日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 海底地すべりとその関連現象

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:北村 有迅(鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻)

[HDS09-P02] 地震に伴う混濁流・泥流の多面的観測:JAMSTEC海底ケーブル型観測システムによる観測結果の整理

*岩瀬 良一1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:十勝沖地震、伊豆半島東方沖地震、深海底

海洋研究開発機構(JAMSTEC)が日本周辺に展開している海底ケーブル型観測システムのうち,北海道・釧路十勝沖「海底地震総合観測システム」の先端観測ステーションでは,2003年9月26日に発生した十勝沖地震に伴う混濁流を,相模湾初島沖「深海底総合観測ステーション」では,一連の伊豆半島東方沖地震に伴う泥流を1997年3月,1998年4,5月,2006年4月にそれぞれ検出している.初島沖では,計画停電による一部センサの停止などにより明確に泥流とは判定できないが,2011年3月15日の静岡県東部地震などでも泥流が発生したと推定される事象が観測されている.これらの海底ケーブル型観測システムの特徴は,深海底に設置された多種類のセンサによる多面的な観測が実施されている点である.これまでいくつかの論文や学会発表などで個々の観測結果が断片的に発表されているが,その後得られた知見も含めて整理し,事象の全体像の把握を目的として再検討を試みた.
混濁流ないしは泥流は,主に流速計による流速増加により検出されるが,これ以外にもCTD(電気伝導度,水温,深度)センサによる水温上昇や,地中温度計による温度上昇が検出される.初島沖観測システムでは,これに加えビデオカメラにより泥流の流入が視覚的に観察されている.また両観測システムともハイドロフォンによる音響信号が取得されている.
先端観測ステーションの西北西約25 kmを震央とする2003年十勝沖地震では,地震発生の約2時間後に混濁流が到達し,海底直上の電磁流向流速計により最大約1.5 m/s の南西から南南西方向の強い流れを10時間以上に渡り検出している.同時に計測していたADCP (Acoustic Doppler Current Profiler:層別流向流速プロファイラ)は,通信異常により,地震発生の約8時間後からデータにエラーや欠落が生じ,正常なデータが読み出せない状態となっていた.その後のエラー解析および修復により,上層での逆向きの流れの発生など,海底から高度約400mまでの混濁流の特徴が把握できるようになった(Fig. 1).また先端観測ステーションのハイドロフォンにより取得されたサンプリング周波数 100 Hzの音響信号には,混濁流の到達直後から10 Hz未満の比較的広帯域の音響信号が継続し,その約7時間後からはピーク周波数が 1 Hz 前後に変化している.一方で先端観測ステーションの東北東約5kmに位置するOBS1観測点のハイドロフォンには同様な信号は検出されていない.これらの流速や音響信号の周波数に対して,Rickenmann (2017)に示されている粒子衝突時の音波の周波数と粒子の粒径並びに衝突速度間の関係式を適用すると,常識的な粒径は得られないが,以上のことから,先端観測ステーションの西側に流軸を有し,震央に近い海溝陸側斜面上方で崩落した,ある程度大きな粒径の岩を含む混濁流の姿が推定される.
伊豆半島東方沖地震に伴う泥流のうち,1997年3月4日,同5日,及び2006年4月21日に発生した泥流では,海底映像及び音声帯域(10 kHz未満)の音響信号が取得されている.検出された流速は最大でも30cm/s程度である.音響信号には比較的大きな電気ノイズが含まれているが,1997年3月4日及び2006年4月21日の泥流では,地震発生から,前者で約5分後,後者で約10分後の泥流流入開始直後までの間に礫の衝突音と推定されるパルス的な信号が散発的に観測され,それ以降には観測されていない.また後者の泥流では,ほぼ同じ時間帯に,広い周波数帯域を有するホワイトノイズ的な音が聞こえる.パルス的な信号のピーク周波数と最大流速を参考にして1m/sの衝突速度を仮定すると,前記のRickenmann (2017)の関係式から,礫の粒径は10cm程度と推定される.一方,ホワイトノイズ的な音は,様々な粒径を有する礫や砂が観測ステーションからやや離れた場所を移動していることが示唆される.以上のことから,観測ステーションの西側斜面で発生した礫の崩落とそれに引き続く泥流の姿が推定される.後者の泥流では,ガンマ線センサによる40Kの増加や海底ケーブル両端の電位差の変化も検出されており,ある程度広範囲(おそらく海底ケーブルを横断する数百m以上)のアルカリ岩起源の堆積物を含む水の流れが示唆される.

参考文献
Rickenmann, J. Hydraul. Eng., 143(6), DOI:10.1061/(ASCE)HY.1943-7900.0001300, 2017.