日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2018年5月20日(日) 09:00 〜 10:30 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科、共同)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:清家 弘治山口 直文

10:00 〜 10:15

[HCG24-04] 天草上島に分布する上部白亜系姫浦層群における塊状砂岩の堆積プロセスの解明

*堀田 真吾1成瀬 元1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:塊状砂岩、タービダイト、粒子配列、姫浦層群

本研究では,海底扇状地における塊状砂岩層の形成プロセスの解明を目的としている.深海の重力流堆積物中には多くの塊状構造が見られることが知られているが,これは主に以下の2種類のプロセスで形成されたと考えられている.ひとつは,砂質な高密度混濁流からの急速な堆積 (Lowe, 1982),もうひとつは砂質な水中土石流の急停止 (Shunmugam,1996)である.しかし,実際の海底扇状地で,どちらのプロセスが卓越しているのかについては明らかになっていない.この塊状堆積物の形成プロセスの推定が困難なのは,露頭スケールにおける肉眼観察ではプロセスの判別が難しいためである.そこで,Naruse and Masuda(2006ab)は,プロセスが既知の水槽実験堆積物の断面に対して顕微鏡(SEM)スケールの観察を行い,重力流のタイプ(混濁流・土石流)に応じて二種類の粒子配列が形成されることを明らかにした.両者は肉眼観察では同じように見えるが,混濁流によって堆積した砂層では粒子のインブリケーション角が底面から最上部まで一様であるのに対し,水中土石流では底面から最上部まで角度が急激に増加する.

本研究では,実験で明らかになった粒子配列の傾向の違いを利用して,実際の海底扇状地堆積物中の塊状構造を解析する.調査対象は熊本県上天草市に分布する上部白亜系姫浦層群である.調査地域の姫浦層群は,下位より樋の島層と阿村層よりなる.調査地域の樋の島層の堆積相は,以下の3つに区分される.Facies 1は泥岩がちの砂岩泥岩互層であり,堆積構造や砂岩層のジオメトリから判断して,ローブ末端の堆積物と解釈される.Facies 2は8割程度が泥岩の砂岩泥岩互層であり,粗粒な平板状の砂岩層を含むことから,Facies 1と比較してややプロキシマルなローブ堆積物と解釈される. Facies 3はさまざまな大きさの変形した堆積岩ブロックを含む礫質泥岩であり,スランプ堆積物と解釈される.これらの特徴から,樋の島層の堆積環境は海底扇状地のローブであったと判断される.一方,阿村層の堆積相は,以下の2つに区分される.Facies 4は比率が1:1程度の砂岩泥岩互層であり,レビー堆積物と解釈される. Facies 5は砂岩が9割程度を占める砂岩泥岩互層であり,チャネル充填堆積物と解釈される.これらの特徴から,阿村層の堆積環境は海底チャネルレビーシステムと判断される.

解析の手順は以下の通りである.まず,地層中から塊状砂岩の定方位試料を採取する.次に,採取した試料から,層理面と水平方向の薄片を作成し,偏光顕微鏡により写真撮影を行う.写真から Adobe Photoshopを用いて粒子をトレースし,粒子と基質で画像を2値化した.その後,ImageJを使用して粒子の形状を楕円で近似し,近似楕円の長軸方向から粒子長軸の配列を測定する.この水平断面の測定結果から,粒子長軸の水平面における優先配向方向と平行な方向の鉛直断面の薄片を作成し,同様の手順で粒子のインブリケーション角を求める.

現時点の予察的な結果として,定方位試料として採取したローブの塊状砂岩層(樋の島層),海底チャネル内の塊状砂岩層(阿村層)の粒子配列はどちらも底面から最上部まで一様であり,高濃度タービダイトと解釈できることが明らかになっている.このことは,実際の深海底では,環境を問わず高濃度混濁流が粗粒堆積物の運搬プロセスとして重要である可能性を示唆している.