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[HCG27-02] 陸域からの外挿による沿岸海域の隆起・侵食評価の試み
キーワード:高レベル放射性廃棄物、地層処分、沿岸部、隆起、侵食、第四紀
1.はじめに
平成27-28年に国の研究会[1]において、沿岸海底下を含む沿岸部での地層処分が取り上げられ、その課題が抽出された。本研究はその議論を踏まえて、沿岸海域における隆起・侵食評価を試みるものである。本研究では、沿岸陸域における後期更新世の隆起運動モデルを構築し、それを沿岸海域へ外挿することで、海域の隆起量を見積る。加えて、隆起量と海底地形・地質に基づき、沿岸海底下における下刻侵食について考察する。
2.研究手法
研究手法は、概要調査を念頭に、基本的には従来手法を踏襲する。陸域については、段丘に関わるデータ(段丘を構成する地質、テフラ層序を始めとした地質年代情報など[2, 3など])を収集し、段丘対比・編年を検討する。続いて、海成段丘・河成段丘を主要河川沿いに投影した河床断面図を作成し、その断面図から後期更新世の隆起量の指標となる比高を計測し[4など]、隆起量分布を把握する。隆起量分布から三次元での隆起運動モデルを構築し、それを海域へ外挿する。海域については、海上音波探査記録から沖積層分布を読み取り、沖積層下の地形を推定し、谷の深さを下刻の深さと見做す。
3.事例研究
研究地域として、段丘が広く分布し、後期更新世以降の隆起量が比較的大きいことで知られる宮崎平野を取り上げ、今回は机上検討を実施した。
(1) 陸域調査
空中写真判読による地形調査により、段丘の分布をマッピングし、先行研究の年代データを用いて、段丘の対比・編年を実施した。本地域は海岸線付近に活断層等の分布が無いことから、第一次の近似の三次元隆起運動モデルとして、単調な一方向への傾動、即ち平板近似モデルを構築した。その結果、海洋酸素同位体ステージ(MIS)5eの段丘のみに着目すると、先行研究[3など]でも言われている通り、ほぼ直線の海岸線に沿って北に傾動するモデルが得られた。一方、MIS5cの段丘のデータも含めて考えると、海側に傾動するモデルが得られた。
(2) 海域調査
沿岸海域の沖積層下の地形は南北で対照的である。南部は北部に比べて谷が深く地形が複雑である。また、海上保安庁による「海の基本図」によれば、南部には新第三系堆積岩(宮崎層群)の露岩が広く、北部では沖積層が広く下位層を覆う。これらの違いは、海域の隆起量の差を反映している可能性がある。ただし、地形・地質の変化の方向が南北なのか東西なのかは、現状では判断し難い。
4.考察と今後の課題
2つのモデルを比較すると、陸域の隆起量が比較的大きいとされる調査地域南部の海域では、10万年あたり数十mの隆起量の違いが生じると推定される。このように、複数の隆起モデルが得られた場合には、それらを不確実性として考慮することになる。段丘対比・編年の精度・信頼性は、言うまでもなく、隆起量の見積り、更には隆起量分布に大きく影響する。したがって、陸域の段丘対比・編年の高度化はモデルの絞込み、不確実性の低減が必須の課題である。また、基盤の地質構造によりモデルを絞り込めると期待される。さらに、海底の地形・地質分布と陸域の隆起運動との対応関係に関する情報を蓄積することで、海域の地形・地質からの隆起・侵食量評価が可能となることが期待される。
【謝辞】本研究は、経済産業省資源エネルギー庁の「平成29年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術に関する調査等事業(沿岸部処分システム高度化開発)」の一環として実施した。本事業の共同実施者の一つである日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの方々には、多くの有益な助言を頂いた。調査に際し、(株)ダイヤコンサルタント、川崎地質(株)にご協力頂いた。また、海域の検討にあたっては、海上保安庁より開示された海上音波探査記録等を使用した。以上の方々に深く謝意を表す。
【文献】
[1]経済産業省、沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#engan_kaiteika(平成30年2月1日最終閲覧)
[2] 町田・小池、2001、日本の海成段丘アトラス、東京大学出版会
[3] 長岡ほか、2010、地学雑誌、119、632-667.
[4] 吉山・柳田、1995、地学雑誌、104、809-826.
平成27-28年に国の研究会[1]において、沿岸海底下を含む沿岸部での地層処分が取り上げられ、その課題が抽出された。本研究はその議論を踏まえて、沿岸海域における隆起・侵食評価を試みるものである。本研究では、沿岸陸域における後期更新世の隆起運動モデルを構築し、それを沿岸海域へ外挿することで、海域の隆起量を見積る。加えて、隆起量と海底地形・地質に基づき、沿岸海底下における下刻侵食について考察する。
2.研究手法
研究手法は、概要調査を念頭に、基本的には従来手法を踏襲する。陸域については、段丘に関わるデータ(段丘を構成する地質、テフラ層序を始めとした地質年代情報など[2, 3など])を収集し、段丘対比・編年を検討する。続いて、海成段丘・河成段丘を主要河川沿いに投影した河床断面図を作成し、その断面図から後期更新世の隆起量の指標となる比高を計測し[4など]、隆起量分布を把握する。隆起量分布から三次元での隆起運動モデルを構築し、それを海域へ外挿する。海域については、海上音波探査記録から沖積層分布を読み取り、沖積層下の地形を推定し、谷の深さを下刻の深さと見做す。
3.事例研究
研究地域として、段丘が広く分布し、後期更新世以降の隆起量が比較的大きいことで知られる宮崎平野を取り上げ、今回は机上検討を実施した。
(1) 陸域調査
空中写真判読による地形調査により、段丘の分布をマッピングし、先行研究の年代データを用いて、段丘の対比・編年を実施した。本地域は海岸線付近に活断層等の分布が無いことから、第一次の近似の三次元隆起運動モデルとして、単調な一方向への傾動、即ち平板近似モデルを構築した。その結果、海洋酸素同位体ステージ(MIS)5eの段丘のみに着目すると、先行研究[3など]でも言われている通り、ほぼ直線の海岸線に沿って北に傾動するモデルが得られた。一方、MIS5cの段丘のデータも含めて考えると、海側に傾動するモデルが得られた。
(2) 海域調査
沿岸海域の沖積層下の地形は南北で対照的である。南部は北部に比べて谷が深く地形が複雑である。また、海上保安庁による「海の基本図」によれば、南部には新第三系堆積岩(宮崎層群)の露岩が広く、北部では沖積層が広く下位層を覆う。これらの違いは、海域の隆起量の差を反映している可能性がある。ただし、地形・地質の変化の方向が南北なのか東西なのかは、現状では判断し難い。
4.考察と今後の課題
2つのモデルを比較すると、陸域の隆起量が比較的大きいとされる調査地域南部の海域では、10万年あたり数十mの隆起量の違いが生じると推定される。このように、複数の隆起モデルが得られた場合には、それらを不確実性として考慮することになる。段丘対比・編年の精度・信頼性は、言うまでもなく、隆起量の見積り、更には隆起量分布に大きく影響する。したがって、陸域の段丘対比・編年の高度化はモデルの絞込み、不確実性の低減が必須の課題である。また、基盤の地質構造によりモデルを絞り込めると期待される。さらに、海底の地形・地質分布と陸域の隆起運動との対応関係に関する情報を蓄積することで、海域の地形・地質からの隆起・侵食量評価が可能となることが期待される。
【謝辞】本研究は、経済産業省資源エネルギー庁の「平成29年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術に関する調査等事業(沿岸部処分システム高度化開発)」の一環として実施した。本事業の共同実施者の一つである日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの方々には、多くの有益な助言を頂いた。調査に際し、(株)ダイヤコンサルタント、川崎地質(株)にご協力頂いた。また、海域の検討にあたっては、海上保安庁より開示された海上音波探査記録等を使用した。以上の方々に深く謝意を表す。
【文献】
[1]経済産業省、沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#engan_kaiteika(平成30年2月1日最終閲覧)
[2] 町田・小池、2001、日本の海成段丘アトラス、東京大学出版会
[3] 長岡ほか、2010、地学雑誌、119、632-667.
[4] 吉山・柳田、1995、地学雑誌、104、809-826.