日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC41] 活動的火山

2018年5月23日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、青木 陽介(東京大学地震研究所、共同)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC41-P05] TDEM法による那須岳の浅部比抵抗イメージ

*棚田 俊收1中村 洋一2 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所、2.宇都宮大学名誉教授)

キーワード:那須岳、火山、比抵抗

1.はじめに
活火山である那須岳の茶臼岳(1915m)周辺において、TDEM法による浅部の比抵抗構造調査を実施し、噴気域や地質構造との関係を調査した。茶臼岳は、那須火山群の中で最も新しい火山であり、約1.6万年前から安山岩やデイサイト質のマグマ活動を開始したと考えられている。最後のマグマ噴火は1410年に発生し、山頂溶岩ドームを形成した。明治以降では、1881年の水蒸気噴火を始めとした何回かの水蒸気噴火や降灰、鳴動、有感地震が記録されている。現在も、溶岩ドームの中央火口(直径100m)の内外には噴気孔が多く、特に西斜面の2つの爆裂火口内では活発な噴気活動が続いている。

2.探査方法
今回探査に用いた手法は、時間領域電磁波探査(TDEM法)と呼ばれ、地熱探査や石油探査などに広く用いられている。この手法は、観測地域から離れた人工送信源より矩形波の電流波形を送信し、する。受信側では、磁力計を用いて磁場の過渡応答を測定する。その後、測定磁場を見掛比抵抗に換算する。人工送信源は調査地域から南東側に約9~10kmに離れた場所に配置し、その形状は全長直線距離約3.3kmのライン状に設定した。人工送信源からは、送信基本周波数0.25Hz、送信電流値43Aの電流波形を100~200回送信した。受信側では、SQUID磁力計を用いて、磁場変化を100kHzで計測した。観測されたデータ解析は、まずフィルタリングとスタック処理を行い、解析用のデータに整えた。次に、磁場-時間軸の減衰曲線を用いて、磁化強度から見掛比抵抗曲線を推定した。この結果をOccamの平滑化拘束条件付きインバージョン法を用いて、1次元比抵抗構造を推定し、各測線ごとの比抵抗断面図を作成した。なお、この解析ソフトは石油公団(現JOGMEC)の電磁波探査プロジェクトで活用されてきた。

3.測 線
測線は、茶臼岳北側の峰の茶屋跡を交差点とする東西と南北方向に伸びる登山道に沿った2本設定した。
○東西測線
東西測線は、西から沼原分岐(EW01)~峰の茶屋跡~峠の茶屋駐車場~大丸温泉(EW44)付近までの約5.5kmの測線であり、峰の茶屋跡の西側には14点の測定点(EW01~EW14)を、東側には20点の測定点(EW21~EW44)を配置した。なお、東西測線の補助測線(理由は後述)として、牛ヶ首からロープウェイ山頂駅へ向かう登山道沿いに0.6kmの測線を設けた。測定点数は7点(NS08~EX16)で、牛ヶ首からロープウェイ山頂駅までの中間地点までに配置した。
○南北測線
南北測線は、南から日の出平(NS01)~牛ヶ首~茶臼岳(西側登山道)~峰の茶屋跡~剣が峰(NS22)までの約3.1kmの測線であり、測定点数は22点である。

4.観測結果
観測は2015年11月25日から12月24日おこなわれた。東西測線のEW01~EW14間及び南北測線NS01~NS20 間においては比較的電磁ノイズが低く、良好なデータが取得できた。しかしながら、東西測線のEW15~EW44では電磁ノイズが多く、繰り返し測定や測定点の移動による再測定を実施した。特に、測定点EW15からEW20の間では磁場の変動幅が大きく、磁力計の調整ができない状態であったため、測定点6点(測線:NS08~EX16)を茶臼岳南側の東西方向の登山道沿いに移動させた。

5.解析結果
今回の解析では、比抵抗値が1000ohmm以上を高比抵抗、100以上1000ohmm未満を中比抵抗、100ohmm未満を低比抵抗と記すこととする。全測線において観測された比抵抗は、低比抵抗から高比抵抗まで極めて幅広い変化が認められた。

○東西測線
峰の茶屋跡を境として、東側と西側では比抵抗構造は異なっていることが判明した。峰の茶屋跡から西側では、概ね低比抵抗-中比抵抗の2層構造であるのに対し、東側では概ね低比抵抗~中比抵抗~高比抵抗の3層構造であった。表層部の低比抵抗値は西側より東側の方で全体的に低い値を示した。低比抵抗層の層厚は、西側で200m程度であった。それに対し東側では100m以下と薄かったが、EW35(ロープウェイ山麓駅南)付近を境として、低比抵抗層の厚みがEW35~EW44でやや厚くなっていた。ただし、東側の測定点EW30、EW39、EW40、EW42 およびEW43のデータについてはデータの品質が悪く、解析に使用できなかったため、測定点EW41付近の低比抵抗層は厚くなっていると考えられるが、深部まで連続しているかどうかは、解析の誤差も含め疑問の余地がある。低比抵抗層下部の中比抵抗層は、西側では解析深度(標高800m)まで続いていた。一方、東側では層厚100m程度の構造が認められた。
高比抵抗層については、西側では層状構造は無く、測定点EW04とEW06の表層から深さ400mと200m程度を頂部とする凸状の高比抵抗が認められた。東側では、ところどころで中比抵抗域が解析深度まで確認できるものの、全体としては高比抵抗層が解析深度(標高800m)まで続いていた。
一方、東西測線の補助測線(NS08~EX16)では、全体として中比抵抗層が卓越していた。測定点EX13からEX16 の間では、表層から200m程度の深部から解析深度(標高800m)まで低比抵抗域が卓越していた。

○南北測線
南北測線の比抵抗構造は概ね低比抵抗-中比抵抗の2層構造であった。低比抵抗の層厚は場所によって異なり、NS12~NS15やNS02~NS03直下の層厚は50m程度と薄いが、その両側に位置するNS04~NS11とNS16~NS20では200m程度の厚みであった。また、測定点NS02~NS03およびNS12~NS15直下では、中比抵抗層も薄く、その下部には高比抵抗領域が解析深度(標高800m)まで延びていた。

○噴気域や熱水と比抵抗の関連
南北測線の測定点NS08(牛ヶ首)~NS12の間は現在も地表面付近で噴気が盛んに出ている地域に当たり、NS10とNS11との間にある噴気域は無間地獄と称されている。NS14~NS17間にも噴気域があり、測線より標高90m程度の高い場所には活発な噴気孔(大噴)が存在する。また、NS08からEX11の登山道沿いでも噴気域が認められている。これらの噴気域の比抵抗構造は、低比抵抗の層厚が薄く、中比抵抗領域が解析深度(標高800m)まで続いている傾向が認められた。
 一方、東西測線においては、測線上に噴気域は存在しないものの、峰の茶屋跡から東側では明瞭な低比抵抗層が地表に沿って存在している。この測線付近では温泉の源泉が点在することから、この明瞭な低比抵抗層は熱水の流動層を示し、その厚みがEW35~EW44でやや厚くなっているところが大丸温泉などの温泉湧出地域と一致している。

○表層地質と比抵抗の関連
那須岳を中心とした那須岳火山噴出物(1408年~1410年)の分布範囲にある南北測線NS08(牛ヶ首)~NS18(峰の茶屋跡)や東西補助測線のNS08(牛ヶ首)~EX16では、比抵抗構造は各測線ごとに異なった様相であった。これは、噴気域の有無か、火山噴出物の層厚の影響と考えられる。
朝日岳噴出物の分布範囲にある南北測線にあるNS18(峰の茶屋跡)~NS20やNS08(牛ヶ首)~NS06、EW14(峰の茶屋跡)~EW11では、同じような低比抵抗-中比抵抗の2層構造であった。
その他の場所では、地すべり堆積物や南月山噴出物の影響と考えられる低比抵抗層が存在した。

謝 辞 本調査にあたり栃木県、那須町や環境省には本観測実施するにあたってご協力をいただいた。合わせて謝意を表す。なお、本観測は三井金属資源開発株式会社によっておこなわれた。