[HDS10-P21] 千島海溝南部における確率論的津波ハザード評価:確率設定方法と評価結果について
キーワード:千島海溝、津波、確率、確率論的津波ハザード評価
防災科学技術研究所では、日本全国の沿岸を対象とした確率論的津波ハザード評価(PHTA)を進めており(藤原・他, 2013, JpGU)、過年度までに日本海溝沿い、南海トラフ沿い、相模トラフ沿いの3つの海域において発生する地震について、地震調査研究推進本部の長期評価に基づいてPTHAを実施してきた(平田・他, 2014, 2015, 2016, 2017, JpGU)。今回、千島海溝における最新の長期評価(地震調査委員会, 2017)が公開される前の知見の元の暫定的なPTHAとして、千島海溝南部で発生する地震に対して波源断層モデルや発生確率の設定根拠を長期評価に依らず、全ての地震を「震源をあらかじめ特定しにくい地震」として扱ってPTHAを実施した。本発表では、千島海溝南部におけるPTHAの発生確率の設定方法とハザード評価結果について報告する。
今回実施した千島海溝南部のPTHAでは、千島海溝南部で過去に発生した地震の震源の規模や位置・形状の情報に依らずに、一定のルールに基づき、千島海溝南部の地震発生領域(十勝沖からシムシル島沖のプレート境界)に敷き詰めるように波源断層モデルを設定した(大嶋・他、本大会)。地震規模はMw7.0から9.4までを評価対象とした。Mw8.4以下の地震については一つの震源域に対して大すべり域の位置が中央に一箇所の1パターンの波源断層モデルを設定し、Mw8.5以上の地震については大すべり域の位置を変えて複数個の波源断層モデルを設定した。
地震の発生確率の算出方法についても、過去に繰り返し発生した地震の平均発生間隔などの情報に依らず、千島海溝南部の領域に設定した地震群全体のマグニチュード‐頻度関係がG-R則に従うように各波源断層モデルの平均発生頻度を設定し、定常ポアソン過程を用いて発生確率を求めた。これは従来のPTHAにおける「長期間平均ハザード」の発生確率設定方法に相当する。千島海溝南部のマグニチュード‐頻度関係のモデルとして、まず1923年から2010年までの気象庁一元化震源カタログから千島海溝南部で発生したMw7.0以上のプレート間地震の年発生頻度を0.362と見積り、b値には日本付近での平均的な値として0.9を適用した。同一規模内で位置の異なる複数個の震源域が設定されている場合には、均等重みで各震源域に平均発生頻度を分配することとし、一つの震源域内にすべり分布の異なる複数個の波源断層モデルが設定されている場合には、これも同様に均等重みで各波源断層モデルに平均発生頻度を分配した。
各波源断層モデルの津波解析によって得られた沿岸津波高さと発生確率から、地震毎の津波ハザードカーブを算出し、各地震の発生は互いに独立事象と考えてハザードカーブを統合した。ハザードカーブを計算するにあたり、計算結果に与えるばらつきとして対数正規分布を仮定し、津波の数値解析に伴う計算誤差をこれまでのPTHAと同様に対数標準偏差で0.13とした。またMw8.4以下の地震については、大すべり域の位置の不確実さによるばらつきとして同様に対数正規分布を仮定し、対数標準偏差0.04のばらつきを与えた。Mw8.5以上の地震については、大すべり域の位置を変えた複数個の波源断層モデルを設定しているものの、大すべり域の形状やすべり量の倍率に関する不確実さは波源断層モデルで考慮されていない。このばらつきの大きさについては未検討であるため、本研究では暫定的に対数標準偏差で0.00, 0.05, 0.10, 0.15の4パターンのばらつきを与え、感度解析を行った。ばらつきの対数標準偏差を0.15とした場合には0.0とした場合に対して、30年超過確率10-3のレベルで最大水位上昇量が約1.4倍となり、ハザードカーブへの影響の大きさが示された。
最後に全ての沿岸評価地点で求めたハザードカーブに対して、任意の最大水位上昇量を超過する確率または任意の超過確率における最大水位上昇量の値を参照し、超過確率または最大水位上昇量の空間的分布を地図上にプロットした。最大水位上昇量の空間的分布の結果例として、30年超過確率0.3%を参照した場合(再現期間1,000年相当)、襟裳岬から納沙布岬にかけての沿岸、及び歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島の太平洋岸においてはほぼ全ての沿岸評価地点で最大水位上昇量が10mを超え、青森県・宮城県の沿岸においては3~5m、北海道のオホーツク海岸においても2~3mの最大水位上昇量が算出された。最大水位上昇量3mを超過する確率分布を見ると、襟裳岬から納沙布岬にかけてのほぼ全ての沿岸において30年超過確率が30%を上回り、また一部の地域では最大水位上昇量5mの30年超過確率が30%を上回ることが分かった。この結果は、これらの沿岸で100年に1回程度、5mを超える津波が到達することを意味している。
本研究は、防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。
今回実施した千島海溝南部のPTHAでは、千島海溝南部で過去に発生した地震の震源の規模や位置・形状の情報に依らずに、一定のルールに基づき、千島海溝南部の地震発生領域(十勝沖からシムシル島沖のプレート境界)に敷き詰めるように波源断層モデルを設定した(大嶋・他、本大会)。地震規模はMw7.0から9.4までを評価対象とした。Mw8.4以下の地震については一つの震源域に対して大すべり域の位置が中央に一箇所の1パターンの波源断層モデルを設定し、Mw8.5以上の地震については大すべり域の位置を変えて複数個の波源断層モデルを設定した。
地震の発生確率の算出方法についても、過去に繰り返し発生した地震の平均発生間隔などの情報に依らず、千島海溝南部の領域に設定した地震群全体のマグニチュード‐頻度関係がG-R則に従うように各波源断層モデルの平均発生頻度を設定し、定常ポアソン過程を用いて発生確率を求めた。これは従来のPTHAにおける「長期間平均ハザード」の発生確率設定方法に相当する。千島海溝南部のマグニチュード‐頻度関係のモデルとして、まず1923年から2010年までの気象庁一元化震源カタログから千島海溝南部で発生したMw7.0以上のプレート間地震の年発生頻度を0.362と見積り、b値には日本付近での平均的な値として0.9を適用した。同一規模内で位置の異なる複数個の震源域が設定されている場合には、均等重みで各震源域に平均発生頻度を分配することとし、一つの震源域内にすべり分布の異なる複数個の波源断層モデルが設定されている場合には、これも同様に均等重みで各波源断層モデルに平均発生頻度を分配した。
各波源断層モデルの津波解析によって得られた沿岸津波高さと発生確率から、地震毎の津波ハザードカーブを算出し、各地震の発生は互いに独立事象と考えてハザードカーブを統合した。ハザードカーブを計算するにあたり、計算結果に与えるばらつきとして対数正規分布を仮定し、津波の数値解析に伴う計算誤差をこれまでのPTHAと同様に対数標準偏差で0.13とした。またMw8.4以下の地震については、大すべり域の位置の不確実さによるばらつきとして同様に対数正規分布を仮定し、対数標準偏差0.04のばらつきを与えた。Mw8.5以上の地震については、大すべり域の位置を変えた複数個の波源断層モデルを設定しているものの、大すべり域の形状やすべり量の倍率に関する不確実さは波源断層モデルで考慮されていない。このばらつきの大きさについては未検討であるため、本研究では暫定的に対数標準偏差で0.00, 0.05, 0.10, 0.15の4パターンのばらつきを与え、感度解析を行った。ばらつきの対数標準偏差を0.15とした場合には0.0とした場合に対して、30年超過確率10-3のレベルで最大水位上昇量が約1.4倍となり、ハザードカーブへの影響の大きさが示された。
最後に全ての沿岸評価地点で求めたハザードカーブに対して、任意の最大水位上昇量を超過する確率または任意の超過確率における最大水位上昇量の値を参照し、超過確率または最大水位上昇量の空間的分布を地図上にプロットした。最大水位上昇量の空間的分布の結果例として、30年超過確率0.3%を参照した場合(再現期間1,000年相当)、襟裳岬から納沙布岬にかけての沿岸、及び歯舞諸島、色丹島、国後島、択捉島の太平洋岸においてはほぼ全ての沿岸評価地点で最大水位上昇量が10mを超え、青森県・宮城県の沿岸においては3~5m、北海道のオホーツク海岸においても2~3mの最大水位上昇量が算出された。最大水位上昇量3mを超過する確率分布を見ると、襟裳岬から納沙布岬にかけてのほぼ全ての沿岸において30年超過確率が30%を上回り、また一部の地域では最大水位上昇量5mの30年超過確率が30%を上回ることが分かった。この結果は、これらの沿岸で100年に1回程度、5mを超える津波が到達することを意味している。
本研究は、防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。