日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT48] 合成開口レーダー

2018年5月21日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、木下 陽平(一般財団法人リモート・センシング技術センター、共同)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)

[STT48-P10] ひまわり8号で推定した可降水量によるInSAR大気遅延の補正

*木下 陽平1二村 忠宏1古田 竜一1 (1.一般財団法人リモート・センシング技術センター)

キーワード:ひまわり8号、可降水量、InSAR、atmospheric delay

水蒸気による大気伝搬遅延は合成開口レーダー干渉法 (InSAR) において大きな誤差要因の一つである. 大気水蒸気による遅延効果の補正のため, これまでに数多くの補正がなされてきた (e.g. Jolivet et al. 2014; Foster et al. 2006). Li et al. (2009) はMERIS/MODISによる可降水量データを用い, InSARの水蒸気遅延を効果的に補正できることを示している. 本研究では日本の静止軌道衛星による補正手法として, ひまわり8号から推定した可降水量によるInSAR水蒸気遅延補正モデルの開発を行っており, 本講演ではその経過について報告する.

ひまわり8号は日本の運用している最新の静止気象衛星であり, 波長に応じた16の観測バンドを持ち, 赤外バンドの空間分解能2kmで10分間隔, 日本域に限定すれば2.5分間隔で観測を続けている. 可降水量の推定にはsplit-window algorithm (Suggs et al. 1998) を用いた. Split-window algorithmに必要な大気状態のデータには6時間間隔のERA-Interimを用い, 放射強度をシミュレートするためのモデルとしてRTTOV (Saunders et al. 1999) を用いている. 開発した可降水量推定アルゴリズムの検証には国内にあるラジオゾンデデータを用いた. 検証用データの期間はひまわり8号のデータが利用可能な2015年7月から2017年10月までとしている. 赤外バンドによる可降水量は雲域では正しい値が得られないことから, 検証用データではラジオゾンデの観測時刻に観測点周辺が晴天となっているデータを可視画像の目視により抽出している. Split-window algorithmでは最小二乗法的に可降水量と地表面温度を決めることから最低限2つの赤外バンドデータがあれば理論上可降水量を推定可能ではあるものの, より高精度に推定するため利用可能な赤外バンド全て (10バンド) を用いて可降水量の推定を行っている. また推定可降水量から雲域の異常値を取り除くための雲マスクとして, Suseno and Yamada (2012) で提唱された雲マスクを適用している. 推定した可降水量については, 地上気温から求めた変換係数によって天頂方向湿潤遅延量に変換したのち, ERA-Interimで推定した天頂方向静水圧遅延と合わせて天頂遅延量を推定し, 入射角に依存する簡易なマッピング関数 (三角関数) によって衛星視線方向の遅延量を求めている. このようにして得られた遅延モデルは, GAMMAプロセッサで処理したSentinel-1 InSARデータと比較を行った.

ひまわり8号による可降水量推定の検証の結果, ラジオゾンデによる可降水量と統計的に良い一致を示した. これらデータによる平均二乗誤差平方根 (RMSE) は3.85mm, バイアスは1.40mmであった. 観測点毎に比較を行ったところ, 本州や北海道, 九州にある観測点ではRMSE, バイアスともに小さな値を示している一方で, 石垣島や父島のような比較的小さな島に位置する観測点ではひまわりによる可降水量にバイアスで5mmを超えるような系統的なずれが現れた. 系統的バイアスが現れた観測点に共通している点は, いずれの観測点も本州より南側に位置していることと, 島の面積が非常に小さいことである. そこで追加の検証として, 石垣島とほぼ同じ緯度に位置する台湾北部のラジオゾンデデータを用いて同様の検証を行ったところ, 上述の系統的バイアスは現れず, 統計的に良い一致を示した. このことから島の観測点で現れる系統的バイアスは緯度に依存するものではなく, 島の面積が小さいことにより, 放射伝達モデル (RTTOV) で用いられる海陸マスクの解像度が低いことによって島を正しく表現していないことに起因していると考えている. これら系統的バイアスを含む島の観測点を除いた検証では, RMSEは3.035mm, バイアスは0.271mmと非常に良好な結果を示した (添付の図を参照).

発表当日ではこれら結果に加え, 予稿投稿時からの進捗と今後の予定を合わせて報告する予定である.