[HDS10-P22] 津波遡上解析の空間分解能が確率論的津波浸水ハザード評価へ及ぼす影響
キーワード:南海トラフ、津波遡上解析、津波浸水、確率論的津波ハザード評価
確率論的津波浸水ハザード評価では、発生し得るすべての地震を対象としていることから大量の津波予測計算を実施する必要ある。そのため、10 m計算格子サイズより大きな50 m計算格子サイズなどの比較的低い空間分解能の地形モデルを用いて実施する利点は、計算量の大幅な削減が見込めることにある。津波予測解析の計算量を少なくすることによって、全国に存在する多数の重要地域のほぼすべての沿岸を対象に、確率論的な津波浸水ハザード評価を実行できる可能性もある。一方、欠点としては、地形モデルの空間分解能を低くする際に用いられる不整三角形網(TIN)などの内挿補間によって、地形の微細な起伏や構造物の高さが平滑化されること、また構造物の形状が表現できなくなってしまうことが挙げられる。その結果、津波遡上解析の空間分解能を低くするにつれて、地形の微細な起伏が地形モデルに反映されず津波遡上を阻害する凹凸が少なくなり、浸水面積及び浸水深は大きくなってしまう(村嶋・他、2006;2008、海岸工学論文集)。村嶋・他の検討では、1896年明治三陸地震津波を想定した1シナリオ波源断層モデルを使った津波遡上解析の計算結果を使用しているが、空間分解能の違いが確率論的な津波浸水ハザード評価へ及ぼす影響をさまざまな津波規模で定量化し、その傾向や特徴を調べるためには、多くのシナリオ波源断層モデルを使った計算結果が必要である。
そこで本検討では、南海トラフ沿いを対象とした沿岸の確率論的津波ハザード評価のために構築した計3945個の特性化波源断層モデル(遠山・他、2015、JpGU;平田・他、2015、地震学会)を使い、和歌山市沿岸付近を空間分解能10 m及び50 m計算格子サイズ並びに構造物あり及びなしの条件で地形モデル化し、津波遡上解析をそれぞれの条件で実施した。なお、空間分解能10 m及び50 m計算格子サイズの比較に用いる地形モデルは、河川堤防等の大規模構造物が含まれる航空レーザ測量データをTIN変換によって平滑化された地形モデル(修正なし地形モデル)を作成した。次に、計算した最大浸水深から構築される複数のハザードカーブを比較することで、多数の評価地点で求められる浸水ハザードカーブへの影響を調べた。まず、上述した計3945個の特性化波源断層モデルを使った10 m及び50 mの津波遡上計算によって得られた浸水面積及び最大浸水深を津波規模に対して相関分析を行い、両者の関係性についての特徴や傾向、ばらつきの違いを定量化した。また、修正なし地形モデルだけではなく、構造物のある計算格子の高さを天端高へ修正した地形モデル(構造物あり修正地形モデル)及び構造物を除去し地盤高ヘ修正した地形モデル(構造物なし修正地形モデル)をそれぞれ10m計算格子サイズで作成し、津波遡上解析に用いることで、空間分解能によって表現される構造物の違いが浸水面積及び最大浸水深に及ぼす影響についても調べた。そして、それらの最大浸水深から構築されたハザードカーブを、地形モデルの空間分解能及び構造物条件の違いで比較した。
その結果、村嶋・他と同様に、浸水面積及び最大浸水深は、10 mより50 m計算格子の方が大きくなることを確認した。さらに本検討結果から、津波の規模が大きくなるに伴い10 mと50 m計算格子の浸水面積や最大浸水深の差が大きくなることが分かった。これらの観察事案は、用いる地形モデルの空間分解能の粗密度と津波規模の双方が、浸水面積と最大浸水深に強く影響を与えていることを示唆している。そのため、浸水ハザードカーブの超過確率も浸水深に依らず50 m計算格子の方が大きくなる傾向となった。構造物条件の違いについては、「構造物なし修正地形モデル」を用いた場合の浸水面積及び最大浸水深の値は、「修正なし地形モデル」を用いた場合の結果とほぼ同じとなった。「構造物あり修正地形モデル」を用いた場合は、浸水深が構造物より高くなると、遡上のしやすさが構造物なし修正地形モデルを用いた場合と同じ傾向となった。
浸水面積及び浸水深には、地形や構造物条件などの地域固有の特徴が遡上に作用するため、地域性がある。今後、他の地域を対象に同様の検討を行い本検討結果の地域性について考察する。
本研究は、防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。
そこで本検討では、南海トラフ沿いを対象とした沿岸の確率論的津波ハザード評価のために構築した計3945個の特性化波源断層モデル(遠山・他、2015、JpGU;平田・他、2015、地震学会)を使い、和歌山市沿岸付近を空間分解能10 m及び50 m計算格子サイズ並びに構造物あり及びなしの条件で地形モデル化し、津波遡上解析をそれぞれの条件で実施した。なお、空間分解能10 m及び50 m計算格子サイズの比較に用いる地形モデルは、河川堤防等の大規模構造物が含まれる航空レーザ測量データをTIN変換によって平滑化された地形モデル(修正なし地形モデル)を作成した。次に、計算した最大浸水深から構築される複数のハザードカーブを比較することで、多数の評価地点で求められる浸水ハザードカーブへの影響を調べた。まず、上述した計3945個の特性化波源断層モデルを使った10 m及び50 mの津波遡上計算によって得られた浸水面積及び最大浸水深を津波規模に対して相関分析を行い、両者の関係性についての特徴や傾向、ばらつきの違いを定量化した。また、修正なし地形モデルだけではなく、構造物のある計算格子の高さを天端高へ修正した地形モデル(構造物あり修正地形モデル)及び構造物を除去し地盤高ヘ修正した地形モデル(構造物なし修正地形モデル)をそれぞれ10m計算格子サイズで作成し、津波遡上解析に用いることで、空間分解能によって表現される構造物の違いが浸水面積及び最大浸水深に及ぼす影響についても調べた。そして、それらの最大浸水深から構築されたハザードカーブを、地形モデルの空間分解能及び構造物条件の違いで比較した。
その結果、村嶋・他と同様に、浸水面積及び最大浸水深は、10 mより50 m計算格子の方が大きくなることを確認した。さらに本検討結果から、津波の規模が大きくなるに伴い10 mと50 m計算格子の浸水面積や最大浸水深の差が大きくなることが分かった。これらの観察事案は、用いる地形モデルの空間分解能の粗密度と津波規模の双方が、浸水面積と最大浸水深に強く影響を与えていることを示唆している。そのため、浸水ハザードカーブの超過確率も浸水深に依らず50 m計算格子の方が大きくなる傾向となった。構造物条件の違いについては、「構造物なし修正地形モデル」を用いた場合の浸水面積及び最大浸水深の値は、「修正なし地形モデル」を用いた場合の結果とほぼ同じとなった。「構造物あり修正地形モデル」を用いた場合は、浸水深が構造物より高くなると、遡上のしやすさが構造物なし修正地形モデルを用いた場合と同じ傾向となった。
浸水面積及び浸水深には、地形や構造物条件などの地域固有の特徴が遡上に作用するため、地域性がある。今後、他の地域を対象に同様の検討を行い本検討結果の地域性について考察する。
本研究は、防災科研の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。