日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 105 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:山本 近貞 直孝(防災科学技術研究所)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、座長:今井 健太郎前田 拓人

16:00 〜 16:15

[HDS10-26] データベース検索型津波遡上即時予測システム:機械学習の適用によるシナリオ選別アルゴリズムの高度化

*阿部 雄太1橋本 紀彦1是永 眞理子1青井 真2山本 直孝2前田 宜浩2早川 俊彦3赤木 翔3 (1.伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、2.防災科学技術研究所、3.三菱スペース・ソフトウエア株式会社)

キーワード:津波即時予測、津波シナリオバンク、機械学習

防災科学技術研究所(防災科研)では、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)から得られるリアルタイムの沖合水圧変動データを用いることで、津波の遡上を即時的に予測するシステムの開発を進めている(青井・他, 2015, JpGU)。このシステムでは、予め多数の津波シナリオの数値シミュレーションを行ってその結果をデータベース化し(津波シナリオバンク)、実際に津波が起こった際に沖合で観測された津波に類似した津波シナリオを検索する、というデータベース検索型のアルゴリズム、Multi-index法(Yamamoto et al., 2016, EPS)を採用している。Multi-index法では、一つの津波に対して複数の津波シナリオが選別されることがあり、津波浸水予測のばらつきを低減することや予測精度の向上が課題となっている。

そこで本研究では、各津波シナリオにおける計算結果、すなわち沖合の最大水圧変動値の分布と任意の陸域地点での浸水の有無や最大浸水深の関係を学習することで、陸域地点毎に津波浸水結果を予測する手法を検討した。まず、最大浸水深を予測する手法として、沖合の最大水圧変動値を説明変数、陸域地点の最大浸水深を目的変数とした重回帰分析を行った。重回帰分析の標準誤差は1.0m~1.5m程度であったが、陸域地点で浸水が生じた津波シナリオのみを学習に用いたため、浸水深0.0m付近の精度が低い問題があった。そこで次に、沖合の最大水圧変動値を特徴量としたサポートベクターマシン(SVM)による分類モデルを作成することにより、陸域地点での浸水の有無を判別する手法を開発した。学習時に浸水した津波シナリオのデータに重みを大きくとることにより、予測の際に浸水の見逃しを極力減らすよう分類モデルを作成することが可能となる。回帰及び分類の解析結果の妥当性は、K-分割交差検証によって確認した。

最後に、上記の回帰及び分類の手法をMulti-index法と組み合わせることにより、津波シナリオ検索アルゴリズムの高度化を図った。Multi-index法において選別された複数個の津波シナリオの中から、陸域での浸水結果が回帰分析および分類分析の結果と近くなる津波シナリオをさらに選別する。Multi-index法では、指標の算出の際に全てのS-net観測点で均等の重みとしているが、本研究の回帰・分類手法では陸域地点毎にS-net観測点の重み分布を算出しており、その結果地域ごとに検索される津波シナリオが変わることになる。この二段階の津波シナリオ検索により、浸水分布の予測精度の向上が期待される。