[SVC41-P03] 火山性地表変位の時間発展を再現するマグマ移動モデル構築の試み-最近20年間における雌阿寒岳北東域の隆起・沈降イベントへの適用-
キーワード:地殻変動、マグマだまり、雌阿寒岳、GNSS
1. はじめに
北海道東部に位置する雌阿寒岳は,活動的な活火山である.その北東部を中心とした地殻変動の存在が,干渉SARやGNSSによって明らかにされている.国土地理院が阿寒湖畔に設置したGEONET点 (960513:阿寒2)と,阿寒湖南東方の点 (950122:鶴居)の距離変化に着目すると,大きな短縮のトレンドに,伸長と短縮のペアが連続して現れるエピソディックな変化の繰り返しが重畳しているように見える.2003年十勝沖地震のステップなどの除去後の全体的な短縮のトレンドは,およそ1 cm/年であり,太平洋プレートの沈み込みによる北海道の北西-南東方向の短縮による広域変動を反映していると考えられる.したがって,雌阿寒岳の変動のみを抽出するため,線形フィッティングにより直線トレンド成分を除去した.その結果,急速で短期間の伸縮とより長期間で緩やかな短縮が,数年おきに繰り返し,発生していることが,より明確に確認できる.なお,GPSで伸長が見られる期間の衛星SAR干渉解析は,共通して,雌阿寒岳の約10km北東部を中心としたやや深部の膨張を示しており.GEONET点の位置関係を考慮すると,距離の伸長・短縮は,北東部の膨張・収縮を意味することが分かっている.
2. 雌阿寒岳の膨張・収縮モデル
本研究では,この観測された地表変形のメカニズムに着目して,その発生機構の説明を試みる.モデル化は,ChileのLaguna del Maule火山域 (LdM)で観測された変動について議論した,Mével et al. (2016)に準拠して実施することにした.彼らの力学モデルは,マグマの流動が,弾性地殻内のマグマだまりの体積変化をもたらし,それが地表変動を発生させると考える。このモデルは,火山の地下を思い切って単純化した第1次近似的なものであるが,LdMに対してある程度の成功を収めていると考えられるため,雌阿寒岳の地殻変動の基本的な性質を理解するための出発点として,彼らのモデルに準拠することとした.
ただし,Mével et al. (2016) らが扱っているのは膨張フェーズのみであるが,雌阿寒岳では,膨張と収縮が繰り返されているため,マグマの上昇・下降に伴うマグマだまりの膨張・収縮を表せるように,彼らのモデルを拡張した.そして、マグマ流動の支配方程式を用いて、マグマだまりの膨張・収縮の2段階の地表変位それぞれに対応する、地表変位の2つの解析解を導出した。このモデルでは、2段階の地表変位は,それぞれ時定数の異なる指数関数的な減衰として表現される.
この一組の解析解をGEONETの地表変位データに適用し,関連するパラメータを決定することにした。本研究では約20年間の変位データから、少なくとも膨張・収縮のどちらかを記録している6つの地表変形イベントを選定し、それぞれに適したパラメータ値を求めた。結果として、現象に関係する火山学的なパラメータとしては、2段階それぞれの地表変形の時定数の値が得られた。時定数は,膨張期はおよそ70日から220日,収縮期は,470日から2300日であり,6つのイベントの全てで、収縮段階での地表変位の時定数の方が大きく、その比率は膨張段階に比べて約2~30倍であった。
マグマだまりの形状や地殻の弾性的な物性などの火山学的パラメータは約20年の間一定であるとみなすと,この時定数の違いが、流入・流出するマグマの粘性の違いに帰着させることができる.マグマの流動が流入から流出に転じるとき、その粘性が2~30倍に増加したと考えると,この時定数の差が説明可能である.この結果は、上昇に伴うマグマの冷却や結晶分化作用などの現象を示唆する可能性がある.
3. 今後の課題
現段階では、極めて単純化したモデルによる議論ではあるが,雌阿寒岳で繰り返されている膨張と収縮の基本的な特徴を再現することができた.しかし,干渉SAR結果や多点GPSによる観測結果に基づく地殻変動のより詳細な解析によれば,雄阿寒岳の力源は,より複雑な構造をしている可能性が高い.これらの研究成果を参考にし,モデルが雌阿寒岳の特徴を反映したものになるよう改良し、未知のパラメータをより厳密に推定できるようにすることが今後の研究課題である。
4. 謝辞
この研究に使用したGEONETデータは、国土地理院から提供されました。感謝します.
北海道東部に位置する雌阿寒岳は,活動的な活火山である.その北東部を中心とした地殻変動の存在が,干渉SARやGNSSによって明らかにされている.国土地理院が阿寒湖畔に設置したGEONET点 (960513:阿寒2)と,阿寒湖南東方の点 (950122:鶴居)の距離変化に着目すると,大きな短縮のトレンドに,伸長と短縮のペアが連続して現れるエピソディックな変化の繰り返しが重畳しているように見える.2003年十勝沖地震のステップなどの除去後の全体的な短縮のトレンドは,およそ1 cm/年であり,太平洋プレートの沈み込みによる北海道の北西-南東方向の短縮による広域変動を反映していると考えられる.したがって,雌阿寒岳の変動のみを抽出するため,線形フィッティングにより直線トレンド成分を除去した.その結果,急速で短期間の伸縮とより長期間で緩やかな短縮が,数年おきに繰り返し,発生していることが,より明確に確認できる.なお,GPSで伸長が見られる期間の衛星SAR干渉解析は,共通して,雌阿寒岳の約10km北東部を中心としたやや深部の膨張を示しており.GEONET点の位置関係を考慮すると,距離の伸長・短縮は,北東部の膨張・収縮を意味することが分かっている.
2. 雌阿寒岳の膨張・収縮モデル
本研究では,この観測された地表変形のメカニズムに着目して,その発生機構の説明を試みる.モデル化は,ChileのLaguna del Maule火山域 (LdM)で観測された変動について議論した,Mével et al. (2016)に準拠して実施することにした.彼らの力学モデルは,マグマの流動が,弾性地殻内のマグマだまりの体積変化をもたらし,それが地表変動を発生させると考える。このモデルは,火山の地下を思い切って単純化した第1次近似的なものであるが,LdMに対してある程度の成功を収めていると考えられるため,雌阿寒岳の地殻変動の基本的な性質を理解するための出発点として,彼らのモデルに準拠することとした.
ただし,Mével et al. (2016) らが扱っているのは膨張フェーズのみであるが,雌阿寒岳では,膨張と収縮が繰り返されているため,マグマの上昇・下降に伴うマグマだまりの膨張・収縮を表せるように,彼らのモデルを拡張した.そして、マグマ流動の支配方程式を用いて、マグマだまりの膨張・収縮の2段階の地表変位それぞれに対応する、地表変位の2つの解析解を導出した。このモデルでは、2段階の地表変位は,それぞれ時定数の異なる指数関数的な減衰として表現される.
この一組の解析解をGEONETの地表変位データに適用し,関連するパラメータを決定することにした。本研究では約20年間の変位データから、少なくとも膨張・収縮のどちらかを記録している6つの地表変形イベントを選定し、それぞれに適したパラメータ値を求めた。結果として、現象に関係する火山学的なパラメータとしては、2段階それぞれの地表変形の時定数の値が得られた。時定数は,膨張期はおよそ70日から220日,収縮期は,470日から2300日であり,6つのイベントの全てで、収縮段階での地表変位の時定数の方が大きく、その比率は膨張段階に比べて約2~30倍であった。
マグマだまりの形状や地殻の弾性的な物性などの火山学的パラメータは約20年の間一定であるとみなすと,この時定数の違いが、流入・流出するマグマの粘性の違いに帰着させることができる.マグマの流動が流入から流出に転じるとき、その粘性が2~30倍に増加したと考えると,この時定数の差が説明可能である.この結果は、上昇に伴うマグマの冷却や結晶分化作用などの現象を示唆する可能性がある.
3. 今後の課題
現段階では、極めて単純化したモデルによる議論ではあるが,雌阿寒岳で繰り返されている膨張と収縮の基本的な特徴を再現することができた.しかし,干渉SAR結果や多点GPSによる観測結果に基づく地殻変動のより詳細な解析によれば,雄阿寒岳の力源は,より複雑な構造をしている可能性が高い.これらの研究成果を参考にし,モデルが雌阿寒岳の特徴を反映したものになるよう改良し、未知のパラメータをより厳密に推定できるようにすることが今後の研究課題である。
4. 謝辞
この研究に使用したGEONETデータは、国土地理院から提供されました。感謝します.