[HCG27-P06] 坑道掘削に伴う周辺地下水の酸化還元状態の変化
キーワード:地下水、酸化還元状態、坑道閉鎖
背景
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では,深度300 m以深の地質環境において大規模坑道群の建設・操業・閉鎖が実施される。地下環境は一般的に酸素が乏しく還元的な環境であるが,地下坑道建設時の人為的な擾乱によって建設以前の状態から変化する可能性がある。地層処分の安全評価においては,施設閉鎖後の地下環境条件に基づいて,放射性元素の移動プロセスを考察する必要があることから,このような地下施設建設に伴う地下環境の変化が施設閉鎖後にどのように定常状態に至るのかを理解することは必須の課題である。本研究では,岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所の深度500 mの花崗岩中に掘削された坑道を利用して,地下施設の建設・維持管理時に乱された地下水化学環境の経時変化の観察を行い,その定常状態に至る過程について考察した。
実施内容
観察対象とした坑道は延長約100 m,幅4.5~5.0 m,高さ3.5~4.5 mであり,先端部から延長約45 mの地点をコンクリート製の止水壁で閉鎖し,総容量約900 m3の空間を地下水で冠水させた(以下,閉鎖・冠水した坑道部を冠水坑道という)。坑道の掘削に先立ち,掘削予定位置から約5 m離れた位置に坑道に並行して地下水観測用のボーリング孔を掘削し,パッカーによって区切られた6つの観測区間を有する水圧・水質観測装置を設置した。この観測装置を用いて,大気開放系にある坑道部と閉鎖・冠水した冠水坑道部のそれぞれの周辺岩盤中の地下水を対象として,化学条件(pH,酸化還元電位,溶存酸素濃度及び主要化学成分濃度など)の長期観測を行った。また,観測結果について各観測区間の水圧変化や割れ目分布などを踏まえて解析を行った。
結果と考察
ボーリング孔の一部の観測区間において,冠水坑道掘削に伴い水圧の低下が観測された。この区間は冠水坑道の冠水後には水圧が上昇しており,冠水坑道との割れ目の連結性があると推測された。
当初検出下限値(0.02 mg/L)未満であった周辺岩盤の地下水中の溶存酸素濃度は,坑道掘削後の維持管理に伴う大気開放期間中に時間とともに増加した。冠水坑道を閉鎖・冠水した後,これらの観測区間では溶存酸素濃度が低下し,無酸素状態が復元されることが確認された。これは,岩盤から冠水坑道に流出していた還元的な地下水が,冠水坑道の閉鎖・冠水後,冠水坑道に流出することなく周辺岩盤に分布するようになったためと考えられる。なお,この溶存酸素濃度の経時的な変化量は,観測区間によって異なっており,ボーリング孔と坑道の間の割れ目の連結性の違いを反映していると推察された。
また,周辺岩盤の地下水のpHと酸化還元電位の関係は,溶存二価鉄と水酸化鉄との酸化還元反応の平衡電位と整合的であり,鉄の化学種の酸化還元反応によって地下水の酸化還元状態が制御されている事が示唆された。
まとめ
大規模地下坑道の掘削によって周辺岩盤では大気開放された坑道から割れ目を介して酸素が侵入し,徐々に酸化されると考えられる。一方で,坑道の閉鎖後,坑道の周辺岩盤が還元的な地下水で満たされることで還元状態が回復することが示された。また,花崗岩中では溶存二価鉄と水酸化鉄の酸化還元反応によって地下環境の酸化が緩衝されていることが示唆された。今後は割れ目を介した地下水への酸素の供給プロセスや岩盤の酸化還元緩衝能力を明らかにしていく。
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では,深度300 m以深の地質環境において大規模坑道群の建設・操業・閉鎖が実施される。地下環境は一般的に酸素が乏しく還元的な環境であるが,地下坑道建設時の人為的な擾乱によって建設以前の状態から変化する可能性がある。地層処分の安全評価においては,施設閉鎖後の地下環境条件に基づいて,放射性元素の移動プロセスを考察する必要があることから,このような地下施設建設に伴う地下環境の変化が施設閉鎖後にどのように定常状態に至るのかを理解することは必須の課題である。本研究では,岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所の深度500 mの花崗岩中に掘削された坑道を利用して,地下施設の建設・維持管理時に乱された地下水化学環境の経時変化の観察を行い,その定常状態に至る過程について考察した。
実施内容
観察対象とした坑道は延長約100 m,幅4.5~5.0 m,高さ3.5~4.5 mであり,先端部から延長約45 mの地点をコンクリート製の止水壁で閉鎖し,総容量約900 m3の空間を地下水で冠水させた(以下,閉鎖・冠水した坑道部を冠水坑道という)。坑道の掘削に先立ち,掘削予定位置から約5 m離れた位置に坑道に並行して地下水観測用のボーリング孔を掘削し,パッカーによって区切られた6つの観測区間を有する水圧・水質観測装置を設置した。この観測装置を用いて,大気開放系にある坑道部と閉鎖・冠水した冠水坑道部のそれぞれの周辺岩盤中の地下水を対象として,化学条件(pH,酸化還元電位,溶存酸素濃度及び主要化学成分濃度など)の長期観測を行った。また,観測結果について各観測区間の水圧変化や割れ目分布などを踏まえて解析を行った。
結果と考察
ボーリング孔の一部の観測区間において,冠水坑道掘削に伴い水圧の低下が観測された。この区間は冠水坑道の冠水後には水圧が上昇しており,冠水坑道との割れ目の連結性があると推測された。
当初検出下限値(0.02 mg/L)未満であった周辺岩盤の地下水中の溶存酸素濃度は,坑道掘削後の維持管理に伴う大気開放期間中に時間とともに増加した。冠水坑道を閉鎖・冠水した後,これらの観測区間では溶存酸素濃度が低下し,無酸素状態が復元されることが確認された。これは,岩盤から冠水坑道に流出していた還元的な地下水が,冠水坑道の閉鎖・冠水後,冠水坑道に流出することなく周辺岩盤に分布するようになったためと考えられる。なお,この溶存酸素濃度の経時的な変化量は,観測区間によって異なっており,ボーリング孔と坑道の間の割れ目の連結性の違いを反映していると推察された。
また,周辺岩盤の地下水のpHと酸化還元電位の関係は,溶存二価鉄と水酸化鉄との酸化還元反応の平衡電位と整合的であり,鉄の化学種の酸化還元反応によって地下水の酸化還元状態が制御されている事が示唆された。
まとめ
大規模地下坑道の掘削によって周辺岩盤では大気開放された坑道から割れ目を介して酸素が侵入し,徐々に酸化されると考えられる。一方で,坑道の閉鎖後,坑道の周辺岩盤が還元的な地下水で満たされることで還元状態が回復することが示された。また,花崗岩中では溶存二価鉄と水酸化鉄の酸化還元反応によって地下環境の酸化が緩衝されていることが示唆された。今後は割れ目を介した地下水への酸素の供給プロセスや岩盤の酸化還元緩衝能力を明らかにしていく。