[SVC41-P42] 霧島火山,硫黄山火口周辺の噴気活動と土砂噴出-複数の活動域を有するマルチ火山の理解に向け-
キーワード:霧島火山、硫黄山、土砂噴出
霧島火山,えびの高原周辺の硫黄山火口の南縁では,2015年12月14日に噴気活動が再開してから,徐々にその範囲を拡大してきた.硫黄山は,16~17世紀にブルカノ式噴火及び溶岩噴出によって形成され,その後1769年に最新の水蒸気噴火が発生したことが知られている(田島・他,2014).田島・他(2013)は,霧島火山の長期的な活動において,東域(高千穂峰・御池・御鉢),中域(新燃岳・中岳),西域(えびの高原周辺)が比較的近い時期に規模の大きな噴火を行うことを議論した.2011年の新燃岳噴火後,2013~2014年の韓国岳付近での地震活動の活発化,その後硫黄山周辺での傾斜変動を伴う微動発生など,硫黄山周辺にマグマ供給に伴う火山活動活発化の影響が及んでいる可能性が考えられる.
硫黄山及びえびの高原における噴気温度は,地質調査所(1955),鍵山・他(1979)などによって測定され,舟崎・他(2017)によってまとめられた.硫黄山噴気帯の各年の最高温度推移では,1950年代は120~150℃(3測定)あり,1961年の宮崎県による測定では175℃が記録された.1960年代は記録が少なく,1970年代には鍵山・他(1979)による247℃などの温度が記録された.1990年代になると硫黄山噴気帯の噴気温度の低下が顕著となり2000年代後半には噴気が消滅した.硫黄山噴気帯では,2015年まで噴気活動が途絶えていたが,2015年12月に噴気活動が再開した.
再開後の噴気活動は,田島・他(2017)で報告した様,2015~2016年は熱異常域の拡大と停滞を繰り返しながら拡大する傾向にあった.2017年に入ると,3月19日,21日に2カ所で噴湯孔の出現が確認され,轟音を伴う噴気孔(噴気孔H)を確認するなど地熱活動が活発化した.また,5月5~10日に現地調査を実施した際,硫黄山火口の南西縁において土砂噴出を伴う新たな噴気孔(噴気孔A)が確認できたため以下に詳述する.噴気孔Aの周辺には土砂噴出物が認められ,噴出物は噴気孔から北東及び南西方向に拡がり,噴気孔周辺では地表が暗灰色を呈していた.噴気孔Aより南西方向では,シルト質火山灰の付着によって地表が灰白色化し,さらに延長方向では緑色葉上に灰白色のシルト質火山灰が確認でき,その痕跡は噴気孔Aから距離にして約200 m追跡できた.噴気孔A周辺の2か所から噴出物を採取し,それぞれ3.8 kg/m2,3.4 kg/m2の値が得られた.噴出物は,暗灰色の変色範囲をほぼ一様の厚さで覆っており,両者の平均値と暗灰色域面積より噴出物量を約1トンと推定した.噴気孔A周辺に堆積した噴出物量は,孔の大きさから推定される量とほぼ一致した.また,噴出物は上下2層に別れており,下位層は粗粒火山灰,上位層は細粒火山灰から構成されていた.噴出物の上位層が灰白色の細粒火山灰からなることは,先に噴気孔拡大が起こり,その後泥を含む熱水が噴出したと考えられる.南西に拡がった火山灰は,灰白色の細粒火山灰から構成されており,泥を含む熱水の飛沫が強い風によって拡散することによって生じたと考えられる.従って本現象は,地表下にある熱水溜まりの圧力が高まり地表を破砕し生じた土砂噴出と考えられる.気象庁の硫黄山南カメラ画像によれば4月26日朝までは噴気孔Hに強い噴気が確認できるが,噴気域Aからの強い噴気は見られない.しかし,26日午前11時29分の画像には噴気域A付近と考えられる場所から,薄灰白色の水蒸気プリュームが立ち上る様子を確認することができる.午前10時20分~11時30分頃の噴気は南西の流向となっており,先に報告した火山灰の付着域の分布と一致する.噴気孔A周辺では暗灰色の土砂堆積域が噴気孔の北東側に拡がっており,午前11時29分の画像では両方向に拡がっており,この頃に土砂が噴出したと推定される.
地熱活動は5月以降も継続し,噴気孔Hでは2017年6月4日に128.0℃,9月24日に134.2℃を記録した.それ以前は,火山ガスによって温められた地下水が沸騰し地表に漏れ出ていたが,噴気孔が開口することにより火山ガス成分を多く含む高圧の噴気に変わったため高温化したと考えられる.2011年新燃岳噴火後の2013年頃から生じた現象は,新燃岳噴火に関係した深部マグマの一部が硫黄山への火道にも影響したものと推定される.この様な現象は,1988年の岩手山の貫入にともなう西岩手での噴気活動の活発化(植木・三浦,2001; 土井,2000),有珠山2000年年噴火に伴う潜在ドーム貫入後の西山火口での噴気活動による活発化(Saba et al., 2007; 寺田, 2008)が知られており,硫黄山の地熱活動もこれらと類似した活動によって生じたと推定される.
硫黄山及びえびの高原における噴気温度は,地質調査所(1955),鍵山・他(1979)などによって測定され,舟崎・他(2017)によってまとめられた.硫黄山噴気帯の各年の最高温度推移では,1950年代は120~150℃(3測定)あり,1961年の宮崎県による測定では175℃が記録された.1960年代は記録が少なく,1970年代には鍵山・他(1979)による247℃などの温度が記録された.1990年代になると硫黄山噴気帯の噴気温度の低下が顕著となり2000年代後半には噴気が消滅した.硫黄山噴気帯では,2015年まで噴気活動が途絶えていたが,2015年12月に噴気活動が再開した.
再開後の噴気活動は,田島・他(2017)で報告した様,2015~2016年は熱異常域の拡大と停滞を繰り返しながら拡大する傾向にあった.2017年に入ると,3月19日,21日に2カ所で噴湯孔の出現が確認され,轟音を伴う噴気孔(噴気孔H)を確認するなど地熱活動が活発化した.また,5月5~10日に現地調査を実施した際,硫黄山火口の南西縁において土砂噴出を伴う新たな噴気孔(噴気孔A)が確認できたため以下に詳述する.噴気孔Aの周辺には土砂噴出物が認められ,噴出物は噴気孔から北東及び南西方向に拡がり,噴気孔周辺では地表が暗灰色を呈していた.噴気孔Aより南西方向では,シルト質火山灰の付着によって地表が灰白色化し,さらに延長方向では緑色葉上に灰白色のシルト質火山灰が確認でき,その痕跡は噴気孔Aから距離にして約200 m追跡できた.噴気孔A周辺の2か所から噴出物を採取し,それぞれ3.8 kg/m2,3.4 kg/m2の値が得られた.噴出物は,暗灰色の変色範囲をほぼ一様の厚さで覆っており,両者の平均値と暗灰色域面積より噴出物量を約1トンと推定した.噴気孔A周辺に堆積した噴出物量は,孔の大きさから推定される量とほぼ一致した.また,噴出物は上下2層に別れており,下位層は粗粒火山灰,上位層は細粒火山灰から構成されていた.噴出物の上位層が灰白色の細粒火山灰からなることは,先に噴気孔拡大が起こり,その後泥を含む熱水が噴出したと考えられる.南西に拡がった火山灰は,灰白色の細粒火山灰から構成されており,泥を含む熱水の飛沫が強い風によって拡散することによって生じたと考えられる.従って本現象は,地表下にある熱水溜まりの圧力が高まり地表を破砕し生じた土砂噴出と考えられる.気象庁の硫黄山南カメラ画像によれば4月26日朝までは噴気孔Hに強い噴気が確認できるが,噴気域Aからの強い噴気は見られない.しかし,26日午前11時29分の画像には噴気域A付近と考えられる場所から,薄灰白色の水蒸気プリュームが立ち上る様子を確認することができる.午前10時20分~11時30分頃の噴気は南西の流向となっており,先に報告した火山灰の付着域の分布と一致する.噴気孔A周辺では暗灰色の土砂堆積域が噴気孔の北東側に拡がっており,午前11時29分の画像では両方向に拡がっており,この頃に土砂が噴出したと推定される.
地熱活動は5月以降も継続し,噴気孔Hでは2017年6月4日に128.0℃,9月24日に134.2℃を記録した.それ以前は,火山ガスによって温められた地下水が沸騰し地表に漏れ出ていたが,噴気孔が開口することにより火山ガス成分を多く含む高圧の噴気に変わったため高温化したと考えられる.2011年新燃岳噴火後の2013年頃から生じた現象は,新燃岳噴火に関係した深部マグマの一部が硫黄山への火道にも影響したものと推定される.この様な現象は,1988年の岩手山の貫入にともなう西岩手での噴気活動の活発化(植木・三浦,2001; 土井,2000),有珠山2000年年噴火に伴う潜在ドーム貫入後の西山火口での噴気活動による活発化(Saba et al., 2007; 寺田, 2008)が知られており,硫黄山の地熱活動もこれらと類似した活動によって生じたと推定される.