日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2018年5月23日(水) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)、島津 弘(立正大学地球環境科学部地理学科)、座長:八反地 剛

09:00 〜 09:15

[HGM03-01] 福島県における除染が斜面からの土砂移動特性へ与える影響

*小塚 翔平1恩田 裕一2加藤 弘亮2脇山 義史3酒井 直樹4 (1.筑波大学生命環境学群地球学類、2.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター、3.福島大学環境放射能研究所、4.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:除染活動、土壌侵食、Radio-frequency identification (RFID)、無人航空機 (UAV)、多視点ステレオ写真測量 (SfM)、人工降雨実験

福島県では、環境省や自治体によって、福島第一原子力発電所事故にともなって陸域に沈着した放射性物質の除染活動が行われてきた。環境省の直轄除染では、農耕地の表層数 cmの土壌を剥いで除去し、代わりに放射性セシウム濃度が低い山砂の客土が行われた。そのような除染方法は表層土壌を撹乱するだけでなく、土壌の粒度組成や団粒特性を変化させるために土壌侵食プロセスに影響を及ぼすことが懸念される。しかし、除染活動が土壌侵食量や侵食土砂の移動メカニズムに及ぼす影響は十分に明らかにされていない。
 近年、RFIDタグと呼ばれる小型のICチップを土壌粒子のトレーサーとして用いて、土壌粒子一つ一つの移動距離を解析する技術が提案されている。また、近年の技術の発達により、UAV-SfM手法 (Unmanned Aerial Vehicle-based Structure from Motion) に基づく空間計測や地形測量が広く用いられている。そこで本研究では、福島県内の未除染及び除染済みの放棄耕作地に設置した土壌侵食プロットにおいて、RFIDタグとUAV-SfM手法を併用して侵食土砂の移動距離を計測することで、除染活動が侵食土砂の移動距離に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。また、土壌侵食プロットからの水土砂流出量の観測を行い、さらに大型降雨実験施設を用いた侵食実験により、除染活動が土壌侵食プロセスに及ぼす影響を明らかにした。
 本研究では、福島県内の3箇所に除染状況が異なるUSLE型土壌侵食プロット (22.1 m×5 m) を3 (除染前プロット、除染プロット、造成地プロット) 設置した。土壌侵食プロットは、除草剤を用いて雑草等を除去し裸地化した。土壌侵食プロットの上端から斜面を横切る方向に2 mごとにRFIDタグを10個ずつ設置し、定期的にRFIDタグの移動状況を調査した。RFIDの位置の測量には、ドローンを用いて地上5-10 m高度から地表面を空撮し、UAV-SfM手法によって高密度3次元点群データとオルソ画像を生成した。オルソ画像に基づいて、RFIDタグの平面座標上の位置を計測した。なお、UAV-SfM手法によるRFIDタグの位置測量精度は27 mmである。調査対象期間は2017年7月~10月で、その期間中に4回の現地調査を実施した。
 土壌侵食プロットの土壌の粒度組成は、除染活動によってシルト成分が減少し、砂成分が増加した。また、耐水性団粒の平均重量直径は除染後のほうが小さかった。水文観測の結果から、除染活動により土壌侵食プロットからの土砂流出量が減少した。このことから、除染活動により土壌が粗粒化することで、土砂が運搬されにくくなったり、団粒性が弱くなったことでクラストが形成されづらくなり、土壌の浸透能が上昇したことが推察された。また、RFIDタグの輸送距離について解析を行ったところ、インターリル域での土砂の移動距離は、造成地では中央値で0.0175~0.133 mだったのに対し、除染後では0.0187~0.0679 mと短いことが分かった。さらにDSMデータの解析ではリル侵食の発達は確認されず、リル域を通じて輸送される土砂量が減少したことが示唆された。
 大型降雨実験施設において、2種類の人工降雨条件下(100, 200 mm h-1)で侵食実験を行った。除染地を再現した山砂プロットと、除染される前の農耕地プロットの2つの侵食プロットを作成し、RFIDタグによる土砂の移動距離の計測と、水土砂流出量の測定を行った。その結果、山砂プロットの方が土砂流出量が多い結果となった。また、DSMデータによる地表面起伏変化の解析結果から、山砂プロットでは激しいリル侵食生じたことが明らかになった。
 以上より、除染地では砂成分が多く、団粒性が弱いためにクラスト化しづらく、表面流が出にくくなった。その結果、土壌侵食量及び土砂移動量が減少した。一方、そうした土壌特性の変化は土壌のせん断強度を低下させ、豪雨時にはリル侵食による土壌侵食量の増加が予想された。