日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] Eveningポスター発表

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[U-05] 地球惑星科学における学術出版の将来

2018年5月22日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:川幡 穂高(東京大学 大気海洋研究所)、小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

[U05-P02] 「Earth, Planets and Space」のオープンアクセス出版:これまでの実績と今後の展望II

★招待講演

*馬場 聖至1小川 康雄2EPS誌 運営委員会 (1.東京大学 地震研究所、2.東京工業大学 理学院 火山流体研究センター)

キーワード:Earth, Planets and Space、オープンアクセス誌

Earth, Planets and Space (EPS)誌は、地球電磁気・地球惑星圏学会、日本地震学会、日本火山学会、日本測地学会、日本惑星科学会(5 学会)が共同で発行している、地球惑星科学研究に関する英文学術雑誌である。EPS誌のスコープは、固体地球から超高層、惑星に至る広範な分野をカバーしており、学際的な成果の発信にも特色がある。EPS誌の使命は、アジア・オセアニア地域を代表して世界の一極を担う国際学術誌として、日本が主導する国際的大型研究計画(月・惑星探査、深海掘削など)や日本およびアジアや環太平洋地域において大きな災害を引き起こす自然現象(地震、津波、火山活動など)に関する研究成果を、海外の学術誌に依存することなく日本から世界へ発信すると共に、国内外の別なく優れた研究成果を発表して、関連コミュニティーに還元することにある。

EPS誌は、国際舞台において高いレベルで所期の使命を果たすことを目標に、平成25 年度より5 年間、日本学術振興会より科学研究費補助金(国際情報発信強化(A)課題番号251001)を得て、国際学術誌としての土台を立て直した。具体的には、1)国際的出版大手のSpringer-Nature 社と契約し、完全オープンアクセス(OA)のオンライン(電子)出版となった。2)Editorial Board を拡充、国際化を進めるとともに、査読・編集過程をスピードアップした。3)通常論文(Full Paper)に加え、論文掲載料(Article Processing Charge; APC)免除の招待論文で先進的な研究を扱うFrontier Letter,迅速に出版可能なExpress Letter を創設してLetter を重視する姿勢を打ち出した。4)実験装置・観測機器・解析手法・データベースなどに特化したTechnical Report を創設、特集号を積極的に誘致して、競合他誌にない特徴付けをした。5)様々な形で広報活動を行い、認知度の向上に努めた。これらの取組の結果、EPS誌はOA 化した2014 年以降、年平均約190 編の論文を出版している。このうち44%が海外著者による論文である。2014 年以降、特集号は15 編刊行したが、特に5 学会会員の研究成果発表の場として効果的に活用されており、学会誌としての役割を果たしている。投稿から出版に要する日数は、2013 年には330日だったが、2017年はFull Paperで164日、Express Letterで109日と大幅に短縮された。EPS誌のImpact Factor(IF)は、Geosciences, Multidisciplinary分野の雑誌の平均を上回るペースで年々上昇してる。最新(2016年)のIFは2.243で、同分野の上位38%に位置する。IFの面では、2013 年以前長く1.0前後に低迷していた状況からは脱却し、EPS誌が一流国際学術誌へと脱皮する素地は整のったと言える。

EPS誌運営委員会では、広報担当・分析担当が編集長、編集事務局、出版社と協力して、出版に関連するデータや学会の展示ブースでの来訪者アンケートを取得・分析している。分析の結果は、近年のEPS誌のIF上昇は、全く引用されない論文の減少(Editorial Board強化が奏功)と被引用数の多い論文の増加(特集号の論文、Frontier Letterが牽引)の両面で支えられていることを示している。一方で、Frontier Letter 著者招待の多くは5 学会からの推薦に頼っており、また特集号も国内からの提案が多く、双方とも国際化に大きな伸び代がある。アンケートからは、著者は投稿に際してAPCの安さよりもIFの高さと出版の早さを重視する傾向が明らかになった。本発表では、これらの分析結果について詳しく紹介する。

EPS誌は今後、先の5年間で再構築した土台を強化しつつ、成果を積み上げ、自立・安定した学術誌へと進化することを目標とし、以下の方針で活動する。1)5 学会と日本地球惑星科学連合(JpGU)との本格的な共同発行体制を構築して運営基盤を強化する。2)APC の一部から収入を得られるよう出版契約を改めて雑誌運営の一部にあて、財政的自立を進める。3)Editorial Board、Frontier Letter、特集号を、主に国際化の観点から強化する。4)JpGU の国際学会としてのブランドと認知度を利用して、より効果的にEPS誌を世界に広報する。これらの取組により、5 年以内にEPS誌のIFをGeosciences, Multidisciplinary分野の上位25%以内にまで上昇させることを目指す。