし,調査研究の対象地域は関東平野の中北部とした.
長周期地震動シミュレーション
浅発の中規模地震による長周期地震動の発生を模擬した3次元差分法による地震動シミュレーション(Takemura et al. 2015)を実施した.2013年2月25日の栃木県北部の地震(Mw 5.8)を対象に,発震機構にはF-netカタログの値を利用し,震源の深さを0.5~16 kmの範囲で変化させて,K-NET/KiK-netおよびSK-netの観測点における速度波形を合成した.堆積層と地震基盤以深の地震波速度構造モデルには,増田・他 (2014)モデルとJIVSM(Koketsu et al. 2012)をそれぞれ使用した.
応答関数
本研究では,長周期地震動に関わる堆積盆地の応答関数を,関東堆積盆地北縁部で震源からほぼ南に位置するSK-net のTCH2観測点(栃木県足利市,基準観測点とする)における計算波形を入力,その他の盆地内部の観測点(盆地北端から50 km程度まで)の計算波形を出力とみなして評価した.簡単のため,長周期地震動を引き起こす地震波は震央から南方向に伝播するものと仮定し,応答関数は地震動の共通成分(上下成分-上下成分など)毎に評価した.応答関数の計算にはウォーターレベル法を使用した.
評価した応答関数の特徴には,成分毎に大きな差異がみられた.東西成分の応答関数の形状(振幅・位相の時間変化)は単純であり,孤立的な波束には明瞭な正分散がみられた.一方,上下成分と南北成分の応答関数の形状は複雑であった.これらの特徴は,解析対象とした観測点配置では,東西成分にはLove波の基本モードの伝播特性,上下成分と南北成分にはRayleigh波の基本モードと高次モードの伝播特性が反映されているためと考えられる.応答関数への震源の深さの影響は,東西成分では比較的小さく単純であるものの,上下成分と南北成分では振幅と位相に大きな変化がみられ評価が簡単でないことが明らかになった.
長周期地震動即時予測の数値実験
上記の応答関数を使用して,K-NETのSIT003観測点(埼玉県久喜市)を対象とした長周期地震動即時予測の数値実験を行った.同観測点は,関東堆積盆地の北端から20 km程度,地震基盤深度3 km以上の場所に位置している.数値実験では,震源の深さを8 kmとして求めた応答関数を使用して,震源の深さが異なる場合(0.5~16 km)に長周期地震動をどの程度正確に予測できるか評価した.その結果,東西成分の応答関数を用いた数値実験については,震源の深さによらず長周期地震動をほぼ正確に再現できた.このことは,Love波に起因する長周期地震動については,応答関数を用いた即時予測が可能であることを強く示唆している.今後の研究課題としては,他の地震を解析対象に含めた同様の検討,リアルタイムでの長周期地震動予測の検討などがある.
謝辞
本研究では防災科学技術研究所のK-NET/KiK-netのデータおよびF-netのMT解を使用しました.また,首都圏強震動総合ネットワークSK-netのデータを使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターのEIC計算機システムを利用しました.