日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 福島第一原子力発電事故後の地域復興で科学者が今後取り組むこと

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、登尾 浩助

[HCG26-P07] 福島県南相馬市周辺の湧水,地下水,自噴井の滞留時間の推定

*藪崎 志穂1浅井 和由2 (1.総合地球環境学研究所・福島大学 共生システム理工学類、2.地球科学研究所)

キーワード:福島県南相馬市、地下水流動、水質、安定同位体、滞留時間

東北地方太平洋沖地震により発生した津波は東北地方から関東地方にかけての広範囲(特に太平洋沿岸地域)に甚大な被害を与え,津波が浸水したことにより地下水の塩水化の問題などが発生した。また,地震後の原子力発電所の事故に起因する放射性物質の挙動に関して,現在および将来も含めた地下水等への影響も懸念されている。こうしたことから,沿岸域の地下水や物質移動の解明は喫緊の課題とされている。本研究では,浸水被害を受けた地域の水質変化を把握するために,2012年9月から福島県沿岸域の地下水や湧水を対象として調査を行っている。また,広域の地下水流動を把握するために,地下水の涵養域であると予想される阿武隈山地の周辺も調査対象として,現地調査ならびに採水を実施して,水質特性の把握と,地下水流動や涵養域,滞留時間の推定を行ってきた。これまでに,沿岸域から内陸部にかけての地域(新地町,相馬市,南相馬市,浪江町,大熊町,飯舘村,伊達市等)で実施した調査の結果,沿岸域の地下水,湧水の水質組成は幾つかのグループに分かれることが明らかとなった。比較的浅い地下水や湧水では多くの地点でCa-HCO3型を示しているが,一部地点ではNa-(Cl+SO4)型を示し,津波による海水浸水の影響があらわれている地点も存在している。しかしながら,定期観測の結果より溶存成分量は徐々に低くなっていることが示され,海水浸水の影響は少なくなっていることも把握できた。一方,沿岸域に位置する湧水や自噴井(深井戸)ではNa-HCO3型を示す地点が多く,これらは相対的に滞留時間の長い水であることが予想された。また,自噴井の一部ではFe(鉄)やMn(マンガン)が多く含まれている地点もあり,地質の影響を受けていることが示唆された。沿岸域に分布するこうした水を対象として,CFCs,SF6の測定を行い,約10地点の滞留時間を求めた。測定値を解析した結果,比較的浅い地下水や湧水(Ca-HCO3型の水質組成を示す地点)では10年程度,沿岸域の湧水や自噴井(Na-HCO3型の水質組成を示す地点)では60~70年程の滞留時間であることを把握できた。これらの結果は3H濃度の結果とも整合している。また,酸素と水素の安定同位体比の高度効果は,δ18Oで-0.29‰/100 m,δDで-2.0‰/100 mであり,この値を利用した涵養域の推定結果とも概ね矛盾が無い(Na-HCO3型を示す地下水および自噴井は,Ca-HCO3型を示す地下水よりも300 mほど標高が高い地点(阿武隈山地周辺)で涵養されたと推定される)。こうした地下水流動の情報は,沿岸域において現在進められている復興事業に伴い,今後増えるであろうと予想される地下水利用を考える際に役立てることができると期待される。引き続き調査を継続し,更に詳細な年代分布を示して沿岸域の地下水流動把握を行う予定である。