16:00 〜 16:15
[HCG29-03] 地層処分の活断層評価に関する2つの大きな課題
キーワード:活断層、プロセスゾーン、熊本地震
2017年7月に経済産業省資源エネルギー庁によって高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する「科学的特性マップ」が提示された.国民に地層処分のしくみや我が国の地下深部の地質環境等について理解を深めてもらうために,地域の科学的特性を全国地図の形で示したものである.発表者は2013年10月から日本活断層学会の推薦で地層処分技術WGに委員として参加し,主として活断層評価の観点から同マップ作成に関わった.本発表では同検討過程で考えてきたこと,特に今後地層処分が具体化していくまでに解決しなければならない活断層評価の課題を2つ示したい.
1)プロセスゾーンは本当に断層長の1/100で良いのか.
「科学的特性マップ」はあくまでも,既存の全国データに基づき一定の要件・基準にしたがって客観的に整理し,200万分の1の全国地図の形に示したものである.活断層の評価に関しては,断層変位による処分場の破壊を避ける観点から,活断層の近傍が「好ましくない要件・基準」になるが,その回避距離は,基本的に断層破砕帯の概念をさらに広くしたプロセスゾーン(process zone)を基本としている.このプロセスゾーンは,断層長の100分の1程度(断層の両側の合計)におさまるとされており(Vermilye and Scholz, 1998, JGR),「科学的特性マップ」でもその基準を採用している.しかし,意外にも200万分の1の日本全国マップにすると活断層長の1/100の断層幅は無視できるほど小さい.特にA4サイズ1枚に収めると,長大な中央構造線活断層系などを除くと,ほぼ無視できるレベルになり,「回避すべき」要素としての活断層は,火山活動などに比べるとそれほど影響が大きくない.しかし,今後,文献調査,概要調査とスケールアップするに進むにつれて,この回避ゾーンが重要な問題となってくるのは明らかだ.特に,著者が懸念していることは,断層先端の進展速度である.少なくとも,断層先端にまで同様のプロセスゾーン概念を適用できないだろう.例えば,遠田ほか(2017,地震学会秋季大会要旨)は熊本地震で阿蘇カルデラ内にまで伸張した布田川断層帯先端の末端成長速度を33-190 mm/年と見積もった.Aso-4噴火のカルデラ形成で布田川断層が断ち切られるという仮定が入るが,10万年換算で断層先端が3―19kmも成長する.布田川断層の断層長から評価される数100mよりも1オーダー以上大きい.少なくとも,10万年程度を視野に入れた断層成長速度や発達過程に関しては,研究・議論が十分とはいえない.
2)伏在断層の問題
M7前後の内陸地震は必ずしも既知の主要活断層で発生しない.これは,C級活断層問題(浅田,1991,活断層研究),短い活断層の評価(例えば,島崎,2008,活断層研究)として,地震の長期評価の課題として取り上げられてきた.実際に,活断層分布から予測されるM7以上の地震数よりも,1923年以降に観測された地震数が2倍程度多いことが示されている(遠田,2013,地質学雑誌).そのため,地震ハザード評価では,長さ20km程度の断層が地下に多数伏在しているか,その一部がわずかに短い活断層として地表に出現していることを前提とした検討が進んできた.地層処分においても伏在断層問題を避けては通れない.また,熊本地震では,干渉SARなどにより震源断層外での多数の誘発断層変位が報告されている.他の内陸地震でも同様の報告が多く,受動変位も含めた小中規模の断層の実態を解明する必要がある.さらに,1)の断層成長速度とも絡んで,今後サイト候補地周辺に伏在する活断層を検出する探査技術と断層成長の可能性まで含めた評価法を確立する必要がある.
1)プロセスゾーンは本当に断層長の1/100で良いのか.
「科学的特性マップ」はあくまでも,既存の全国データに基づき一定の要件・基準にしたがって客観的に整理し,200万分の1の全国地図の形に示したものである.活断層の評価に関しては,断層変位による処分場の破壊を避ける観点から,活断層の近傍が「好ましくない要件・基準」になるが,その回避距離は,基本的に断層破砕帯の概念をさらに広くしたプロセスゾーン(process zone)を基本としている.このプロセスゾーンは,断層長の100分の1程度(断層の両側の合計)におさまるとされており(Vermilye and Scholz, 1998, JGR),「科学的特性マップ」でもその基準を採用している.しかし,意外にも200万分の1の日本全国マップにすると活断層長の1/100の断層幅は無視できるほど小さい.特にA4サイズ1枚に収めると,長大な中央構造線活断層系などを除くと,ほぼ無視できるレベルになり,「回避すべき」要素としての活断層は,火山活動などに比べるとそれほど影響が大きくない.しかし,今後,文献調査,概要調査とスケールアップするに進むにつれて,この回避ゾーンが重要な問題となってくるのは明らかだ.特に,著者が懸念していることは,断層先端の進展速度である.少なくとも,断層先端にまで同様のプロセスゾーン概念を適用できないだろう.例えば,遠田ほか(2017,地震学会秋季大会要旨)は熊本地震で阿蘇カルデラ内にまで伸張した布田川断層帯先端の末端成長速度を33-190 mm/年と見積もった.Aso-4噴火のカルデラ形成で布田川断層が断ち切られるという仮定が入るが,10万年換算で断層先端が3―19kmも成長する.布田川断層の断層長から評価される数100mよりも1オーダー以上大きい.少なくとも,10万年程度を視野に入れた断層成長速度や発達過程に関しては,研究・議論が十分とはいえない.
2)伏在断層の問題
M7前後の内陸地震は必ずしも既知の主要活断層で発生しない.これは,C級活断層問題(浅田,1991,活断層研究),短い活断層の評価(例えば,島崎,2008,活断層研究)として,地震の長期評価の課題として取り上げられてきた.実際に,活断層分布から予測されるM7以上の地震数よりも,1923年以降に観測された地震数が2倍程度多いことが示されている(遠田,2013,地質学雑誌).そのため,地震ハザード評価では,長さ20km程度の断層が地下に多数伏在しているか,その一部がわずかに短い活断層として地表に出現していることを前提とした検討が進んできた.地層処分においても伏在断層問題を避けては通れない.また,熊本地震では,干渉SARなどにより震源断層外での多数の誘発断層変位が報告されている.他の内陸地震でも同様の報告が多く,受動変位も含めた小中規模の断層の実態を解明する必要がある.さらに,1)の断層成長速度とも絡んで,今後サイト候補地周辺に伏在する活断層を検出する探査技術と断層成長の可能性まで含めた評価法を確立する必要がある.