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[HDS11-05] 平成29 年7月九州北部豪雨における火山地域等での植生と土砂災害の関係
キーワード:平成29 年7月九州北部豪雨、植生、土砂災害
平成29年7月に発生した九州北部豪雨では,福岡県朝倉市周辺から大分県日田市にかけて,多数の斜面崩壊とそれにともなう土石流が発生した.特に花崗岩や変成岩が分布する朝倉市を中心とした地域では,最大時間雨量129.5mm,累積雨量586.0mmの豪雨にともなって,山地の大部分の範囲で斜面の表層崩壊が発生した.火山岩類が優勢である東峰村から日田市にかけては,朝倉市周辺に比べて降雨量が少なかった(最大時間雨量87.5mm,累積雨量402.5mm)が,比較的崩壊深度や崩壊規模の大きな斜面崩壊が発生した.また朝倉市周辺では,土石流とともに多数の流木が河川に流入し,それにより河川の氾濫の影響が甚大になったとの報道もある.一方で,日田市周辺は従来,林業が盛んな地域であり,森林がよく管理されていると考えられる.以上から,比較的降雨量が少なかった火山岩分布域でやや崩壊深度,規模が大きい斜面崩壊が発生した原因を究明することを目的として,主に火山岩類分布域における斜面崩壊と植生の関係について検討した.
日田市の小野地区,鶴河内地区,清水元地区および東峰村の宝珠山地区の4か所で発生した中~大規模な斜面崩壊箇所について,現地調査により地質構造と崩壊地周辺の植生(胸高直径と樹幹間隔)を確認し,崩壊前後の空中写真判読から植生の特徴を把握した.その結果,いずれの地区においても,崩壊斜面の下部にはブロック・アンド・アッシュフロー堆積物や軽石流堆積物,火山泥流~土石流堆積物などの火山砕屑岩類が分布し,その上位に安山岩質のブロック状溶岩や塊状溶岩または新鮮な安山岩岩塊を含む崖錐堆積物が分布しており,この上位に分布する溶岩や岩塊を含む崖錐堆積物部が崩壊源となっていることを確認した.崩壊源下部の溶岩のクリンカー部や火山砕屑岩類に古い地すべり粘土が認められた.植生については,いずれの地区でもよく整備された針葉樹の植林であり,胸高直径から小野地区,清水元地区の針葉樹は樹齢30~50年程度,鶴河内地区は10~30年程度と推定された.鶴河内地区,清水元地区の崩壊源周辺では針広混交林が分布し,宝珠山地区の崩壊源には樹齢5年程度の若齢の針葉樹が分布した.空中写真からは清水元地区,宝珠山地区の崩壊源付近が崩壊前から周囲に比べて粗な植生であったことが確認できた。
上述のように,当該地は伝統的に林業が発達する地域で,良質の木材となるスギやヒノキが主に育成されており,管理もされている.今回の豪雨では植生による崩壊規模等の顕著な違いは,これまでの調査では確認できていない.一方で,特に火山岩地域での比較的規模の大きな崩壊箇所は,上述のように類似の地層構造を呈しており,この構造に支配されて崩壊が発生したと推定される.このような大規模な崩壊は,根茎深さ以上の深さですべりが生じるため,植生に関係なく発生すると考えることもできる.表層崩壊も見られるが,樹種よらずに崩壊が発生している.今回の豪雨は観測史上最大の雨量を示した降雨であり1),森林管理や植生に起因するものではないと言える.しかしながら,崩壊の源頭部は森林管理の範囲外と推定される針広混合林あるいはスギ幼齢林である.このことは植生が斜面崩壊に何らかの影響を与えることを示唆しているのかもしれない.
今後は気候変動により,今回同様のあるいはより大規模な豪雨が起こりうると考えられる.放置された人工林の斜面崩壊の報告は多数あるが,今回のように管理されている森林についても崩壊による流木とそれによる甚大な被害が確認された.また,今回の火山岩地域の崩壊については地質に支配されているところも大きかった.今回の豪雨による斜面崩壊事例をもとに,深成岩及び変成岩,火山岩類などの地質区分ごとに,表層崩壊や大規模な崩壊を発生させる外力となる降雨量,降雨パターンを明らかにすることが必要である.さらに,これらの崩壊の発生を緩衝することができる植生条件を解明し,その条件を保持するための森林管理のあり方について検討する必要があると考える.
日田市の小野地区,鶴河内地区,清水元地区および東峰村の宝珠山地区の4か所で発生した中~大規模な斜面崩壊箇所について,現地調査により地質構造と崩壊地周辺の植生(胸高直径と樹幹間隔)を確認し,崩壊前後の空中写真判読から植生の特徴を把握した.その結果,いずれの地区においても,崩壊斜面の下部にはブロック・アンド・アッシュフロー堆積物や軽石流堆積物,火山泥流~土石流堆積物などの火山砕屑岩類が分布し,その上位に安山岩質のブロック状溶岩や塊状溶岩または新鮮な安山岩岩塊を含む崖錐堆積物が分布しており,この上位に分布する溶岩や岩塊を含む崖錐堆積物部が崩壊源となっていることを確認した.崩壊源下部の溶岩のクリンカー部や火山砕屑岩類に古い地すべり粘土が認められた.植生については,いずれの地区でもよく整備された針葉樹の植林であり,胸高直径から小野地区,清水元地区の針葉樹は樹齢30~50年程度,鶴河内地区は10~30年程度と推定された.鶴河内地区,清水元地区の崩壊源周辺では針広混交林が分布し,宝珠山地区の崩壊源には樹齢5年程度の若齢の針葉樹が分布した.空中写真からは清水元地区,宝珠山地区の崩壊源付近が崩壊前から周囲に比べて粗な植生であったことが確認できた。
上述のように,当該地は伝統的に林業が発達する地域で,良質の木材となるスギやヒノキが主に育成されており,管理もされている.今回の豪雨では植生による崩壊規模等の顕著な違いは,これまでの調査では確認できていない.一方で,特に火山岩地域での比較的規模の大きな崩壊箇所は,上述のように類似の地層構造を呈しており,この構造に支配されて崩壊が発生したと推定される.このような大規模な崩壊は,根茎深さ以上の深さですべりが生じるため,植生に関係なく発生すると考えることもできる.表層崩壊も見られるが,樹種よらずに崩壊が発生している.今回の豪雨は観測史上最大の雨量を示した降雨であり1),森林管理や植生に起因するものではないと言える.しかしながら,崩壊の源頭部は森林管理の範囲外と推定される針広混合林あるいはスギ幼齢林である.このことは植生が斜面崩壊に何らかの影響を与えることを示唆しているのかもしれない.
今後は気候変動により,今回同様のあるいはより大規模な豪雨が起こりうると考えられる.放置された人工林の斜面崩壊の報告は多数あるが,今回のように管理されている森林についても崩壊による流木とそれによる甚大な被害が確認された.また,今回の火山岩地域の崩壊については地質に支配されているところも大きかった.今回の豪雨による斜面崩壊事例をもとに,深成岩及び変成岩,火山岩類などの地質区分ごとに,表層崩壊や大規模な崩壊を発生させる外力となる降雨量,降雨パターンを明らかにすることが必要である.さらに,これらの崩壊の発生を緩衝することができる植生条件を解明し,その条件を保持するための森林管理のあり方について検討する必要があると考える.