日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC39] Pre-eruptive magmatic processes: petrologic analyses, experimental simulations and dynamics modeling

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:中村 美千彦(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、東宮 昭彦(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、Shanaka L de Silva (共同)、Costa Fidel(Earth Observatory of Singapore, Nanynag Technological University)

[SVC39-P06] 榛名火山における溶岩ドーム形成噴火のマグマ-過去45,000年間の時間変化-

*鈴木 由希1戸枝 百合香2木村 真也2田中  伶2 (1.早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 地球科学専修、2.早稲田大学, 教育学部, 地球科学専修)

キーワード:榛名火山、溶岩ドーム、マッシュ状珪長質マグマ、マグマ混合、高温マグマによる加熱、噴火誘発

榛名山は、東北日本孤最南端に位置する活火山である。約50万年間の活動で、苦鉄質マグマによる成層火山体の形成と破壊、それに引き続く珪長質マグマの活動という、島弧火山に典型的な活動史を有している。大島(1986)は榛名山の活動を5期に分類した。これに対し下司・竹内(2012)は約20万年間の休止期を見出し、古期(~240ka)と新期(45ka~)に分類した。榛名山の全活動期に対し、下司・竹内(2012)の他、高橋・他(2016)が、噴出物の全岩化学組成を報告している。しかし記載岩石学的特徴や斑晶鉱物組成データを用いた、マグマ供給系の深度・構造や、噴火誘発過程に関する検討は、ほとんど行われていない。例外はSuzuki and Nakada (2007, J. Petrology)による二ツ岳における榛名山最新の活動(6世紀後半~7世紀初頭)の研究である。そこでは斜長石+斜方輝石+角閃石+Fe-Ti酸化物を有するマッシュ状珪長質マグマ(SiO2= 60.5~61.5 wt.%)に、ほぼ無斑晶質の苦鉄質マグマ(SiO2=51~53wt.%)が注入し、マッシュが再流動化され噴火が誘発されたことと、端成分マグマの貯蔵条件が明らかにされた。この種の岩石学的検討は、噴火時の地球物理学的観測に役立つだけではなく、噴火初期に放出される火山灰に本質物質が含まれるかどうかを判定する上でも重要である(有珠山;東宮・他, 2001)。
以上を踏まえ、榛名火山の新期活動の研究を進めている。新期の活動は 4万5千年前の榛名山山頂における榛名カルデラ形成噴火で開始した。その後、榛名山山頂~東麓にかけて、前述の二ツ岳を含む溶岩ドーム群(榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山)が生成した。テフラとの層位関係により、榛名富士と蛇ヶ岳は45~29ka、相馬山は20~15ka、水沢山はおよそ10kaの活動と考えられている(下司・竹内, 2012)。二ツ岳では、前述の6世紀後半~7世紀初頭の他、5世紀末~6世紀初頭にも活動が起きている(前者は二ツ岳伊香保噴火、後者は二ツ岳渋川噴火;早田, 1989)。今回、二ツ岳の2噴火の溶岩・火砕物(Suzuki and Nakada, 2007;鈴木未公表データ)と、榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山の溶岩を、全岩化学組成・記載岩石学的特徴・斑晶組成の観点から比較した。二ッ岳以外の古い4つの溶岩ドーム噴火の試料は、そのほとんどが溶岩ドームから直接採取された溶岩だが、水沢山については火砕流もしくは崖錐堆積物に含まれる溶岩ブロックも検討した。
榛名富士・蛇ヶ岳・相馬山・水沢山の溶岩サンプルには、暗色包有物が含まれることがある。包有物を除くホスト部分の全岩化学組成は、今回検討した試料ではSiO2=59.5~64.5 wt.%の範囲にある。斑晶組みわせは、ほとんどで斜長石+斜方輝石+角閃石+Fe-Ti酸化物+石英であるが、SiO2含有量最小の相馬山のサンプル(SiO2=59.5 wt.%)ではカンラン石斑晶も確認された。つまり古い4つの溶岩ドーム噴火の産物には石英が含まれ、二ツ岳での2噴火と異なっている。記載岩石学的特徴と、斑晶の組成累帯構造から、古い4つの溶岩ドーム噴火においても、マッシュ状珪長質マグマ(斜長石+斜方輝石+角閃石+Fe-Ti酸化物+石英)に高温マグマが注入、その結果としてマグマ混合や加熱が起き、噴火が誘発されたと考えられる。溶岩試料の斑晶量は、全岩のSiO2量の増加とともに増加する傾向がある。これはSuzuki and Nakada (2007)の二ツ岳伊香保噴火同様、高温端成分が斑晶に乏しかったことを示唆する。
全岩化学組成において、古い4つの溶岩ドーム噴火のデータは、(少なくとも現時点までのデータでは)火山体毎に偏りがあるものの、その全体がブロードな直線状のトレンドを形成する。カンラン石斑晶を含んでいることから、加熱ではなくマグマ混合が起きたことの確実な相馬山の1サンプルを除くと、全岩組成はSiO2=60.9~64.5 wt.%の範囲にある。これは二ツ岳の2噴火の珪長質端成分(伊香保噴火の白色軽石;渋川噴火のブロック・アンド・アッシュフローの本質溶岩ブロック;SiO2=60.5~61.5 wt.%)よりもSiO2に富んでいる傾向があるといえる。つまり古い4つの溶岩ドーム噴火の際の珪長質端成分は、二ツ岳の2噴火よりもSiO2に富んでいたことを示唆し、石英斑晶の存在とも調和的である。しかし、古い4つの溶岩ドームの活動(~10ka)と、二ツ岳の活動で、全く異なる珪長質マグマが活動したとは言い切れない。古い4つの溶岩ドームの斜長石や斜方輝石のコア組成(苦鉄質マグマとの混合や、加熱を受ける前の部分)は、それぞれ、An50-80とMg#65前後であり、Suzuki and Nakada (2007)の二ツ岳の組成と類似している。したがって珪長質マグマの起源は共通であるが、噴火直前に高温マグマの注入を受けるまでの貯蔵圧力や温度が、活動年代により異ったという可能性が高い。