[G04-P08] 実効的防災教育の導入が学校組織に与える影響とその考察
~横浜市立白幡小学校を事例として~
キーワード:防災教育
〇発表の概要
2011年の東日本大震災を機に、防災教育の重要性は再認識された(文部科学省, 2013)。しかしながら、多くの学校現場においては、依然として防災教育の内容やその扱いに変化が見られず、避難訓練ですら従来の形式のまま行われていることが多い。この現状を改善し、実効的な防災教育を普及することを目的として、筆者らは横浜市立白幡小学校(以下、白幡小学校)をフィールドとして、2016年5月より防災教育のアクション・リサーチを進めている。白幡小学校では、2016年度は5学年の児童が総合的な学習の年間テーマとして防災学習に取り組み、2017年度は4学年の児童が社会科の「安全、安心、みんなのくらし」のテーマの中で防災に取り組んだ。
年間を通して様々な防災教育コンテンツに取り組む中で、児童は災害発生を自分にも起こりうることであると捉えて主体的に防災教育に取り組んだり、 “教わる者”から“教える者”へとアイデンティティが変容する様子を見せたりした。これまで、児童の変化に着目した質的分析を進めたことで、防災教育の教育的価値に関する様々な知見を得ることができたことは非常に意義深い。防災教育を通して児童が様々な変化を見せたと同時に、教員の意識にも様々な変化がみられた。本発表では、防災教育に取り組む中で担任3名に見られた変化の分析と学校全体への防災の波及と課題について言及する。
〇担任に見られた変化に関する分析
2016年度の担任3名に共通していることは、児童の主体的な学習姿勢が、防災教育を進めるうえでの大きなモチベーションとなっていたことである。特に、抜き打ち訓練からショート訓練までの期間は児童の変化が目で見てわかりやすく、教員にとって防災教育の効果を実感する機会となったと考えられる。
また、防災教育に対して「やらされている感」や「不安」を感じる教員が一定数いることも明らかとなった。ヒアリング調査を行った担任2名は、防災教育を始めるにあたり「不安」、「意味が理解できない」と当初はあまりモチベーションを見いだせていなかったと述べている。これは、「教師が教え、児童が教わるもの」であるという先入観により、防災教育の進め方がわからず不安になり、また、5学年より違う学年の方がカリキュラムに適していると感じたからである。しかし、ショート訓練を通して、主体性溢れる児童の学習姿勢を見る中で、防災教育が「防災のことを教える教育」ではなく「防災を通した教育」であると感じるようになり、次第に自分らしく防災教育に取り組めるようになれた。
ヒアリング調査において3名とも「最初の時期を越えれば」という旨の発言をしていたことから、防災教育導入の障壁を引き下げるためには、防災教育のノウハウを集積し、防災教育の必要性やその効果などを強調する必要があると示唆される。
〇学校全体への波及と課題
長期的に実効的な防災教育に取り組んだことで、防災の輪は学校全体へ広がりを見せている。特に、全校で行われる避難訓練における変化は顕著である。本発表ではその中から以下の2例について述べる。
・訓練開始の合図の改善
従来型避難訓練の問題点として、アナウンスによる訓練開始の合図の実効性のなさが挙げられる。激しい揺れの中、教員が放送席まで移動することは困難であるうえ、着席している児童の方が揺れに気づきやすいためだ。白幡小学校の避難訓練においても、長年に亘り、アナウンスによる訓練開始の合図が用いられていたが、2017年10月に行われた訓練からは緊急地震速報の報知音が用いられている。地震が突然発生するものであるということを意識したものであり、非常に重要な変化である。
・振り返りの時間の導入
避難訓練後に、児童が避難訓練の様子を振り返る時間が設けられた。その日の避難訓練の良かった点や改善点について、教員の助言のもと児童で話し合いを行うものである。児童が訓練を振り返る時間を設けることで、自分のこと化を促し、児童の身を守る力を向上させることができる。
防災に取り組む学年だけではなく、全校規模で防災が見直されているという点において、上記の変化は大きな意味を持つ。しかし、白幡小学校には今以て数々の課題が残るのも事実である。筆者らが全校避難訓練を観察する中で見られた、ショート訓練を経験した児童とそうでない児童の訓練時の行動の差は歴然たるものがあり、「全校児童が自らの判断で自らの身を守る力を養う」という目標はまだ達成されていない。本発表ではその要因についても分析し、発表する。
〇参考文献
・文部科学省(2013),「学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開」.
2011年の東日本大震災を機に、防災教育の重要性は再認識された(文部科学省, 2013)。しかしながら、多くの学校現場においては、依然として防災教育の内容やその扱いに変化が見られず、避難訓練ですら従来の形式のまま行われていることが多い。この現状を改善し、実効的な防災教育を普及することを目的として、筆者らは横浜市立白幡小学校(以下、白幡小学校)をフィールドとして、2016年5月より防災教育のアクション・リサーチを進めている。白幡小学校では、2016年度は5学年の児童が総合的な学習の年間テーマとして防災学習に取り組み、2017年度は4学年の児童が社会科の「安全、安心、みんなのくらし」のテーマの中で防災に取り組んだ。
年間を通して様々な防災教育コンテンツに取り組む中で、児童は災害発生を自分にも起こりうることであると捉えて主体的に防災教育に取り組んだり、 “教わる者”から“教える者”へとアイデンティティが変容する様子を見せたりした。これまで、児童の変化に着目した質的分析を進めたことで、防災教育の教育的価値に関する様々な知見を得ることができたことは非常に意義深い。防災教育を通して児童が様々な変化を見せたと同時に、教員の意識にも様々な変化がみられた。本発表では、防災教育に取り組む中で担任3名に見られた変化の分析と学校全体への防災の波及と課題について言及する。
〇担任に見られた変化に関する分析
2016年度の担任3名に共通していることは、児童の主体的な学習姿勢が、防災教育を進めるうえでの大きなモチベーションとなっていたことである。特に、抜き打ち訓練からショート訓練までの期間は児童の変化が目で見てわかりやすく、教員にとって防災教育の効果を実感する機会となったと考えられる。
また、防災教育に対して「やらされている感」や「不安」を感じる教員が一定数いることも明らかとなった。ヒアリング調査を行った担任2名は、防災教育を始めるにあたり「不安」、「意味が理解できない」と当初はあまりモチベーションを見いだせていなかったと述べている。これは、「教師が教え、児童が教わるもの」であるという先入観により、防災教育の進め方がわからず不安になり、また、5学年より違う学年の方がカリキュラムに適していると感じたからである。しかし、ショート訓練を通して、主体性溢れる児童の学習姿勢を見る中で、防災教育が「防災のことを教える教育」ではなく「防災を通した教育」であると感じるようになり、次第に自分らしく防災教育に取り組めるようになれた。
ヒアリング調査において3名とも「最初の時期を越えれば」という旨の発言をしていたことから、防災教育導入の障壁を引き下げるためには、防災教育のノウハウを集積し、防災教育の必要性やその効果などを強調する必要があると示唆される。
〇学校全体への波及と課題
長期的に実効的な防災教育に取り組んだことで、防災の輪は学校全体へ広がりを見せている。特に、全校で行われる避難訓練における変化は顕著である。本発表ではその中から以下の2例について述べる。
・訓練開始の合図の改善
従来型避難訓練の問題点として、アナウンスによる訓練開始の合図の実効性のなさが挙げられる。激しい揺れの中、教員が放送席まで移動することは困難であるうえ、着席している児童の方が揺れに気づきやすいためだ。白幡小学校の避難訓練においても、長年に亘り、アナウンスによる訓練開始の合図が用いられていたが、2017年10月に行われた訓練からは緊急地震速報の報知音が用いられている。地震が突然発生するものであるということを意識したものであり、非常に重要な変化である。
・振り返りの時間の導入
避難訓練後に、児童が避難訓練の様子を振り返る時間が設けられた。その日の避難訓練の良かった点や改善点について、教員の助言のもと児童で話し合いを行うものである。児童が訓練を振り返る時間を設けることで、自分のこと化を促し、児童の身を守る力を向上させることができる。
防災に取り組む学年だけではなく、全校規模で防災が見直されているという点において、上記の変化は大きな意味を持つ。しかし、白幡小学校には今以て数々の課題が残るのも事実である。筆者らが全校避難訓練を観察する中で見られた、ショート訓練を経験した児童とそうでない児童の訓練時の行動の差は歴然たるものがあり、「全校児童が自らの判断で自らの身を守る力を養う」という目標はまだ達成されていない。本発表ではその要因についても分析し、発表する。
〇参考文献
・文部科学省(2013),「学校防災のための参考資料「生きる力」を育む防災教育の展開」.