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[HCG27-05] 物質移行の観点から見た付加体中の露頭スケールおよび顕微鏡スケールでの亀裂の特徴
キーワード:地層処分、付加体、物質移行、亀裂
1.はじめに
日本列島には海洋プレートの沈み込みに伴って形成された付加体が広く分布しており、基盤の大部分は付加体とされている(狩野・村田、1998)。したがって、高レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイト選定に関して、付加体の地質環境を検討しておくことが必要である。関東地方では新第三紀および先新第三紀の付加体を海岸や河床の露頭で観察することができる。本研究では、新第三紀の三浦層群、先新第三紀の秩父帯の付加体を対象に、露頭観察、薄片観察、電子顕微鏡観察などを行った。その結果、地下水や物質移行の経路となり得る不連続構造について、付加体形成年代による違いが明らかとなってきた。
2.観察結果
2.1)新第三紀付加体
神奈川県三浦半島南端の城ケ島に分布する三浦層群三崎層中の不連続構造を対象とした。地図スケールの代表的な不連続構造は城ケ島向斜(長沼ほか1984)に沿って島中央部をほぼ東西に走る断層である。この断層は空中写真では1.5~2m程度の開口幅を有するが、露頭では幅数mmの粘土化したガウジが確認できる。また、その両側には数十cm~1m程度の割れ目帯を伴う。割れ目帯を構成する断層は断層面が癒着した、いわゆる面なし断層が多くを占める。その他の露頭スケールの断層もそのほとんどが面なし断層である。この面なし断層を含む試料を採取する際、露頭表面では風化等の影響が懸念されたことから、面なし断層を含むできる限り新鮮な転石を採取し電子顕微鏡観察を行った。その結果、断層に沿った母岩の破砕や、断層面沿いに明瞭な開口割れ目が確認された。前者については、破砕の程度は弱く、数十μmの空隙構造も認められた。
2.2)先新第三紀付加体
東京都あきる野市の秋川河床で観察される秩父帯の付加体を対象とした。この露頭では付加体を特徴づけるメランジュが観察される。メランジュは鱗片状劈開を有する泥岩基質中に剪断作用を受け、非対称なレンズ状に変形した長径が数cm~数十cmの砂岩あるいは砂泥互層のブロックが定向配列する。この河床ではメランジュが幅数mで露出することから、河床堆積物による被覆部を考慮すれば地図スケールで確認される不連続構造と推定される。これらはプレートの沈み込みに伴って形成された初期の変形構造と考えられる。これに対して、これらの構造に高角度で斜交する充填物を伴わない亀裂が観察される。泥岩基質は露頭面では劈開面に沿う開口が明瞭である。この露頭から比較的新鮮なブロック状の泥岩を採取し、偏光顕微鏡による薄片観察および電子顕微鏡による観察を行った。偏光顕微鏡下では、粒子が破砕されその周囲には剪断方向に配列する黒色のシームが観察された。一方、電子顕微鏡下では破砕された粒子とともに数μmの空隙が確認されるものの、連続した明瞭な開口部は確認されなかった。また、初期に形成されたと考えられる変形構造と斜交する多くの亀裂は、方解石などの充填鉱物で満たされているものが多い。
3.まとめ
新第三系および先新第三系の付加体中の不連続構造の物質移行に着目して露頭観察、偏光顕微鏡観察、電子顕微鏡観察を行った。得られた現状での知見を以下にまとめる。
・新第三紀付加体(三浦層群)では、地図スケールの不連続構造(断層)は粘土化しており、このような断層は選択的な物質移行経路にはならないものと推定される。また、露頭スケールでは断層面が癒着した面なし断層は、顕微鏡下では明瞭に開口しているものや母岩が弱く粉砕され、周辺には数十μm程度の空隙が存在する。したがって面なし断層は選択的な物質移行経路となり得るものと推定される。
・先新第三紀付加体(秩父帯)中のメランジュでは、露頭で観察される定向配列を伴う変形構造は、顕微鏡下では破砕された粒子とともに数μmの空隙は確認されるものの、連続した明瞭な開口部は確認されないことから、選択的な物質移行経路になりにくいと考えられる。一方で、定向配列を高角度で斜交する後生構造としての亀裂の中には亀裂充填物を伴うものが多いが、露頭では亀裂充填物を伴わないものも存在することから、このような亀裂は選択的な物質移行経路となり得ると推定される。
今後は、透水試験や空隙率測定などにより、移行挙動の定量的評価を行う予定である。
日本列島には海洋プレートの沈み込みに伴って形成された付加体が広く分布しており、基盤の大部分は付加体とされている(狩野・村田、1998)。したがって、高レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイト選定に関して、付加体の地質環境を検討しておくことが必要である。関東地方では新第三紀および先新第三紀の付加体を海岸や河床の露頭で観察することができる。本研究では、新第三紀の三浦層群、先新第三紀の秩父帯の付加体を対象に、露頭観察、薄片観察、電子顕微鏡観察などを行った。その結果、地下水や物質移行の経路となり得る不連続構造について、付加体形成年代による違いが明らかとなってきた。
2.観察結果
2.1)新第三紀付加体
神奈川県三浦半島南端の城ケ島に分布する三浦層群三崎層中の不連続構造を対象とした。地図スケールの代表的な不連続構造は城ケ島向斜(長沼ほか1984)に沿って島中央部をほぼ東西に走る断層である。この断層は空中写真では1.5~2m程度の開口幅を有するが、露頭では幅数mmの粘土化したガウジが確認できる。また、その両側には数十cm~1m程度の割れ目帯を伴う。割れ目帯を構成する断層は断層面が癒着した、いわゆる面なし断層が多くを占める。その他の露頭スケールの断層もそのほとんどが面なし断層である。この面なし断層を含む試料を採取する際、露頭表面では風化等の影響が懸念されたことから、面なし断層を含むできる限り新鮮な転石を採取し電子顕微鏡観察を行った。その結果、断層に沿った母岩の破砕や、断層面沿いに明瞭な開口割れ目が確認された。前者については、破砕の程度は弱く、数十μmの空隙構造も認められた。
2.2)先新第三紀付加体
東京都あきる野市の秋川河床で観察される秩父帯の付加体を対象とした。この露頭では付加体を特徴づけるメランジュが観察される。メランジュは鱗片状劈開を有する泥岩基質中に剪断作用を受け、非対称なレンズ状に変形した長径が数cm~数十cmの砂岩あるいは砂泥互層のブロックが定向配列する。この河床ではメランジュが幅数mで露出することから、河床堆積物による被覆部を考慮すれば地図スケールで確認される不連続構造と推定される。これらはプレートの沈み込みに伴って形成された初期の変形構造と考えられる。これに対して、これらの構造に高角度で斜交する充填物を伴わない亀裂が観察される。泥岩基質は露頭面では劈開面に沿う開口が明瞭である。この露頭から比較的新鮮なブロック状の泥岩を採取し、偏光顕微鏡による薄片観察および電子顕微鏡による観察を行った。偏光顕微鏡下では、粒子が破砕されその周囲には剪断方向に配列する黒色のシームが観察された。一方、電子顕微鏡下では破砕された粒子とともに数μmの空隙が確認されるものの、連続した明瞭な開口部は確認されなかった。また、初期に形成されたと考えられる変形構造と斜交する多くの亀裂は、方解石などの充填鉱物で満たされているものが多い。
3.まとめ
新第三系および先新第三系の付加体中の不連続構造の物質移行に着目して露頭観察、偏光顕微鏡観察、電子顕微鏡観察を行った。得られた現状での知見を以下にまとめる。
・新第三紀付加体(三浦層群)では、地図スケールの不連続構造(断層)は粘土化しており、このような断層は選択的な物質移行経路にはならないものと推定される。また、露頭スケールでは断層面が癒着した面なし断層は、顕微鏡下では明瞭に開口しているものや母岩が弱く粉砕され、周辺には数十μm程度の空隙が存在する。したがって面なし断層は選択的な物質移行経路となり得るものと推定される。
・先新第三紀付加体(秩父帯)中のメランジュでは、露頭で観察される定向配列を伴う変形構造は、顕微鏡下では破砕された粒子とともに数μmの空隙は確認されるものの、連続した明瞭な開口部は確認されないことから、選択的な物質移行経路になりにくいと考えられる。一方で、定向配列を高角度で斜交する後生構造としての亀裂の中には亀裂充填物を伴うものが多いが、露頭では亀裂充填物を伴わないものも存在することから、このような亀裂は選択的な物質移行経路となり得ると推定される。
今後は、透水試験や空隙率測定などにより、移行挙動の定量的評価を行う予定である。