[H-CG23] 混濁流:発生源から堆積物・地形形成まで

[HCG23-P02] 混濁流中の泥質礫の起源および分解過程の解明：下部更新統上総層群大田代層の例

*福田 壮二郎¹、成瀬 元¹ (1.京都大学)

キーワード：混濁流、Flow transformation、泥質礫、楕円フーリエ解析、上総層群、逆解析

本研究はタービダイト中に取り込まれた泥質礫の磨耗プロセスを検討した．露頭における泥質礫の断面形状から楕円フーリエ解析を行なった結果から，タービダイトにおける泥質礫は運搬の過程で強い磨耗作用を被っていることがわかった．



タービダイトやデブライトにはしばしば泥質礫が大量に含まれているが，その供給源として以下の二つが考えられている．ひとつは，(1)海底谷や海底チャネルの部分的な崩壊により発生した岩片の一部が混濁流や水中土石流に取り込まれ運搬されたという考えであり，もう一つは(2)混濁流が海底面を侵食することで海底表層の未固結な堆積物を泥質礫として取り込んだという考えである．幾つかの先行研究が，(2)の未固結堆積物の取り込みが発生することで、下流域において泥質物の影響により混濁流が再度土石流へと変化するという現象，すなわちflow transformationが起りうることを推定している．このように，タービダイト中の泥質礫の起源と分解過程の理解は，混濁流の挙動を解明する上で極めて重要である．にもかかわらず，タービダイト中の泥質礫の削剥と分解に関する定量的な検討はこれまでほとんど行われて来なかった．



そこで，本研究は下部更新統上総層群大田代層の複数のタービダイトを追跡し，タービダイト中の泥質礫を詳細に記載した．堆積物中の泥質礫は流下方向に向かってサイズが減少し，よく円磨された形状を示す．このような傾向は，flow transformationにより発生した水中土石流堆積物にふくまれていた泥質礫には見られない，タービダイト特有の傾向である．つまり泥質礫は混濁流中の運搬過程で強い磨耗作用を被っており、その磨耗過程は混濁流と土石流で大きく異なると思われる．また，混濁流中の泥質礫の摩耗がflow transformationを発生させるならば，flow transformationによるハイブリッド層におけるデブライト中に観察される泥質礫も円磨されていることが期待される．しかし，実際は円磨されていない形状を示すことは混濁流中で摩耗された泥質礫と水中土石流中の泥質礫は起源が異なる別の種類の泥質礫であることを示唆している．または，Flow transformationは海底谷のような上流側で発生しており，上流側で海底谷の側壁から取り込んだ固結した泥岩を水中土石流として長距離運搬し，下流域において堆積したということを示唆している．
今後の展望として，タービダイトとデブライトのハイブリッド層における泥質礫の起源を調査し，Flow transformationの発生する場所と要因を解き明かしていきたい．また，混濁流における泥質礫の摩耗作用がどれほど流れの振る舞いに影響を及ぼし得るのかを，泥質礫の摩耗過程を反映させた新しい数値モデルを構築することにより検討していきたい．