日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC44] 島弧の火成活動と火山ダイナミクス

2018年5月24日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、中村 仁美(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、入山 宙(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

[SVC44-P07] 日本の沈み込み帯における噴火頻度の推定

*清杉 孝司1 (1.神戸大学自然科学系先端融合研究環)

キーワード:噴火データベース、噴火の数え落し、噴火頻度、長期的マグマ噴出率、沈み込み帯

ある地域の平均的な噴火頻度はその地域の火山活動度を評価する上で重要なパラメータである.例えば,噴火頻度をもとに噴火確率を求めることができる.また,噴火頻度が得られれば,噴火の規模(噴出物質量)と合わせることで長期的なマグマ噴出率を推定することも可能となり,火山を通した物質循環を理解することにもつながる.一方,噴火頻度の推定は噴火記録の数え落しを考慮する必要がある難しい問題である.噴火記録の数え落しの原因は異なる地質条件や地理条件に応じて様々であると考えられる.そこで本研究では,日本の異なる地域(異なる沈み込み帯)ごとに噴火記録の数え落しを考慮した噴火頻度の推定を行った.また,推定した噴火頻度をもとに長期的なマグマ噴出率の算出を行い,既存の研究と比較することで推定の検証を行った.

分析に用いたデータは北海道地域,東北地域,伊豆地域,中部地域,九州地域で過去約2百万年間に発生した噴火の年代値と噴火マグニチュード(M ≧ 2)の値である.噴火頻度の推定では噴火の記録率が示す時代とともに減少する傾向をモデル化することで噴火の数え落しを考慮した.推定した噴火の規模と頻度の関係は,これらの地域間で噴火マグニチュード2以上の噴火の頻度が10倍以上異なることを示す.比較的大きな噴火(4 ≦ M ≦ 6)では,噴火マグニチュードが1つ大きくなるごとに頻度がおよそ10分の1になる.一方,比較的小さな噴火(2 ≦ M ≦ 4)では噴火マグニチュードが1つ大きくなるごとに頻度は1.6 - 2.5分の1となる.全ての地域で見られるこの傾向は小さな噴火の頻度が大きな噴火の頻度から推定される頻度よりも小さいことを示唆する.これはマグマ溜りが小規模になるほど地下で貫入岩体として固結しやすく,マグマが地表まで到達しにくいことが原因である可能性がある.各地域の噴火頻度を沈み込み帯の長さで規格化すると地域間の差は小さくなる.従って噴火頻度はテクトニクスの違いにあまり影響されないと考えられる.

推定した噴火頻度の検証のため,噴火の規模と頻度の関係をもとに長期的なマグマ噴出率を求め既存の研究と比較した.長期的なマグマ噴出率を各地域の沈み込み帯の長さで規格化すると,九州地域,中部地域,東北地域,北部伊豆地域でほぼ同様の値(およそ2×1010 kg/ka/km)となる.この結果は,既存の研究で報告された,噴出物の体積に基づく沈み込み帯の長さ平均の長期的マグマ噴出率と調和的であり,本研究で推定した噴火の規模と頻度の関係が信頼できるものであることを示す.一方,伊豆地域全体を考えた場合,沈み込み帯の長さで規格化した長期的マグマ噴出率は他の地域のおよそ3分の1となる.これは伊豆地域が噴火の全く報告されていない海底火山や,大規模噴火(M ≧ 6)の堆積物が残りにくい小さな火山島からなり,伊豆地域全体で見たときに噴火の数え落しの推定が不十分であったためである可能性がある.さらに北海道地域でも規格化した長期的マグマ噴出率が他の地域よりも小さい値を示す.これは太平洋プレートの北米プレート下への斜め沈み込みによる低いマグマ生産率を反映している可能性もある一方,伊豆地域と同様に数え落しの推定がうまくできなかったことに起因する可能性もある.

本研究の結果は地質条件や地理条件の違いが噴火記録の数え落としに影響を与えることを示す.さらに沈み込み帯でのテクトニクスの違いは噴火の規模と頻度の関係にあまり影響を及ぼさないことが明らかとなった.