日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 105 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:山本 近貞 直孝(防災科学技術研究所)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、座長:今井 健太郎前田 拓人

15:30 〜 15:45

[HDS10-24] 線形長波および分散波津波の相反・表現定理とその沿岸における津波増幅問題への応用

*前田 拓人1 (1.東京大学地震研究所)

津波が沿岸に到達すると,水深変化によりその振幅は急激に大きくなる.浅い水深における短波長の津波を直接数値計算するのは効率的でないため,沖合の津波計算結果から理論的・経験的な関係式によって沿岸の津波波高を予測することがしばしば行われる.そのような関係で最もよく使われているのがGreenの法則であろう.これはエネルギー流速の保存に基づく関係式で,水深変化による津波振幅の増減を記述できる.だが,この関係式は波線に直交した方向で水深が一様であることが仮定されているうえ,津波の振幅だけしか記述できない.最近対馬(2016, 2017)は沖合から沿岸への津波増幅率を周波数依存する増幅係数スペクトルで表し,それを再帰的な時間領域デジタルフィルタで実現することを提案し,宮古における湾の津波増幅の再現に成功した.本研究では,Bettiの定理を用いて津波増幅を評価する新しい方法を提案する.
 Bettiの定理は弾性体力学において2つの力源による弾性体の応答の関係を記述するものであり,Green関数の力源と観測点位置の交換を可能にする相反定理はこのBettiの定理からの帰結として得られる.津波研究においても,Korolev (2011, 2012)が線形長波の津波が相反性を満たすことを数値計算から示し,Hossen et al. (2015)は相反性を用いて津波初期波源モデルのイメージングを行っている.本研究では,まず線形長波津波の方程式系が弾性体におけるBettiの定理と同等の関係を満たすことを理論的に示した.そして,Boussinesq近似に基づく線形分散波(e.g., Saito et al., 2004)についても同様の関係が成立することを確認した.この表現を用いると,特定の場所の津波波形は,ある領域内での津波発生・伝播による津波成分の面積分と,その領域の外部境界からの寄与の線積分で記述される.これは弾性体力学における表現定理に相当するものである.津波増幅の問題では,前者の津波発生項が存在しないような領域を採用し,境界からの寄与だけを考える.この場合,領域内部のある点における津波波形は境界における津波およびその流速成分と,観測点を点波源とする逆伝播Green関数との畳み込み積分で表すことができる.この逆伝播Green関数も波高のみならず流速成分が必要となる.
 本研究で導出した表現によって,沿岸の津波波形を外部領域の津波波形群から再構築することが可能になった.そこで,湾地形を模した数値実験による検証を行った.対象とする点を湾奥におき,境界は湾口を通るように設定した.はじめに平面波を入社させた場合の湾奥における津波の計算を行い,それに対して湾口の観測記録のみから再構築した湾奥津波波形との比較を行った.湾口では境界に沿って数点の擬似観測点を設定し,そこにおける入力波高および流速と予め計算しておいた湾奥観測点からの逆伝播Green関数との畳み込みを計算し,境界に沿った積分は湾口における観測点の離散的な和で近似した.結果,湾奥の津波波形と再構築波形はほぼ完全に一致し,数点の湾口における津波記録から湾奥の波形を再現できることが確認された.
 本研究で提案した手法は,沿岸における津波の振幅のみならずその位相までも再現できるという利点がある.一方,この定式化では,沖合における津波波高のみならず流速も必要である.そのため,シミュレーション同士の接続ならばともかく,既存の観測記録にそのまま適用することは難しい.だが,近年の津波データ同化(Maeda et al., 2015)は,沖合の稠密観測網記録との同化によって波高のみならず流速までも予測することができる.沖合のデータ同化結果に本提案手法を接続することによって,津波の即時的な予測の高精度化が実現できると期待される.