日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境の利用・変化・管理:社会科学と地球科学の接点

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:古市 剛久(北海道大学農学研究院)、佐々木 達(宮城教育大学)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科、共同)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)

[HGG01-P03] 壱岐島の農村集落における屋敷林の機能の変容

*石坂 美帆1吉田 美祐2小倉 拓郎3青木 賢人2 (1.金沢大学人文学類地理学専門分野、2.金沢大学地域創造学類環境共生コース、3.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:屋敷林、多面的機能、集落景観、維持管理、壱岐

長崎県壱岐島の農村集落には特徴的な屋敷林が見られる.それは背戸山(セドンヤマ)と呼ばれ,伝統的な農村景観を作り出している.壱岐の農家の人々が背戸山と密接に関わり合いながら生活した結果,維持されてきた.現在も壱岐島の農村集落では背戸山を見ることができる.しかし,その詳細な管理実態や利用状況についての研究は見られない.また,背戸山の歴史を整理すると背戸山は壱岐の伝統的農村景観を作る一つの要素として捉えることが可能であり,背戸山を持つ家の減少は伝統的な農村風景が失われていくことに繋がるにも関わらず,壱岐島でも背戸山の認知度が低い.そこで本研究では背戸山の形成過程および管理,利用実態の解明を目的とした.まず,文献から背戸山の成立した経緯を整理した.また,現地で聞き取り調査,アンケート調査,観察調査を実施し,背戸山を構成する樹種,過去と現在の背戸山の利用状況,管理実態を明らかにした.それらの結果をふまえて,現在背戸山が住民にとってどのような位置づけがなされているのかを考察した.
 アンケートや聞き取り調査から,背戸山は屋敷林と位置づけられることが明らかとなった.屋敷林は宅地周辺に人の手によって植栽された二次植生で,防風,燃料や食料の採取など生活と密接に関わる様々な役割を果たす.背戸山が成立したとされる江戸時代後期から1950年代頃にかけて燃料や食料の入手源,風よけ,境界,家の目隠し等複数の役割を果たしていたこと,家の敷地内に家を覆うようにして存在していることが,背戸山が屋敷林である根拠といえる.しかし,現在では防風効果が背戸山の主としての役割であるとも指摘されており,住民が期待している背戸山の役割の減少が明らかとなった.背戸山に対する住民の意見は,肯定的な意見と否定的な意見の二つに分けられた.肯定的に捉える住民側からは,防風効果を期待する意見や,先祖代々のものだからいつまでも引き継いでいきたいという意見が挙がった.一方,背戸山に対してその維持管理の手間から否定的なイメージを抱いている住民も存在し,昔の麦藁屋根の家に比べると現在は家の造り自体が風に耐えられるようになっているため防風効果の必要性が希薄になってきたという意見や,維持コストが高いという意見が出た.そのため,非現実的ではあるが,背戸山を無くしてしまったほうが良いという意見もあった.
 現在は,従来期待していた屋敷林としての機能の利用が見られない上に,維持管理が背戸山を所有する住民の負担となっているため,結果として背戸山を持つ家の減少に繋がると考えられる.ただ,背戸山に対して否定的な住民ばかりではないため,一概に背戸山が減少していくとは言い難い.背戸山の保全に関わる活動は見られなかったため,背戸山の減少は自然の流れとして止められない事象であるのかもしれないが,今後も背戸山を維持していきたいのであれば,維持管理をするに値する要素を見出す必要がある.また,新しい要素の発見以外にも,現在果たすとされる役割を強める必要があるだろう.今後は背戸山の実態のより詳細な調査とともに,背戸山の所有の有無での防風効果の比較,検討が必要である.