日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 海岸低湿地における地形・生物・人為プロセス

2018年5月20日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:藤本 潔(南山大学)

[HCG28-P01] 海面上昇に起因すると思われる表層侵食が認められるマングローブ群落の林分構造と立地環境:ミクロネシア連邦ポンペイ島からの報告

*藤本 潔1小野 賢二2渡辺 信3谷口 真吾3古川 恵太4平田 泰雅2羽佐田 紘大5リーパイ サイモン6 (1.南山大学、2.森林総合研究所、3.琉球大学、4.海洋政策研究所、5.法政大学、6.ミクロネシア連邦ポンペイ州政府)

キーワード:マングローブ群落、表層侵食、海面上昇、マングローブ泥炭

フィリピンからミクロネシアに至る西太平洋低緯度地域では、近年、年10mmを超す速度で海面が上昇しつつある(IPCC 2013)。ミクロネシア連邦ポンペイ島では、2002~2010年の間に16.9mm/yrと急激な上昇が確認されている(Australian Bureau of Meteorology 2010)。海面上昇に対してマングローブ林が生き残ることができるか否かは、そこでの潜在的な堆積可能速度と海面上昇速度の相対関係で決まる(藤本ほか 1989)。堆積可能速度は河川等による外部からの土砂供給がみられる立地では、それによる埋積速度とマングローブ泥炭堆積速度の和で求まるが、土砂流入がみられない立地では、マングローブ泥炭堆積速度のみで決まる。土砂流入がほとんど見られない立地にはRhizophora属が優占する群落が成立してマングローブ泥炭が堆積するが(Fujimoto et al. 1999など)、遷移が進行するとRhizophora属の優占度が低下し、泥炭堆積速度も低下するものと考えられる。ポンペイ島のマングローブ林では、Rhizophora stylosa林やRhizophora apiculata林では表層侵食がみられないものの、その他の樹種が優占する林分では表層侵食が確認されている(藤本 2016)。発表者らは、顕著な表層侵食が確認された島南部のマングローブ群落の立地変動と森林動態を観測調査するため、本年9月に20m×130mの固定プロットを設置した。本発表ではそこでの林分構造と表層侵食の実態について報告する。

固定プロットは奥行約30mのR. stylosa林背後に位置する。プロット内の胸高以上の出現樹種と本数は、Bruguiera gymnorrhiza116本、R. apiculata40本、Xylocarpus granatum17本、Sonneratia alba13本、計186本(715本/ha)であった。R. apiculataは直径5cm未満の低木が90%を占める。B. gymnorrhizaX. granatumは、それぞれ直径20~29.9cm、30-39.9cmの出現本数が最大となる山型分布を示すのに対し、S. albaは20~90cmの間に万遍なく分布する。地上部現存量はB. gymnorrhiza (256t/ha)、S. alba (173t/ha)、X. granatum (94t/ha)、R. apiculata (25t/ha)の順であった。堆積物はマングローブ泥炭からなり、かつてはRhizophora属が優占した林分であったことがわかる。地盤高は、プロット内の最低値が-57cm、最高値が+19cmであるが、平均海面より高い立地は100m付近にごくわずかで見られるのみで、明らかに表層侵食が進みつつあることがわかる。B.gymnorrhizaの根元には板根とその下の支柱根状の根が露出し、地表面との間に隙間が生じていた。その平均隙間高は海側の0~20m地点で43cm、110~130m地点で31cmであった。この値からみると、内陸側ほど侵食量が小さい可能性が指摘できる。

今後はさらに内陸側まで調査範囲を広げると共に、海側林縁部群落であるR. stylosa林の奥行と背後の表層侵食の関係を調査することで、表層侵食の実態を空間的に明らかにする予定である。