日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG29] 高レベル放射性廃棄物処分: 理学・工学の両面から考える

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、寿楽 浩太(東京電機大学工学部人間科学系列)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、共同)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、座長:末次 大輔寿楽 浩太

16:30 〜 16:45

[HCG29-05] わが国の高レベル放射性廃棄物の地層処分実現にあたって最も重要な研究は何か?

*千木良 雅弘1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:高レベル放射性廃棄物処分、地下水、不確実性

従来地層処分に関する研究は、地質環境、処分技術、安全評価の3つの視点から行われてきた。しかしながら、それらを連ねた安全評価の結果にたどりつくまでに、科学的信頼性の損なわれる側面があったと言わざるを得ない。地下水シナリオでは、地下水の移動、さらに、それに運ばれる放射性核種の移行をモデル化することによって長期的な安全性が評価される。そのためには、水の通路を含む地質構造が高精度で解明される必要があるのであるが、その調査技術は、未だ、十分に納得できるレベルにあるとは言い難い。まずここが解決されなければ、その後の地下水のモデル計算や核種移行解析をいかに高度に行おうが、安全評価全体の不確実性が低減して地層処分の安全性に対する信頼性が向上することはない。もちろん地質構造が詳細に解明されたとしても、割れ目の中を流れる地下水の挙動解析にも限界があることは否めない。つまり、断層運動,火山活動,隆起侵食などの地質現象による直接シナリオの生じない地域を選定できたとしても、地下水シナリオの評価に不確実性が伴うことは不可避である。我が国のような変動帯では、直接シナリオだけでなく、地下水シナリオに関する不確実性を出来うる限り低減することが安定大陸に比べてはるかに重要である。それは、火山活動、断層活動、地震、地熱活動、そして隆起、いずれもが地下水シナリオに影響を与えるからである。この点が従来の研究開発では重視されていなかったように思う。

 基本的には、地下水の通路としての割れ目の少ない処分場母岩を探すこと、そして、割れ目を非破壊で探す技術が適用できる岩盤を選ぶ、あるいは従来探査の難しかった岩盤にも適用できる新しい探査技術を開発することが必要である。我が国の方針では、高レベル放射性廃棄物地層処分場の選定は段階を追って進められることになっている。そして,処分場としての適性が明確に欠落していることがわかった場合は候補地から除外される,つまり,それまでの調査はキャンセルされるが、不明確な場合には次の段階に進んで調査することになっている。これは、よほど明確な不適格条件を持っていなければ処分場候補地となりうる、という理解の上に乗っ取った進め方からすれば当然のことであろう。しかしながら、莫大な費用をかけて第3段階まで進んだ後、不適格と判断するのは、大変重い。最初の段階で、そうなる可能性の低いところから候補地を選ぶのが、最善の方法である。