日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境の利用・変化・管理:社会科学と地球科学の接点

2018年5月20日(日) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:古市 剛久(北海道大学農学研究院)、佐々木 達(宮城教育大学)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科、共同)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)

[HGG01-P04] GPSを用いた小規模漁業活動調査法

*松井 歩1,2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科地理学講座、2.日本学術振興会特別研究員DC)

キーワード:小規模漁業、漁業活動調査、GPS

本報告ではGPSログデータの分析と時間地理学的アプローチによる小規模漁業の漁業活動調査法を提案する.漁業者の漁場での活動は,基本的に直接観察以外での分析が困難であるとされており,直接観察には必要な労力の大きさや物理的に調査対象数が限られることなどの制約が存在する.これらは生態人類学的な漁場利用研究と陸域での文化,社会経済条件の分析との接合を困難にしてきた一因であり,方法論上での克服が求められる.また,漁業活動に対する時間地理学的なアプローチは先行研究でも散見され,これらの研究では,聞き取り調査や漁業日誌の分析などにより漁業活動の時空間的展開が議論されてきた.GPSロガーを用いることでこれらの時間地理学的な研究でもより精度の高い情報に基づいた議論が可能となることが期待される.GPSロガーの設置により,出漁/帰港時間,活動航路,ログ間の移動距離に基づく速度データ,出漁ごとの航路距離が取得できる.分析の手順は以下のようになる.
(1)ログデータの取得
 GPSログデータの取得にはmobile action社GT-600(ログ間隔45秒,以下,ロガー)を用いた.対象者とロガーの設置期間は7隻,5日間から16日間である.設置場所はデッキの魚群探知機やGPSのアンテナ部分を基本に,漁船ごとに衛星を補足しやすい位置を選定して設置した.ロガーは動作検知により漁船の速度が約8 km/h以上になった時点でトラックの記録を開始し,動作を検知できなくなり一定時間が経過すると記録を終了するよう設定した.
(2)ログデータのインポートとデータの整理・加工
 取得されたログデータ(.gpx形式)はGPS管理ソフトであるmy tracksを用いて整理した.まず,トラックを出漁1回毎に分割する.本研究では出漁/帰港を,速度データが連続的に動き出した最初のログを出漁時間,活動後に漁船の係留場所へ達し,速度が0 km/hとなったログを帰港時間と認定した.また,活動と関係なく潮汐やロガー自体の誤作動により記録されたログはこの時点で削除する.以上の処理を施したトラックをcsv形式でエクスポートし,以下の処理はエクセル上でおこなう.csvファイルには全てのログについて,時刻,緯度経度,標高,速度が含まれる.このうち,標高データは一定となるため削除し,標高のカラムには出漁時刻を基準とした経過秒数を代わりに入力した上で,csvファイルとしてエクスポートする.
(3)時空間パスの作成
 加工したcsvファイルをArcGISにインポートし,ポイントデータからラインデータを作成した後に3D analystを用いて描画する.出漁時刻を基準とした経過時間を標高として描画するため,時間の経過とともに標高の上がる海上での活動パスを得られる.以上をベクタデータとして,illustratorへエクスポートし,縦軸を時間軸として加工する.
(4)活動の解釈
 海上での活動は,トラックの速度データをもとに解釈する.速度データは(2)において加工したものを用いるが,速度データに多くの場合通常の活動では起こり得ない急加速が記録されていたため,2点間(5秒)で15 km/h 以上の加速が認められた場合,外れ値としてログを削除した.本事例では,実際の乗船調査によって得た対象漁業種類ごとの海上での活動と速度の推移をもとに,トラックの活動解釈をおこなった.事例地域における漁家漁業は2人,もしくは単身操業を基本とするため,網上げや漁獲物の仕分けなどの作業中は漁船が停泊状態となる.また,漁港から漁場,もしくは漁場間の移動では30~40 km/h の高速で移動するのに対し,漁場到着後は2 km/h ~10 km/h の低速での移動となる.これらの記録をもとに,速度データの推移から活動を解釈し,(3)で作成した活動パスと合わせると図のように漁業者の海上での活動を表現することが可能である.
 以上の手順から,参与観察に必要な労力を抑えながら漁業活動調査を実施することが可能となる.GPSロガーによる小規模漁業活動調査にはロガーの数を増やすことで多様な主体の資源へのアクセス活動を同時に把握することができること,漁業仕切書の分析と統合することで単位努力量あたり漁獲量(Catch Per Unit Effort)を高精度に計算できることなどのメリットが存在する.一方で,あくまで解釈には乗船調査で取得する基礎データが必要であり,ログデータ単体での議論が困難である点,また漁獲の投棄や作業分担などを把握することができない点には注意する必要がある.