日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2018年5月20日(日) 09:00 〜 10:30 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科、共同)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:清家 弘治山口 直文

09:30 〜 09:45

[HCG24-02] 実験地形の発達を規定する要因としての砂山の性質と降雨量

*大内 俊二1 (1.中央大学理工学部)

キーワード:地形実験、隆起、侵食、透水性、表面流出、斜面崩壊

実験侵食地形の発達を規定する要因としては、隆起速度、降雨強度、及び侵食される砂山の性質が重要であるが、実際には複数の要因が相互に関係して複雑な影響を与えていることが分かってきた。今回は、以下に示したruns 26, 27, 32, 38, 39の5回の実験結果から、実験地形の発達に現れる砂山の透水性/剪断強度と降雨量の相互作用について検討した結果を報告する。

run - permeability ------ rainfall ------- uplift rate ----- duration of uplift/rainfall
26 - 2.57 x 10-4cm/s - 40-50 mm/h -- 0.36 mm/h ----- 1000h/1000h
27 - 3.23 x 10-4cm/s - 80-90 mm/h -- 0.36 mm/h ------ 960h/1000h
32 - 1.84 x 10-4cm/s - 80-90 mm/h -- 0.36 mm/h ----- 1000h/1000h
38 - 1.53 x 10-3cm/s - 80-90 mm/h -- 0.36 mm/h ------ 960h/1540h
39 - 1.37 x 10-3cm/s - 40-50 mm/h -- 0.36 mm/h ------ 960h/1540h

霧状の人工降雨の下で平坦な面から四角い砂山(60x60cm)が隆起すると、隆起域の縁辺から侵食が始まり、谷系が発達する。隆起によって高度が増すとともに谷の侵食が進み、斜面が発達して斜面崩壊が起こるようになる。このころになると流路は安定して崩壊によって生産された物質が通過する道筋となる。大規模な斜面崩壊は周期的に集中して起こる傾向を見せ、崩壊集中期の高度低下と隆起による上昇が繰り返されるようになって、実験山地地形の平均高度が隆起速度によって決まるある高度の周辺を上下するようになる。隆起が止まれば高度は指数関数的に低下して行く。

堆積域幅がruns 26, 27で10cm、runs 32, 38, 39で20cmと異なったが、他の条件が同様であるruns 27, 32で類似した地形発達が見られたことから、堆積域幅のこの程度の違いは侵食域の地形発達にそれほど大きな影響はないと考えた。砂山は同じ材料(細砂とカオリナイトの重量比10:1の混合物)を使っており、透水性や強度は締固めの程度によって変化させた。締固めが強く密度が高くなると、透水係数は小さくなる。剪断強度は締固めが強いと大きくなるが、今回の実験の範囲ではそれほど明確な差はないようであった。透水係数が10-4cm/s オーダーであるruns 26, 27では、雨量の少ないrun 26で比較的大きな山体が成長し平均高度も高くなったのに対して、雨量が約2倍となるrun 27では、谷の発達が進んで山地が分割され、平均高度も低くなった。これは、表面流による侵食力の大きさの違いで説明することが可能である。しかし、透水係数を10-3cm/s オーダーとしたruns 38, 39では、雨量の多いrun 38で比較的大きな山体と高い平均高度の地形が発達したのに対して雨量の少ないrun 39では比較的低く分離した山地となった。透水係数の大きなrun 38では表面流出量が小さくなるために、降雨の少ないrun 26と同様の特徴となると考えたが、透水係数が大きく降雨の少ないrun 39における実験地形が、透水係数が小さく降雨の多いruns 27, 32と類似の変化を示したことについては同様の説明は不可能である。run 39においては、当然表面流出が少なくなると考えられ、透水性がほぼ同じで降雨量の多いrun 38と比べても初期の谷密度は小さい。谷は比較的浅くて広くなり、谷壁に斜面プロセスが強く働いた事を示唆している。run 39では緩斜面の途中から泥流が発生するような形で起こる崩壊が特徴的であった。実験スケールでの計測は不可能であったが、透水性のよい材料からなる砂山の斜面プロセスであれば、サッピングなど”地下水”の働きが重要となると考えられる。斜面プロセスによる物質の移動は速くて量も多く、流水による運搬が伴えば、侵食を加速させる。降雨量の少ないrun 39で侵食量がruns 27, 32とあまり変わらなかったのはそのためであろう。降雨量の多いrun 38においては、run 39より表面流が多いために初期の谷系(排水網)の発達がよく、排水が効率よく進んだために”地下水”の働きが弱められたのではないだろうか。ただし、斜面プロセスと浸透流の働きについては不明な点が数多くあり、今後注意深い検討が必要とされる。