日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 原子力と地球惑星科学

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)

[HCG27-P02] わが国の花崗岩中の空隙分布に関する検討

石橋 正祐紀1、*笹尾 英嗣1湯口 貴史2森川 佳太3村上 裕晃1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2.山形大学 理学部、3.株式会社 ダイヤコンサルタント)

キーワード:マトリクス拡散、花崗岩、空隙

<はじめに>

地下深部における物質移動では,移動経路周辺の母岩への元素の拡散(マトリクス拡散)現象や収着現象により,物質の希釈や移動の遅延がおこる。そのため,高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価を行う上で母岩中のマトリクス拡散現象の理解が重要となる。物質が拡散する速度(実効拡散係数;De)と岩石の空隙率との間には相関性があり,岩石中の微小空隙構造がマトリクス拡散の経路であることが知られている。

筆者らは,岐阜県南東部に分布する土岐花崗岩を対象とした研究を進めており,肉眼観察では変質の認められない花崗岩において,マグマ冷却過程で生じる初生的な変質により,斜長石中に微小空隙構造が存在することを見出すとともに,この空隙がマトリクス拡散経路として機能していることを明らかにした(石橋ほか,2016a)。このような空隙は土岐花崗岩では普遍的に存在することが明らかになりつつある(石橋ほか,2016b,2017)ものの,国内外の花崗岩における検討は行われていない。そこで,本研究においては,土岐花崗岩以外の国内の花崗岩および比較のためスイスの花崗岩を対象として,微小空隙構造の分布を調査した。なお,本要旨において「花崗岩」は岩石学的に広義の花崗岩を指す用語として用いる。



<方法>

検討に利用した試料として,国内の花崗岩については,岩石標本として市販されている15試料を用いた。またスイスの試料については,Grimsel試験場で採取された1試料を用いた。

これら試料を対象に岩石薄片を作成した。岩石薄片はこぶし大の花崗岩1試料につき,2枚を作成した。なお,岩石薄片の作成にあたっては,石橋ほか(2016b)に従ってスライドガラスへの接着剤に蛍光染料を含むものを使用し,実体蛍光顕微鏡を用いて薄片中の蛍光部として空隙の位置を把握するとともに,蛍光部の割合から二次元的な空隙の割合を算出した。

なお,本要旨作成時点では,国内花崗岩試料のうち,4試料の観察が終了したのみである。このため,本要旨にはこの結果のみをまとめるが,発表時にはより多くの試料の観察を行う予定であり,その結果もまとめて報告する。



<結果>

これまでに観察した花崗岩4試料(薄片は8枚)の空隙の割合は1~4%であり,岩体ごとの差異に加えて,同一試料であっても薄片作成位置による違いも認められた。空隙は斜長石内部およびマイクロクラック沿いに認められた。現時点で岩体ごとの空隙の分布の特徴の違いなどについて詳細には確認していないが,薄片観察からは,同じ岩体であっても薄片によってマイクロクラック沿いの空隙が卓越するものと,斜長石内部の空隙が卓越するものが存在するようである。

スイスの花崗岩については,延性変形を被ったような産状を示し,斜長石内部の空隙は少ないことが明らかになった。ただし,斜長石内部には雲母粘土鉱物が分布しており,初生的に形成された空隙が二次的に充填された可能性がある。



<今後の予定>

現時点において,薄片の作成は終了しており,薄片観察を継続し,空隙の把握を行う。合わせて,透過拡散試験を実施し,花崗岩中の空隙がマトリクス拡散に与える影響を検討していく。さらには,岩石学的研究により,斜長石の変質メカニズムを明らかにする。これらの検討を通して,わが国の花崗岩の物質移動に対する遅延機能を総合的に理解していく。



文献

石橋・岩崎・濱(2016a)日本地球惑星科学連合2016年大会HCG25-09.

石橋・笹尾・濱(2016b)原子力バックエンド研究,vol.23.121-129.

石橋・森川・笹尾・湯口(2017)日本地質学会124年学術大会R24-O-2.