日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 地すべりおよび関連現象

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、王 功輝(京都大学防災研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、座長:今泉 文寿

11:00 〜 11:15

[HDS07-08] UAVレーザ計測を用いた崖錐堆積物の分布する急傾斜地における変動解析の試み

*菊地 輝行1秦野 輝儀2 (1.株式会社開発設計コンサルタント、2.電源開発株式会社)

キーワード:ICP解析、点群、急斜面

1.はじめに
近年増加する斜面災害において急傾斜地からの岩盤崩落や落石は,要点検箇所に抽出されていない場合でも発生する報告がなされている.その数は膨大であり,危険箇所に抽出された場合においても,直接計測する地盤伸縮計や傾斜センサーなどを設置してリアルタイムでモニタリングすることはコストの面で負担が大きい.近年では開発が著しいレーザ計測を用いた地形形状の取得が進み, 二時期目を計測することも増加しており三次元点群データによる変動解析結果が報告されている1).本研究では崖錐堆積物の分布する急傾斜地に対して、多時期のUAVレーザ計測によって得られた三次元点群データを用いて変動解析を行い,定期的計測手法としての有用性を検討した.

2.対象地点
対象地点は静岡県西部の赤石山地の南端部の河川に面する急斜面である.周辺の尾根は海抜約200mの山頂部を有している.対象地点を含む周辺斜面には,地すべり地形や崩壊地が分布している.本崩壊地は,河川の右岸側に位置し,幅250m,比高約70m,平均傾斜角40°である.斜面上部には,急崖があり,その下部には岩屑からなる崖錐堆積物が分布している.微地形判読と現地調査の結果から,岩屑は結晶片岩の硬質な岩片からなり径は10~50cmを主体とするが,大きなもので2mに達するものがあり,上方の急崖露岩部から崩落・堆積したものである.岩屑にはコケや植生が発生しておらず,現在も崩壊(斜面変動)が進行していることを示唆している.急傾斜地であり立ち入りが困難であることから,レーザ計測によりその形状の変化を捉えて崩壊の進行性を把握する必要が生じていた. UAVレーザ計測は,平成28年6月と12月の2回,中日本航空(株)により実施された.仕様は表-1に,計測データの精度については表-2に示した.

3.UAVレーザ計測を用いた変動解析手法
一般的なレーザ計測においてオリジナルデータからフィルタリングされたグラウンドデータは,植生などの影響を除去した数値標高データ(DEM: Digital Elevation Model)となる.しかしDEMではフィルタリングによりラストショットのみのデータからメッシュ化するため転石やオーバーハング地形など凹凸に富む詳細な地表面の状態を詳細に表現できない.そこで計測データ本来の情報量を損なわないようにグラウンド及びその近傍の点群データを直接用いて解析することとした.解析は,崖錐堆積物のうち地表面にある転石を対象とするために面的に複雑な分布形状を適切にマッチングさせる必要があることから,ICP(Iterative Closest Point)解析を採用した.ICP解析は,三次元形状の位置あわせに使用するアルゴリズム2)で,自動車の自動運転に採用されているSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術の一手法として活用されている3).土木分野での活用については,北東イタリアの地すべり地において,二次元および三次元の地形モデルを用いて,変動解析が試みられた4).国内の斜面を対象としたものとしては, UAV画像を用いた斜面の二時期のマッチングおよび落石の形状取得の事例5)がある.具体的な解析は,ニ時期の2つの点群において,お互いの点の距離を最小化するように繰り返し計算を行いマッチングさせる手法である6).基本的な作業の流れは, 2つの領域の点群のうちの1つの点群を平行移動および回転を行い,ペアとなる最近傍点の距離が最小になるまで収束演算を行うものである.本研究では点群データの処理は,フリーソフトCloudCompareを用い,ICP解析はMathworks社製の数値解析ソフトウェアMATLAB®のフリーライブラリを用いて解析を行った.

4.解析結果
二時期の計算結果からは,岩屑の末端部から上端部までの標高差約50mの範囲で最大変位量0.42mを確認した.特に活発なエリアでは0.2~0.4m,静穏なエリアでは0.02~0.10mとなり,場所によって変動量が異なっていることが確認できた.この原因としては大きい転石が分布する範囲が活発なエリアと一致しており,同一傾斜であれば岩屑の径が大きいほど不安定であるといえる現象と整合する.また,静穏エリアにおける変動のトレンドは,最大傾斜方向と一致するベクトルを示しており,現象と比較して矛盾のない成果が得られた.しかし,現地では1m以上の変位が確認されていることから検証を行った結果,解析の最初のステップであるブロック設定により大きい岩屑の特徴的な形状(地物)を追随できない場合があることが確認できた.このような箇所を独自に切り取って局所的なデータとして再解析を行うと現地調査での確認結果と矛盾のない変動量を把握できた。

5.まとめ
本研究では,岩屑からなる崖錐堆積物の斜面を対称に変動ベクトル解析を実施し現地の性状に応じた変動量を概ね捉えることが出来た.しかし,人間が認識できる大きい岩屑の変動量を捉えることが出来ず平均的な値として算出していることが明らかになった.これは変動量を過小評価することになる。このような特徴的な形状(地物)は個別に特定し変位を把握すればよいものの, ICPによる変動解析の課題として今後改善する必要があると考える.

参考文献
1) 菊地輝行,秦野輝儀,千田良道,西山哲(2017):S-DEMデータを利用した地すべり地における変動ベクトル解析技術の開発,応用地質,57,vol.6,pp.277-288.
2) Besl, P.J and McKay, N.D.(1992):A Method for Registration of 3-D Shapes, IEEE Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol.14, No.2, pp.239-256.
3) Rusinkiewicz, S., Levoy, M. (2007):Efficient Variants of the ICP Algorithm, Stanford Univ.
4) Teza, G., Pesci, A., Genevois, R. and Galgaro, A. (2008): Characterization of landslide ground surface kine-matics from terrestrial laser scanning and strain field computation, Geomorphology, vol.97, 424-437.
5) 織田和夫,高山陶子,服部聡子(2015):UAV 画像を利用したポイントクラウドの生成と差分解析,先端測量技術 107 号.
6 )増田健:ICP アルゴリズム(2009), 情報処理学会研究報告, Vol.2009-CVIM-168 , No.23.