日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 混濁流:発生源から堆積物・地形形成まで

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:横川 美和(大阪工業大学情報科学部)、泉 典洋(北海道大学大学院工学研究院)、中嶋 健(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門、共同)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、座長:中嶋 健成瀬 元

15:45 〜 16:00

[HCG23-08] 混濁流によって発生する底面不安定現象

*泉 典洋1Pen Sytharith1Parker Gary2 (1.北海道大学大学院工学研究院、2.イリノイ大学工学部理学部)

キーワード:混濁流、底面不安定、界面波

混濁流とは,浮遊砂を巻き上げることで,周囲の海水より密度を増加させ,海底面を流下する密度流である.混濁流は,大陸棚上に堆積した陸域由来の有機物を深海底に輸送するという,石油やメタンハイドレートの生成に不可欠な役割を演じている.加えて混濁流は,その強力な侵食力と土砂輸送能力によって海底峡谷や海底扇状地,海底河川などの海底地形を形作る主要な営力となっている.本研究では,混濁流が形成する海底地形の中でも,流下方向に規則的な波状の形状を有する界面波の形成機構を説明するための線形安定解析を行った.

 塩水密度流や温度密度流では,駆動力となる周辺流体との塩分濃度差や温度差が,流下とともに拡散によって小さくなっていくため,長距離を流下することはできない.ところが混濁流では,浮遊砂の上方への拡散が沈降と釣り合うことによって,底面近傍,密度界面より下方の高濃度層に,流下しても流速や層厚を変化させない平衡状態が存在するため,非常に長い距離を流下することが可能となる(Luchi et al. 2015, Luchi et al. 2018).そこで,この平衡状態によって形成される平坦床を基本状態として,これに正弦波擾乱を与え,その初期発達過程を線形安定解析を用いて調べることによって,界面波の発生条件を解析的に明らかにした.

 解析では,Boussinesqの渦動粘性係数を用いた流れの方程式および浮遊砂の移流/拡散方程式を用いた.乱流モデルとしては標準k-eモデルを用い,乱流運動エネルギーと逸散率を用いて渦動粘性係数を表した.支配方程式群を無次元化すると重要な無次元パラメータとして摩擦速度で無次元化した浮遊砂沈降速度とRichardson数(あるいは密度Froude数)が得られた.

 基本状態である平衡状態では,流速や浮遊砂濃度は流下方向に変化せず,それと垂直方向の層厚方向に流速がゼロとなる.したがって支配方程式には,流下方向流速および浮遊砂濃度,乱流運動エネルギー,逸散率が層厚方向のみの関数として現れる.この方程式を有限体積法を用いた数値計算を行うことによって,基本状態での流速分布および浮遊砂濃度分布を導いた.浮遊砂濃度による密度成層の影響を考慮しない場合と考慮する場合の両方について比較したところ,密度成層の影響によって乱流拡散が抑えられるため,流速と浮遊砂濃度の底面付近と密度界面付近の差が強調されるため,流速は密度界面付近で大きくなり,浮遊砂濃度は底面付近で大きくなることが明らかとなった.

 摂動問題では,底面に与えた微小正弦波擾乱に対応して,流速や浮遊砂濃度,高濃度層の厚さ,乱流運動エネルギー,逸散率が同様に微小な正弦波に漸近展開した.これを支配方程式に代入し,微小擾乱の振幅を微小パラメータとしてその高次項を無視した線形同次の摂動方程式を導いた.摂動方程式を数値的に解き,その解を底面高さの時間変化を表すExner方程式に代入することによって線形安定解析を行った.その結果を,波数−密度Froude数平面上における安定性ダイアグラムに描いたところ,平坦床が不安定となる最小の密度Froude数(臨界密度Froude数)がおよそ0.5となることが明らかとなった.また,密度成層の影響によって臨界密度Froude数付近では,不安定領域が波数の小さい方向に狭くなることが明らかとなった.