日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 津波とその予測

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:山本 近貞 直孝(防災科学技術研究所)、今井 健太郎(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、対馬 弘晃(気象庁気象研究所)

[HDS10-P19] 千島海溝南部における確率論的津波ハザード評価のための特性化波源断層モデル

*大嶋 健嗣1鬼頭 直1平田 賢治2藤原 広行2中村 洋光2森川 信之2前田 宜浩2松山 尚典1遠山 信彦1村田 泰洋3秋山 伸一4 (1.応用地質株式会社、2.防災科学技術研究所、3.国際航業株式会社、4.伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)

キーワード:千島海溝南部、確率論的津波ハザード評価、特性化波源断層モデル

防災科学技術研究所では、東北地方太平洋沖地震を契機として、日本全国の沿岸を対象とした確率論的津波ハザード評価の研究を進めている(藤原・他, 2013, JpGU)。本プロジェクトではこれまで日本海溝、南海トラフ、相模トラフにおいて特性化波源断層モデルを設定し、津波伝播シミュレーションの結果を用いて津波ハザード評価を実施してきた(平田・他, 2014, 2015, 2016, 2017, JpGU)。一般に、防災科研のハザード評価では、地震調査研究推進本部地震調査委員会が公表する長期評価に示されている地震と、長期評価のような過去の大地震に関する知見によらずモデル化する「震源をあらかじめ特定しにくい地震」に大きく分類する。昨年12月に地震調査委員会から「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」が公表されたが、今回、我々は同海域で将来起こり得るすべての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として取り扱うことによって同長期評価の評価情報に立脚しないハザード評価を行うことを目標とした。本発表では、そのための波源断層モデルの設定方法の検討と、それに基づき波源断層モデル群を設定したので、その結果について紹介する。


初めに、特性化波源断層モデルを設定する対象となる地震発生領域を設定した。走向方向については、「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第二版)」(地震調査委員会, 2004)で示されている4つの評価対象領域(十勝沖領域、根室沖領域、色丹島沖領域、択捉島沖領域)とともに、「2006年11月15日の千島列島東方の地震」を考慮するため択捉島沖領域のさらに北東に新知(シムシル)島沖領域を設定した。傾斜方向については、海溝軸からプレート境界の深さ60 kmまでの範囲とした。


次に、Mw7.0からMw9.4までの地震規模をもつ特性化波源断層モデル群を設定した。「震源をあらかじめ特定しにくい地震」は過去の地震の規模、位置、形状等の情報があらかじめ評価することが困難であるという前提のもとでモデル化するため、震源域の形状は基本的に「点震源のアナロジー」としての正方形とした。それぞれの特性化波源断層モデルの面積は、日本海溝における確率論的津波ハザード評価の際に求めたスケーリング則(藤原・他, 2014, 防災科研研究資料)を使用して求めた。この際、Mw8.4以下の地震規模では、正方形状の断層モデルが地震発生領域内に収まる大きさであった。一方、Mw8.5以上の地震規模では、正方形状の断層モデルの幅が地震発生領域の傾斜方向の幅を超えるモデルがあった。このような断層モデルについては、地震発生領域の上端及び下端からはみ出した断層モデルの上端と下端部分を切り取り、切り取った面積に相当するだけ元の断層モデルの西端と東端の外側に付け足すよう調整した。断層モデルの位置は、隣り合う断層モデルの位置からおよそ半分ずれた位置となるような条件(ハーフピッチ条件)を課し、地震発生領域内の西端から東端まで敷き詰めるようにして設定した。


最後に、断層すべり分布の不均質性を考慮するため、それぞれの断層モデルに、断層モデルの全面積に対する面積比が30%で、平均すべり量の2倍のすべり量を持つ大すべり域を設定した。大すべり域の位置は、Mw8.5以上の地震規模では、走向方向にはハーフピッチ条件を課して断層モデルの西端から東端まで異なる位置に、傾斜方向には最大3つの異なる位置(浅部、中部、深部)に設定することにより、すべり不均質分布の多様性を表現した。Mw8.4以下の地震規模では、大すべり域を震源域の中央一か所にのみ設定し、すべり不均質分布の多様性は、ハザード評価を行う際に最大水位上昇量の値にばらつきを与えることによって考慮した(阿部・他, 本大会)。大すべり域の形状は、基本的には断層モデルと同じく正方形とし、大すべり域が断層モデルの外縁に接する場合には、面積を一定に保ちつつ、接した辺が断層モデルの外縁形状と一致するように調整した。以上のような設定条件のもと、3,347個の特性化波源断層モデルを設定した。


今回設定した特性化波源断層モデル群は、過去の大地震に関する情報(地震規模や震源域の位置・形状等の情報)を含んでいないため不確実性の大きなモデル群であると言える。現在、「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」で示された地震学的な知見に基づく特性化波源断層モデル群を作成中であり、それらを今回作成したモデル群と併せることにより、不確実性をより小さくした確率論的津波ハザード評価を実施できると考えられる。


本研究は防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施している。